第3話

 芸能人にしてはファンと距離を置かない人だなと思いつつソーシャルメディアから始めた友達付き合い。実際に会ったのはこれで2度目。確かに彼女から前述の話を聞いたことがある。だが不思議ちゃんで癒し系の彼女の言うことだからと真に受けず聞き流していた。


「誤解があるようなので説明します。現在世界に純血のヴァンパイアって存在しないんです。だから、あたしも牙で噛みつくとか出来ないし、普通に食事も出来るんです」

「なら殺人を犯す必要は無いはずじゃないですか」

「ノビノリさん、DVD観たんですよね」

「途中で気持ちが悪くなって」

「じゃあ、あたしと最後まで見よ?」


 ヒカリさんの笑顔に押し切られDVD視聴再開。

「ほら、よく見て。男の預金通帳にディーサプライ社からの振り込みがあるじゃないですか」

「これが何か?」

「ディーサプライ社はCIAが日本に設立したダミーカンパニー。つまりこの男はCIAのエージェントだったんです」

「そのCIAとヒカリさんとなんの関係が」僕は茫然としながらも質問した。

「アメリカにもおじいちゃんの血族はいて、たまに問題が起きているんですが、そこでワシントン政府が1987年に『5代前にドラキュラ伯爵がいれば人間とは見なさない』と定義付け、西側各国もそれに従ったんです。でも実際には一番古くて4代前」


「ヒカリさんはアメリカでは人間扱いされないんだ」

「アメリカだけじゃなくEU及び英国でも。そしてロシアでの5代目誕生を重く見たCIAが4年前スクールバスを爆破。普通の子供26人及び運転手1人が巻き添えに。それ以降私の属する組織、ヴァンパイア・ステイト、略称VS評議会もCIA職員に限り殺害して血を飲んでいいと決議しました」


「それって要するに暗殺ですよね?なんでDVDにして僕に送ってきたんです?というかDVD作成の必然性は?他の人達はなんなんですか?」

 興奮気味の僕をヒカリさんが押し止めた。

「お察しの通りVS構成員はテレビ業界にもいます。彼等は現在逃亡中。何故ならこの動画はバージニア州ラングレーのCIA本部に犯行声明として送付したから」

「じゃあヒカリさんも逃亡中……」

「はい、ノビノリさんのお宅に逃げてきました」


「こんな動画見せられたらCIAの中の人が激怒して殺しに来るじゃないですか。やはり郵送で?」

「メールにファイルを添付して送りつけたからもう分析は始まってると思います」

「出来れば帰って……」

 ヒカリさんはフェイクファーのコートをはだけた。黒のビキニ。コートの内側に自動拳銃とその予備弾倉のようなもの。僕は戦争に巻き込まれたんだと悟り、「欲しいんですけど」と最後まで言うのを諦めた。

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