第14話 異議あり!!

「でもねレイン君、状況は非常にまずいわ」


「え? 何がですか?」


 どうやらクレアが生きていると分かって安心して、自分の状況を正確に理解していなかったようだ。


「君はこのままだと死刑になる」


「ど、どういうことですか」


 今度は自分の死を覚悟しなくてはいけないようだ。


「上は君とボルタは共犯だと見ているのよ。いや共犯にしようとしていると言った方が正しいかな。英雄であり、重役であるザワードが殺され、さらに犯人を逃がしたとなれば国の面目が丸潰れだからね。せめて共犯者を捕まえたということで体制を整えたいんだと思う」


「そ、そんな」


 絶望感が襲う。こんな所で死んでしまうのか。せめてクレアに気持ちを伝えたかったな。


「だが諦めるにはまだ早いよ。この国にはちゃんと裁判制度があるんだ。そこで身の潔白を証明できれば何とかなるかもしれないわ。ただ、裁判は明日なんだ」


「明日!? そんな、でもどうやって潔白を証明すれば」


「それが問題ね。せめてクレアさんの意識が戻っていれば証言してもらえるかもしれないのに」


 クレアがいたら助けてくれただろうか。父親を殺した男の息子を。


「とにかく、私の方でも色々とやれることはやってみるから。君はとにかく否定して」


「はい、分かりました。俺を信じてくれてありがとうございます」


「私はさっきも言ったと思うけど人を見る目だけは自信があるんだ。ボルタも出会ったころはレイン君と同じいい目をしていたのにね」


 エミリーは昔を懐かしむように呟いた。父さん、昔なにがあったんだろうか。


 そして裁判の日を迎えた。


「被告人、レイン前へ」


 俺は細長い部屋の中央に立たされる。前方の長い机には三人の裁判官が座っている。左にある長い机にはどこかの貴族だろうか。きらびやかな衣装を着た男が一人で座っている。右にある長い机にはエミリーが座っている。この三人の裁判官により今日俺が有罪となり死刑となるのか、無罪になり外の世界に戻ることができるのかが決まるのだ。


 一応、裁判所は国とは別の機関となっているのでいくら国の王といえども罪を侵せば捕まるらしい。俺の意見を聞かずいきなり死刑ということはないようだ。


「ではこれより国家反逆罪に問われているレインの裁判をおこなう。では問われた犯罪の説明を頼む」


「はい」


 左に座っていた金髪でややぽっちりした中年の男性が立つ。


「ザワード氏は共に国を守る貴族であり、私の友人でした。その友人を殺した罪人は許さない。そこにいるレインは元アイスライト騎士団の一人であったボルタの一人息子です。ボルタは殺害されたザワード氏に恨みがあり、復讐の機会を伺っていたようです。そこで息子のレインが魔法の才能に目覚めたことで共にザワード氏を討つ計画を立て実行したと思われます」


 説明を終え、椅子に座る。


「異議あり!」


 今度はエミリーさんが手を上げて立ち上がる。


「その日は学校でアイスライト杯予選があっておりレインは出場していました。レインが学校にいる時にすでにザワード邸に火の手が上がっていたという学生の証言がとれています」


 そうだあの火事はみんな見ていたじゃないか。


 すると再び左の男が立ち上がる。


「その火の手が合図ではなかったのか? 実際その火の手が上がってザワード邸に向かったのは、今入院してるクレア氏とレインだけなのだろう」


「しかしレインが騎士団に捕らえられた時、体に魔法を受け怪我をおっていたのよ。フォントネル家は魔法は使わないわ。ボルタと戦って敗れたとしか考えられないわ」


 ほんとにエミリーは色々と調べてくれている。たしかに共謀したなら俺がボルタと戦うのはおかしい。


 裁判官の皆さんもうんうんと頷いている。これはいい流れなのか。


「はっはっは、そんなのは二人の演技に決まってるじゃないか。ザワード氏を殺すぐらいの魔術師と本気で戦ってそんな1日2日でこの場に立てるわけないじゃないか。無実となりこの国でスパイとして生きていくためだろう。もう認めろよ、レイン」


 そんな、只のこじつけじゃないか。


 しかし自信満々に言い放つ貴族の男に裁判官は、「なるほど」などと声を上げている。


 エミリーも反論に困り、何も言えなくなっていた。このまま終わってしまうのか。


「裁判官の皆様、どうか裁判を延期してもらえないだろうか。この場にクレア氏がいればきっとレインの無実を証明してくれるはずです」


 エミリーは最後の抵抗をみせる。


「何をバカなことを。そんなこと出来るわけないだろう。どうせその間にその男を逃がすつもりだろう。さては貴様もボルタの仲間なのか? そういえば昔は同じ騎士団に所属していたな。もし証明したければ今すぐ連れてこい。まぁまだまだ目覚めることはないだろうがな」


「なっ」


 貴族の男はニヤッと笑った。


 裁判官達も疑惑の目をエミリーへ向ける。


 駄目だ。この裁判では一枚も二枚も相手が上手だ。何を言っても返されてしまう。もうだめだ。


 俺が完全に諦めてしまったとき、後ろにある扉がバンッと大きな音をたてて開かれた。


 そこには金髪の髪が肩にかかるくらいの長さで軽くウェーブのかかっている女の子が立っていた。髪の印象は全然違うが、その顔を見間違えるはずがない。


「私を呼んだかしら。やっぱりあんたには私がいないとダメね! ほんとバカなんだからっ」

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