十一歩目 拠点
メロウの衝撃が抜けきらないまま次の魚類の買い出しへ向かう。
「こ、こいつは……」
「知ってるの?」
そこに並べられていたのは、朝日に照らされた水辺の様にキラキラと輝く鮎、に似た
最初に貰ってから、結局一度も行けなくて食べる事が出来ず、凄く恋しかった。
「街に初めて来た時に、一度食べたんだけど癖になってさ、調理前が見れて少し感動してる」
「翔吾さんって、少し変わってますね」
甘魚から目を逸らす事無く翔吾はマリアの質問に答える。街の人なら、よく食べていると思ったけど、変わってると言われたし頻繁には食べないんだな。
結局マリアは甘魚を買う事無く、他の魚を買い、店を後にする。その後も、色々と街を見て周り、俺の両手は沢山の食材で埋もれている。それに、すっかり辺りは暗くなっていた。
「翔吾さん今日はありがとうございました! おかげで助かりました!」
「いいよ! 俺も案内してもらえて助かったし」
マリアを送り届け、明日の鍛錬の為に宿屋に戻り眠りについた。
***
おいおい……ほんと、なんなんだよ。
今朝もリルに連れられ山に行くと、またしても驚く光景が広がっていた。排除された木はこの為だったのだろうな、大きな道場を見てそう思った。
「まさか、道場を作るとはなガンテツ。リルも一緒に作ったのか?」
「そうじゃ! 驚いたか、翔吾? まぁ我は道場の地下を作っただけじゃがな」
「え? 地下もあるのか?」
「そうだ小僧。地下に居住スペースを確保した、お前が住め」
地下へ案内されながら、不意をついた言葉が聞こえる。このじじいは何を言ってるんだ? 驚きだぞ。突拍子もない事を言いだすガンテツに唖然とする。
「良かったね! 翔吾! でも少し寂しくなるなぁ」
「いや、そもそも俺は1人で山に出入り出来ないし……」
俺の言葉を遮り、待ってましたとばかりに、にししと笑いリルがドヤ顔で言い放つ。
「安心せい! この道場と山の麓にゲートを繋げておる! これで問題なく行き来できる!」
ゲートについて説明されながら、地下の居住スペースに足を運ぶ。
「すごいな……色々と。なぁ、シズクも一緒にいいか? 一人だと広すぎるだろ。この地下」
大豪邸の内装かと錯覚するような、異空間を見渡しながら言う。これは一人で住んだら孤独で病むやつだわ。
この地下と、ゲートは神域の応用らしいけど、そんなんも出来んのかよ。
ガンテツと、リルに相談して、シズクとの二人暮しが確定する。
シズクは少し顔を赤らめていたがなんだか嬉しそうに礼を言った。まあ二人暮しと言っても、近くにガンテツの小屋もあるしリルも神域からいつでも来れるけどな。
「小僧、これもやろう。儂が造った刀だ」
「ガンテツ、刀作れるのか!?」
「容易い事だ」
刀なんて簡単に作れるもんじゃないだろ。バケモンか。
驚きながらも、昨日と同じ鍛錬をこなし、ゲートを通り街に戻る。楽に戻れた。便利だな!
「そうかい、翔吾くん住む所、出来たのかい。寂しくなるねぇ」
「出来るだけ来るようにしますよ。メリダさんのキッシュ好きだし、マリアにも会いに」
「そうかい、そりゃありがたいよ! マリア良かったね!」
メリダさんに宿を出る事を伝えると、近くにいたマリアは寂しげな表情を見せるが頻繁に来る事を伝えるといつもの笑顔が輝く。相変わらず眩しい。
――鍛錬を始め、一週間が過ぎた。明らかに最初より、動ける様になっている。素振りと瞑想だけで。
「シズク、鍛錬も終えたし、クエストを受けないか?」
「それ! 私も言いたかった!」
そう。クエスト。冒険者になった以上クエストをこなし、日銭を稼ぐ。強くなっているし、ある程度の討伐なら可能だろう。
ガンテツもパーティーに入ってくれるみたいで、神獣族もいるし、正直負ける気がしない。
そうと決まれば話は早かった。颯爽とギルドへ行き、クエストを受理した。
イーブルモンキーの討伐。イーブルモンキーは、底辺のモンスターだが、近隣の村に大量発生したらしく、金貨二枚の高額報酬だ。
ギルドから村に向かう。今回は俺とシズクの成長を確認する為リルとガンテツは留守番だ。
「いやードキドキするねー」
「そうだな、底辺モンスターとはいえ大量発生は少し苦戦するかもな」
数が相手でも、冷静に対応できる術を身に付けたし、不安は大きい訳ではないが油断せずに行こう。
村に辿り着くと早速、二体のイーブルモンキーに襲われている村人を発見した。
俺は地面を踏み込み、イーブルモンキーと距離を詰める。鞘から刀身を素早く見せ、一瞬のうちに首を切り落とす。
もう一体は、シズクが力強く蹴り飛ばし、地面に倒れている。俺は今、魔法使いが物理にシフトチェンジする瞬間を、目の当たりにした。シズクさんパネェっす。
「あ、ありがとう、助かりました」
「構いませんよ、大量発生しているらしいですが拠点などはあるんですか?」
「ええ、村の奥の洞窟に突如現れまして……」
洞窟か、もしかするとお宝とかが眠っていたりしてな。
話を聞いた俺は、教えてくれた村人に、礼を言い、被害を拡大しない為に急いで洞窟へ向かう。
「気を引き締めていこう!」
「そうだね! 強化魔法は使えるから安心して!」
そして洞窟につき、俺とシズクは驚愕する。
いや……多すぎ。
うじゃうじゃといるイーブルモンキー。これはちょっときもい。
「翔吾! 強化魔法かけるよ!」
「頼んだ!」
シズクが俺に強化魔法をかけ、力がみなぎり、体が軽くなった。これなら楽に倒せそうだ。
大群に向かい走り込み、奥へと駆け抜ける。
「あばよ、猿ども!」
すれ違ったイーブルモンキーは、次々と鮮血を流し倒れていく。瞑想によって落ち着く事が出来るようになった俺は、冷静に相手を見極め刀を素早く振り斬りつける。
間合いの外のイーブルモンキーは、シズクがバキバキと音を立て駆除している。脳筋乙女。
「流石に弱かったな」
「数には驚かされたけどねー」
倒しきり洞窟を見て回るも、宝などは無かった。だが、見た事のない模様が壁に掘られていた。
「リル! これなんだ?」
『うむ、それは魔獣召喚の印じゃな。それがあるとまだまだ出てくるぞ。壁を壊しておけ』
神域にいるリルに問いかける。俺は、リルに言われるがままに壁を壊す。と言っても崩れてはいけないので表面を削る感じ。
召喚の印って事は、誰かが意図的に発生させた大軍って事か。誰がなんの為に……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます