第5話 幼馴染から降格?

 数日後のいつも通りの登校時間、クレアと共に教室に入るとザワザワと皆が騒いでいた。


「まじかよー」


「やったわ」


「また来年だな」


 さまざまな声が聞こえてくる。


 皆は教室の後ろの壁に張り出されている一枚の紙を見ているようだ。


 クレアはその様子を見て、紙の張り出されている掲示板に駆け足で向かったと思ったら途中で振り返り、


「なにしてんのよ。あんたも来なさいよ」


 しぶしぶクレアの後をついていく。


「やっと発表されたわね」


 クレアはまじまじと掲示板の紙を見ている。俺もクレアの後ろから覗き込む。


アイスライト杯予選出場者一年生


レイン


クレア=フォントネル


エーベル=ランディル


シリア=グリッド


グリモア=マイコン





グラッド=ラーナー


トール=アストレア


 その紙にはアイスライト杯予選に出場する16名の名前が記されていた。ちなみに=の後についている名前は貴族の家名である。なので貴族でない俺はレインと書かれるだけである。やっぱ貴族の学校だから俺だけだな。


 でも知らない名前ばかりだなぁ。うちのクラスからは俺とクレアと、おぉ、グラッドとトールも無事選ばれてるじゃないか。よかったよかった。


 出場者は二日目と三日目に行った剣と魔法の試験だけで決まるわけではなかった。四日目からは毎日午前中は座学の授業、午後からは他クラスも交えての一対一実戦演習だった。その演習の結果も加味されるのだ。


 実戦演習は本気の一対一の戦いであった。剣術や魔法を駆使して、相手を倒す。しかし学生同士の演習で殺し合いをさせるわけにはいので剣は特殊な模造刀を使い、魔法は出力を抑える腕輪を着けさせられる。これで実際のダメージの十分の一ほどになるらしい。実戦演習を取り仕切る教官が実際のダメージに換算し戦闘不能になれば決着となるのだ。


 だかそんな剣や腕輪を着けていても、俺の魔法やクレアの剣術は相手を一撃で気絶させるほどの威力だった。最後の方は戦わずして、俺やクレアと対戦が決まると相手が降参することもあった。


 しかし、名前が並んである奴とは戦ってないな。グラッドとは一度あるがあれは剣だけの戦いだったし。強豪同士は戦わないよう配慮されたのかな。


 まぁなにはともあれ、クレアと一緒に予選に出られてよかった。


「よかったな、クレア。とりあえず予選出場決定だ」


 クレアが俺の方に振り返ると納得できないといった顔をしている。


「なにがいいのよ。なんで私の名前があんたの下なのよ」


 なにか怒っていた。


「どうしたんだよ、急に。下にあるからってなんだよ」


「ほんとバカなんだから。この名前の順番は成績順よ」


 えっ? だとしたら俺がこの学年で一番だったってことか? たしかに演習では一回も負けることはなかったが…… 


「まぁ、いいわ。一位と二位は決勝まで対戦することはないわ。絶対勝ち上がってきなさいよね」


「無理じゃないかな」


 俺がやる気のない返事をすると、クレアは俺を睨み付けた。


「もし途中で負けたら一生口聞いてあげないからね」


「え?」


「本気だから」


「まじで?」


「うん、まじ。むしろ知り合いでもなくなるからそのつもりでお願いします」


 冷めたような表情で言っている。


「それは嫌だ!」


 俺は頭を抱えた。


 やばいやばいやばいやばい、この顔は本気だ。恋人になるどころか勝手に友達よりも上位の位置付けにしている幼馴染からも転落してしまう。いや友達どころか知り合いでもなくなるなんて底辺じゃないか。


 ん? しかもすでに最後の方すでに敬語じゃなかったですか? やめてくれ! 敬語で話されると距離が広がったみたいじゃないか。


「でも、もしも決勝まで残れたらちゃんとご褒美あげるから頑張りなさい」


「え? ほんとに?」


「うん、ほんと」


「ご褒美ってなに?」


「内緒」


 内緒かぁ。なんだろなぁ。クレアからご褒美なんて初めてかもなぁ。楽しみだなぁ。いや待てよ。負けたら他人、勝ったらご褒美。ご褒美が何かは分からないが天国と地獄だな。とにかく勝つしかない。もうやるしかない。16人ってことは三回勝てばいいんだ。大丈夫かなぁ。


 この学校に来てまだ一回も負けていない。そのことで多少自信もついてきたが、上位の生徒とはまだ戦ったことはない。それにエーベル=ランディル。演習での戦いを見る限り別格だ。


 その時、教室の扉が勢いよく開けられた。そこにはエーベル=ランディルが立っていた。


「おい、この教室にレインという奴はいるか」


 教室のクラスメイトが一斉に俺を見る。


「おれ?」


 エーベル=ランディルは俺の顔を確認すると、俺の目の前まで歩いてきた。


「な、なにか用かよ」


 少しびびってしまった。


「はじめて見る顔だな。いや、俺より上と評価されたやつが知りたくてな」


「なに言ってるのよ。あんたもバカね。二日目に会ったときに紹介したじゃない」


 クレアが二人の間に割り込んできた。あれは紹介したとは言わないと思うが。


「そうか。興味のないことはすぐ忘れてしまうのでな。しかし一瞬でも俺の上に立ったのだ。レイン、覚えておいてやろう。順当にいけば準決勝であたるか。それまでに負けるなよ。それと二位のフォントネル。お前も決勝で倒して、あの評価は間違いだと証明してやる」


「それはないわ。だってあなたはレインに負けるもの」


 いつの間にかエーベルとクレアが火花を散らしている。


「ふっ、では楽しみにしているぞ」


 そう言い残し教室を去っていった。


 しかし、気になることを言ってたな。準決勝であたるとか。


「ねぇ、クレア。対戦相手ってもう決まってるの?」


「あんたほんと何もしらないのね。1位のあなたの一回戦は16位が相手よ。3位とは順当にいけば準決勝ね」


 そうなのか。決勝までの難易度が一気に上がったな。


 しかも一回戦はトールかぁ。いきなり知り合いとはやりづらいなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る