Vampire State(略称VS)は繁栄している

スリムあおみち

第1話

 僕は渋谷ノビノリ。卒業後の進路に悩む大学3年生。塾講師のバイトから帰ると、家賃6万築25年の僕が住むアパートの入り口にある郵便受けに封筒が差し込まれていた。差出人名表記なし。開封してみるとDVDが入っていた。ケースに「突撃隣の晩御飯Vol14」と黒マジックで手書き。


 この前終わった深夜のバラエティ番組と同じタイトル。しかしあれはVol13、つまりワンクールで打ち切りになったはず。そう思いつつ僕はパソコンでそのDVDを視聴することにした。


 タイトルと聴き慣れたオープニング曲が流れ、司会の若手漫才師とアシスタントの天然癒し系グラビアアイドルがカメラに向かって「とつげきとなりのばんごはんー!」と元気な笑顔で絶叫。夜の寂れた住宅街を喋りながら歩く2人。


 漫才師に話しかけるグラビアアイドル。彼女の名前はヒカリ。実は全く知らない人物ではない。実際に会ったことがあるからだ。


「トムトムさん、今夜のおかずはなんでしょう?」

「そら僕にきまってるがな。奥さん観てますか?」やや胸を張る漫才師。

「なんの話?」不思議そうな面持ちで漫才師の顔を覗き込むヒカリさん。それを気にせず話を続ける漫才師。

「で、晩のおかずが君やねん」

「なにそれ意味わからないですよー」


 ボケるヒカリさんの頭をハリセンで叩く漫才師。「いったあい」と頭を押さえる彼女。


「ええ年こいてぶりっこすんなや」

「だって分からないものは分からないもん」頭をさすりつつヒカリさんは漫才師の顔を軽くにらみつけた。

「君年なんぼや」

「今月の26日で19歳でーす」

「それで分からない?」

「分からないから教えて」

「いつ、どこで?」

「今ここでー」

「それはちょっと出来んなあ」漫才師はわざとらしく頭を掻いた。

「あははやっぱりー」


 再びハリセンが彼女の頭に炸裂。

「そのやっぱりー、は知ってる人のやっぱりー、やんか」

「それは、また後で。現場に到着しました」


 マンションの入り口前に立つ2人。ヒカリさんは慣れた様子で暗証番号を押し、自動ドアの前に立つとドアが左右に開いた。2人はエレベーターに乗り、階数は不明だがある部屋の前に立った。


「インターホン押してみ」

 小声でヒカリさんに指図する漫才師。無言でうなずき、三度ボタンを押す彼女。


 ドアが開いた。公務員風男性30代後半が2人の顔を見て凍りついた。

「はじめまして、突撃隣の晩御飯っていう番組の司会をやってるトムトムとヒカリと申します」


 男性に頭を下げながら部屋に上がり込む2人。後ずさる男性。

「あたしたちのこと、ご存じですよね」ヒカリさんが念を押すように男性に訊いた。

「なんでここが分かったんだ」

 あからさまに怯える男性。震える膝。


 ヒカリさんは笑顔を保ちつつ男性に歩み寄り、それまで着ていたフェイクファーのコートをするりと床に落とした。身につけられているのは黒のビキニの上下のみ。


 彼女がすっと右腕を動かしたら公務員風男性の首がちぎれそうなほどに切れた。即死。天井に噴き上がる血。ヒカリさんの右手には青龍刀。

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