第35話 変態の烙印

 俺達は無事初クエストを終えて馬車で帰っていた。クレアとエミリーの席には道具屋で買ったふわふわのクッションが敷いてあった。俺の席には俺のマントを四角に折りたたんだものが敷かれていた。これでも何もないよりは大分ましだ。


 何故俺だけクッションがないのか……それはベラシーの森を出たときにクレアが放った一言がきっかけだった。


「そういえばレイン。今回の変態行為で三つ目になったから」


 三つ目? 何がだ? 確か何日か前に二つ目とか聞いた気がしたが……


「変態行為って? レインまた何かしたの?」


「聞いてよ! レインったらエミリーが必死に戦ってるときに風の魔法で私のスカートを捲ろうとしたのよ!」


 クレアは顔を赤らめながら訴えていた。恥ずかしいなら言わなきゃいいのに……


「あぁ通りで、あの緊張感の中でニヤニヤしてたのね」


 エミリーも納得しないでほしい……


「だからわざとじゃないっていってるだろ」


「仮にそうだとしても、私のぱ、ぱんつを見たのは、か、かわりないんだから三つ目は変わりないのよ」


 ますます顔が赤くなっていく。だから言わなきゃいいのに。


「そもそも三つ目ってなんだよ」


「私を怒らせた回数よ! 私も我慢できる大人になったのよ。でも我慢も三回までよ。仏の顔もなんとやらって言うじゃない」


 なるほど……以前に比べたら大きな成長かもな。今まではすぐ手が飛んでくるか罰を与えられたものだが……でも三つ目だからって三倍になったりしないだろうな。三倍の罰を想像してしまい少し身震いしてしまった。


「そ、それで今回三つ目になったんだろ? 一体どうするんだよ」


「……何も考えてない。そのうち思いつくから楽しみに待ってなさい」


 罰を楽しみに待つ奴なんているのだろうか……言っておくが俺はドMというわけではないのだ。


「あっ、出発する前に道具屋へ寄っていきましょう。お腹もすいたし何か買っていきましょう」


 と言って、俺達の話をにこやかな表情で聞いていたエミリーが店の中に入っていったので俺達もついていくことにした。


「へぇ、意外に色んなものが置いてあるんだな」


 店自体は小さく古い建物だったが、店中は綺麗に整頓されており、様々な物が陳列されている。ポーションや毒消し草、水や食料、武器までも売ってあった。


「あっ!」


 クレアが急に大声を上げた。


「どうしたんだよ。お店に迷惑だろ」


「エミリー、これ買いましょう」


 クレアが手にしているのは一人用の柔らかそうな花柄のクッションだった。クッションが置いてあった場所に説明文が書いてある。


『馬車での長距離移動でお尻の痛いあなた! このクッション一つでお悩み解決! 旅のお供に是非一つ持っていって下さい』


 おぉ! 確かに来るときは大変だったからな。特にクレアが。しかも値段も安い。これなら三つ買えそうだ。


 エミリーもクッションの存在を確認すると、


「でかしたわ、クレア」


 と言ってパンダの描かれたクッションを手にしていた。


「店員さーん、これ三つください」


 カウンターに立っていた若い店員のお姉さんは申し訳なさそうに答えた。


「すいません、そのクッションは置いてある分で売り切れなのです。新人ハンターの方は必ず買っていかれますのでいつも品切れ状態なんですよ……」


 置いてある分? まさかと確認するとクレアとエミリーが持っている分でクッションは無くなっていた。


「しょうがないわね。レインは諦めて!」


「なんでだよ! 俺だって痛いんだぞ」


 別に女性二人と争う気はなかったが、一方的に決められてすこしイラっとして反発してしまった。俺がエミリーをチラッと見ると、その視線に気づいたエミリーはギュッとクッションを握りしめた。


「私だって痛かったのよ。我慢してただけで、お尻なんて真っ赤なんだから……見る?」


 そう言って、俺の方にお尻を向けてくる。


「み、みませんよ」


 俺の方が恥ずかしくなり、声が上ずってしまった。


「やっぱり変態……」


 クレアがボソッと呟く。


 すっかりこのクエストですっかり変態の烙印を押されてしまったらしい……無実なのに……これこそ冤罪だ!誰か裁判を開いてくれ!


「もう! 男のくせにうじうじうるさいわね! いいわ。だったらこれを三回私を怒らせた罰にするわ。これで文句ないわね」


 文句がないわけではないが、諦めよう。そもそもこの二人から大事そうに抱えるクッションを取り上げることはできない。それにこれで罰を受けなくて済むのはラッキーかもしれない。


「わかったよ。それで手を打つよ」


「ふん、やっと諦めたようね。最初からそう言えばいいのよ、バカ!」


 クレアは怒ったように言ってはいるが、顔はにやけていた。それほど自分のものにできて嬉しいのだろう。


 そんなことがありながら、ようやくアイスライトの平民街に着くことができた。俺のお尻は見ることはできないが真っ赤になっているに違いない……

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