再会

 貴帆達が控え室に戻ると、落ち着いたイサラギと涙や鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしたエリックが待っていた。

 その傍にはレッタとナオボルトが2つ並んだベッドに寝かされている。ナオボルトは数箇所の切り傷が止血され、タドの下敷きになっていたためか肩から胸の辺りにかけて包帯をまいていた。レッタはタドに殴り飛ばされた頬や背中に受けたナイフの傷当たりに手当てがなされていた。どちらも痛々しい姿だが、穏やかな表情ですやすやと眠っている。


「貴帆様ぁぁぁ!かっこよかったですっ、もう涙が止まらな……ひっく」


「上出来だと思うぞ」


 対象的なエリックとイサラギに可笑しさを覚えつつ、さっき目の前で倒れていた仲間の側へと近寄ろうとした。すると雨虹に呼び止められた。


「貴帆様、手の傷をお見せ下さい」


 なされるがまま雨虹に右手を預ける。刃を握ったことで深くはなかったものの、一直線に切り傷ができていた。雨虹は丁寧に手当をすると貴帆を見つめた。


「貴帆様、無理をなさらないでください。なんとか間に合ったから良かったものの、あと一歩でも遅れていたら……」


 珍しく諭すような言い方の雨虹に、貴帆は何も言い返せない。確かに雨虹の助けがなければ、今の貴帆に命は無かったのかもしれない。


「ごめんなさい……。でもアズリバードは自分は土魔法が弱点って言ってて……だから魔道書なしで使える魔法は風だと思って」


「貴帆様の命は、貴帆様のものだけでは無いのです。それを心に留めておいて頂きたいのです」


 貴帆の命はタカホのものでもあるとでも言うような、深く重たく沈む言い様だった。それだけ領主タカホが願っていたツヴィリングの存在は、雨虹にとって大事なものなのだろうか。一体雨虹は何を大切にしているのか、貴帆の中で微かに引っかかるものがあった。


 すると気まずい沈黙を破ってベッドが弾む音と賑やかな声が響いた。


「は、あれ!?貴帆じゃん!雨虹さんもいる!」


 ナオボルトだった。飛び起きた様子でキョロキョロと控え室を見回してから、半裸に包帯姿の自分を見つめた。


 大丈夫かと皆が駆け寄ると、ナオボルトは目を点にしてから豪快に笑い飛ばした。


「俺は神に選ばれし肉体だからな!てか俺の勝負は?なんでレッタは寝てて、お前らが汚ねー格好でここに居るんだよ」


「汚くて悪かったわね」


「……相変わらずですね」


 大怪我をしておいてこんなに元気だと、心配していた自分が馬鹿馬鹿しくなる思いだ。脱力感に見舞われながらナオボルトに状況説明をした。ナオボルトは勝ったことを知ると、「おめでとう」という言葉と共にふっと優しく笑った。「自分が活躍していない」とふくれる彼を想像していたから、拍子抜けしてしまう。


 すると今度はイサラギが口を開いた。


「そろそろレネッタ嬢を紹介してもよいだろう」


 レネッタという名前に、貴帆ははっとする。勝利に満足してすっかり忘れていたのだ。だがイサラギは無表情のまま首を振った。


「探さずとももう見つかっている」


 その言葉に、寝ているレッタ以外の全員が


「え?」


 と間抜けな声をあげた。

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