第6話 新たな生活魔法

 ダンジョン内に季節はないので、見えている木は常緑樹という事になる。

「どっちに進めば、いいんだろう?」

 目の前に広がる林はかなり広そうだ。下に繋がる階段の位置が全く予想できない。


 取り敢えず、左回りにダンジョンの壁に沿って回る。その途中、角豚に遭遇した。角豚は『プッシュ』の二重起動であるダブルプッシュで撃破できた。


「マジで、『プッシュ』は使える。何で広まらないのかな?」

 答えは分かっている。『プッシュ』なんかより強力な魔法がたくさん有るからだ。


 俺は角豚を倒しながら、二十分ほど行ったところで鉱床のような地層を見付けた。

「五層の鉱床と言えば、銀か。小遣い程度にはなるかな」


 マトックを鉱床に叩き付け、鉱石を掘り出す。一時間ほど掘ると鉱脈が細くなる。この先には大きな鉱脈が有りそうなのだが、時間を掛けて掘らねばならないので、掘るのをやめた。

 掘り出した鉱石をリュックに詰め込み、先に進む事にする。


 一周して四層に繋がる階段まで戻った。その間、五匹の角豚を倒したが、ダンジョンエラーは起きない。ちょっと角豚の肉を期待したのだが、そう上手くはいかないようだ。


 階段を少し登って、そこに腰を下ろした。階段は魔物の出ない安全な場所なのだ。今日はここで銀だけを抽出しようと思う。『ピュア』の魔法で、銀鉱石から砂銀を取り出す。


 全部の銀鉱石を処理しても、百グラムほどにしかならなかった。砂銀を小さなプラスチックの容器に入れる。

「さて、探索を続けよう」

 俺は階段を下りて五層に戻り、探索を開始した。


 六層へ下りる階段を探し、林の真ん中を目指す。そして、中央付近で階段を見付けた。だが、その周りには三匹の角豚が寝ている。


 一匹ずつなら倒せるけど、三匹は……。何で三匹も居るんだよ。どうする?

「石でも投げて、一匹ずつ誘い出すか」


 小石を拾い、右端で寝ている角豚に向かって投げる。その小石は右端の角豚の頭に当たり、跳ねて真ん中の角豚の鼻に吸い込まれるように挟まった。そして、その豚が鼻息で石を飛ばし、左端の角豚の額に命中する。


「そんな馬鹿な。ギャグじゃないんだぞ」

 声を上げた瞬間、三匹同時に目を覚まして起き上がった。


 三匹は俺に気付いたようだ。当然、追い駆けられる事になった。必死で走り、振り向いて角豚の位置を確認する。気配で確認しながら、もう一度振り返り様にダブルプッシュを放った。


 先頭の角豚に命中し空中に撥ね飛ばす。俺は走りながらガッツポーズを決めた。だが、仕留めた訳ではない。続けて、ダブルプッシュを放ち二匹目を撥ね飛ばす。


 そして、残った一匹に対してダブルプッシュを放った。同じように撥ね飛ばし、転がったところに駆け寄って狩猟刀を首に突き立てる。


 最初に撥ね飛ばした角豚が復活して体当りしてきた。これもダブルプッシュを放って転ばしトドメを刺す。最後に残った角豚にダブルプッシュを放った時、目眩がした。


 魔力切れを起こしたのだ。だが、ここで気絶する訳にはいかない。歯を食いしばってトドメを刺した。角豚が消え魔石が残る。その時、身体の内部でドクンという音した。


「はあはあ……魔法レベルが上がったかな。でも、これだけ頑張っても、ダンジョンエラーは起きないんだ」


 よろよろしながら魔石を回収し階段へと向かった。少しだけ階段を下り、そこで休憩する。

「魔力切れか。ここで休憩して、少し魔力を回復してから戻るしかないか」

 俺は魔力が回復するまで休憩してから引き返した。


 地上に戻った時、太陽が真っ赤に輝いていた。学生食堂に行って、夕食を食べ用務員小屋に戻る。

 風呂屋に行く気力もなくなっていたので、濡れたタオルで身体を拭いてベッドに倒れ込んだ。気絶するように眠ってしまった。


 目を覚ますと真っ暗になっていた。蛍光灯を点ける。そして、ラジオのスイッチを入れた。パソコンやスマホは使えなくなったが、アナログ放送のテレビやラジオは使えるのだ。


 ラジオからニュースが聞こえる。

『本日、群馬県榛名ダンジョンにおいて、ロジウム鉱床が発見されました』

「へえ、ロジウム鉱床か。確か金より高い金属だよな。危険な魔物が居る階層にあるんだろうな」


 ラジオから、発見した冒険者の名前が発表された。高瀬龍二というA級冒険者だ。彼のような高ランク冒険者になれば、年収が軽く億を超える。


 時計を見ると三時間ほど寝たようだ。さすがに魔力切れは身体に堪えた。そんな事を予防するためには、魔力を計測する魔法『マナ』を習得する必要がある。


 この魔法は分析魔法の一つで、この学院の一年生が習うものだ。だが、授業を受けた事がない俺は、教科書も魔法陣も持っていなかった。


「図書室で習得可能になる魔法レベルを調べてから、購買部で買えばいい」

 学院には購買部があり、初歩的な魔法陣なら購入する事ができる。

「でも、俺の魔法才能では、すぐに習得できないだろうから、明日は魔力切れに気を付けて慎重に行こう」


 『セルフ・アナライズ』で調べると生活魔法が魔法レベル3になっていた。魔法レベルが上がった恩恵は、同時に三つの生活魔法が使えるようになるということだけだ。


 生活魔法は魔法レベル2で覚える魔法までしか開発されていないのだ。昨日、『タンニング』を覚えたので、習得していないのは『プロップ』と『スイング』という生活魔法だけである。


「これって、使い道が分からないんだよな」

 『プロップ』はバレーボールほどのD粒子の塊が物を空中に固定する魔法なのだが、五秒ほどしか固定できないので使い道がない。『スイング』は細長いD粒子プレートを発生させ、それを振るという魔法なのだ。


 『スイング』は攻撃として使えるのではないかと、最初は考えた。ところが、座禅をしている時に叩く細長い板である警策きょうさくで叩かれたくらいのダメージしか与えられないと分かり、使えないと諦めた。


 だが、生活魔法の二重起動が予想以上に強力な魔法になったので、多重起動すれば強力な攻撃になるかもしれないと考えを改め、覚える事にした。


 俺は『プロップ』と『スイング』を習得し、疲れたので寝た。


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