記憶

 失礼な貴帆達一行と出会って小一時間。


 雨虹に事情を説明されたと思えばどうか仲間に加わってほしいと懇願され、負けた。確かに領主や魔王、レネッタとも面識のあるイサラギは役に立てるだろう。ある程度名の通った占い師であることに間違いはなく、力になれないはずがない。

 

 しかしながら彼はとある大戦争に加わった後、戦いの場や冒険者などとの関わりを絶っていた。基本的に占いを生業とし、たまに名家の子息令嬢へ魔道を指導したり研究者と議論を交わしたりと、安穏で自適な生活を送っていた。

 今日武闘大会で店を構えていたのだって、稼ぎの足しにするためであった。そこを貴帆達に捕まえられた――というより飛び込んでこられたのである。


 タカホを助ける道中にも関わらず、レネッタというお嬢様を探しているかと思えば武闘会の出場者。相も変わらず冒険者という職はなんと忙しいのだろうか。


「面倒じゃのう」


 派手な戦闘や冒険を好まないイサラギは、貴帆達に聞こえないよう小さく呟いた。


 占いで出た結果通り、会場の中を手分けして隅々まで探す。だが浮かれている人々に呑まれ絡まれ、進むので精一杯だ。加えてレネッタ本人は姿を変えているのだから一筋縄ではいかないのである。


 武闘会への出場が頭になさそうな貴帆の裾を引っ張り、声をかける。


「そなたら出番はよいのか?」


 貴帆はあっと声を上げた。


「もう行かなきゃ!あとでレネッタ様探しは再開しますから、待っててくださいね」


 慌ただしく駆けていく4人を見送ると、そのままイサラギはエリックと共にしばらく突っ立っていた。だが貴帆達の戦いを見るために観戦席へと向かったのだった。



 イサラギはむすっとしていた。原因はこの状況──エリックの膝の上だということ。


 イサラギが席に座っていたら年配の女がやってきて、彼を持ち上げエリックの膝の上に乗せて言ったのだ。


「可愛いペットは手放さないでちょうだいね」


 と。


 それはともかく、貴帆達の実力は圧倒的だった。貴帆が軽々と飛んで斬りかかり、敵が動く前に雨虹が駆け仕留める。ナオボルトが大剣を振り回し敵を蹴散らしていた。


 イサラギはふとレッタの戦いに目をつける。いくつもの魔法を駆使し、あざやかに敵を翻弄して寄せ付けない。その姿を見て、首を傾げた。――どこかで見たことがある。


 魔法を使うタイミングやその組み合わせ、策の奇抜さ、立ち回りが誰かと重なるのだ。相当な使い手であることは間違いないとしても、その独特な強さはどこかに引っかかっている。


「皆さん、すごいお強いですね。なんだか心強いです」


 エリックが驚いた顔をして言った。イサラギはそれに適当な相槌を打って、自分の記憶に引っかかるレッタについて頭を働かせる。


 するとその時、ひらめいた。ある人物の戦う姿と、目の前のレッタの姿が完全に一致する。


「そうじゃ……!」


 イサラギは静かにその名前を口にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る