生命の歴史を見つめる、何か超越的な存在としての竜

 古来より世界の頂点に君臨し続ける竜と、他の小さな生き物たちの紡ぐ、生命の歴史の物語。
 おそらく現実の世界を舞台に、『竜』という存在を登場させたお話です。いわゆるローファンタジーなのですけれど、雰囲気そのものは非常に寓話的というか、どこかおとぎ話にも似た手触りであるところが特徴的でした。
 例えば序盤、主人公であるところの竜が、魚やネズミと対話するところなど。牧歌的なお話かと思いきや、物語自体はかなり壮大なもので、空や翼を象徴的に扱いながら、生命の進化から文明の発達について描き出しています。
 タイトルが好きです。より正確にはタイトルが表しているものというか、「この物語全体に通じる主軸」を捉えている感じが好き。翼を得て空を飛ぶ、という行為に感じるロマンや憧れ。あるいは小さな動物にとっては必要に迫られてのこと、もっと単純に危機回避のための行為だったりもするのですけれど。
 空に対する何か特別性のような感情は、あくまで飛行能力を持たない生き物だからこそ抱くもので、つまりそれこそまさしく「空を見上げるもの」。私たち人間もそのひとつで、しかしこのお話の視点を担うのは、むしろ空から見下ろす側の存在であるという、その逆転というか配置の妙のようなものがとても響きました。竜から見た小さな生き物たちのお話で、しかし本当の主人公はむしろその小さな彼らの側なのだという、もううまく言えないんですけどその辺が本当に綺麗。
 とはいえ、なんやかや竜自体も魅力的なのですけれど。単純に超越的な強者としての魅力もありますし(竜って単純に格好いいですよね)、またそれ以上に彼個人の思考も楽しい。悩んでみたりいたずら心を起こしてみたり、これを「人間味」なんて言っては僭越ですけれど、しっかり彼自身の個性のようなものを感じられる。ほのぼのとした雰囲気でありながら、しかし気づけば壮大な流れの中に放り込まれている、スケールの大きな寓話風ファンタジーでした。