片割れ

 貴帆の住む世界を現実世界とした時。

 ツヴィリングは現実世界に生まれる人物と同じ姿形をしたが異世界でも誕生すること、またその存在自体を指す。性格や性別に差異は生じるが異世界にいる自分のドッペルゲンガー、または分身のようなものだ。

 雨虹の生きる異世界でツヴィリングは知られているものの、それが起こることはもちろん判明すること自体もごく稀なため、謎に包まれた存在だという。

 そしてツヴィリングとして生まれたヒトは特別な使命を持つとされている。だが同時にツヴィリングの片割れとは運命の共同体であるが為に、生死を共にするとも言われているのだった。


 タカホはツヴィリングとして生まれ幸か不幸かその事実を知った。そこでもう1人の自分である貴帆の存在を5年かけて調べあげ、その使命を知るべく雨虹に迎えに行かせたという経緯らしい。


 そう説明をする雨虹からは既知の者であるはずの顔が実際は未知の別者であるという感覚が不思議で仕方ない様子が見てとれる。


 聞くところによると、タカホは貴帆と同い年にも関わらずウルイケ領という領地を治めているという。いわゆる領主というやつだ。

 相当有能な片割れだな、と貴帆は他人事のように思う。


「タカホ様は明るく活発で、民思いの素晴らしい領主です。つい先日も魔獣の討伐に自ら赴かれました」


 雨虹は自分のことのように誇らしげである。


 しかし異世界にいる自分のドッペルゲンガー的存在は、自分とはかけ離れた人物だった。例の如く彼と貴帆は容姿が同じであるだけで、性別も違えば性格も違ったのだ。

 少なくとも貴帆は明朗快活とは程遠い性格で、自分でも活発だとか優しいだとか、全くもって思わない。

 周囲の人間からはいつでも何事にも冷静で、真面目な優等生だと思われがちだ。しかし実際は息を押し殺し、孤高というカモフラージュを施した不器用な孤独に身を包んでいるだけ。生まれ落ちた世界に馴染めない欠陥した人間なのだ。

 例え興味をもってくれたとしても、こんなつまらない人間だと知ったら失望するに違いない。


 貴帆に向けられる優しく期待に満ちた雨虹の顔が、やりきれない思いを余計に募らせた。

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