第4話 青トカゲ

「ふうっ、猫を倒すコツが分かったぞ」

 俺は傷口を調べて、爪で皮膚が切られているだけだと分かりホッとする。リュックから消毒液と傷薬、ガーゼ、包帯を取り出し傷の手当をした。


 リッパーキャットを倒しながら、赤鉄の鉱床を探して歩き回る。時々立ち止まって、メモ帳に迷路地図を書き込んでいく。この巨木ダンジョンを探索する者は、自分でマップを作る事になっている。それも教育の一環だそうだ。


 教師でもある俺は校長に言えば地図をもらえたかもしれないが、生徒と同じ条件で探索したかったので、あえてもらわなかった。


 遭遇したリッパーキャットを『プッシュ』の魔法で上に撥ね上げ、マトックを横殴りに振って仕留める。その繰り返しで、七匹のリッパーキャットを倒した。


 そして、赤鉄の鉱床を発見する。迷路の行き止まりに赤い鉱床が有ったのだ。俺はマトックを突き立て鉱石を採掘しリュックに詰め込む。


 目的を果たした俺は、そのまま引き返して地上に戻った。用務員小屋に入り、赤鉄の鉱石を作業台の上に置く。その時、リッパーキャットに引っ掻かれた傷がズキリと痛んだ。


 包帯を解いて傷口を見ると、傷口は塞がっている。

「この傷も『リペア』で治ればいいのに」

 そう思ったが、『リペア』で生き物の傷が治せない事は分かっていた。


 もう一度傷薬を塗ってから包帯を巻いた。

「さて、赤鉄を取り出すか」

 赤鉄の鉱石を手に持ち『ピュア』の魔法を発動しながら、赤鉄を意識する。そうする事で鉱石から赤鉄が分離して作業台の上に砂鉄のような赤鉄の粒が落ちた。


 その作業を鉱石の数だけ繰り返すと、三百グラムほどの赤砂鉄が手に入った。

 部屋の奥へ行ってベッドの下から箱を取り出す。中には刃が欠けたボロボロの狩猟刀が入っていた。赤鉄で鍛造された刃渡り三十センチの片刃タイプである。


 これは町の北にあるゴミ置き場から拾ってきたものだ。そこには使えなくなった液晶テレビ、電子機器などが山積みされている。

 その中に赤鉄製の狩猟刀も捨てられていた。修理し使おうと思い拾ってきたのである。


 俺は刃が欠けている部分に赤砂鉄を載せ『リペア』の魔法を発動する。欠けた部分に赤砂鉄が磁石のように吸い付き刃の形に変わる。数秒でボロボロだった狩猟刀が完全な形を取り戻した。


 木製の鞘や柄の部分も修復すると新品同様となった。この『リペア』という魔法はかなり便利なのだが、限界も有る。もし、狩猟刀の刃が折れた場合、『リペア』では修復できないのだ。


「やった。俺の武器ができたぞ」

 新品の赤鉄製狩猟刀を買えば、十数万円の代価を払う事になる。そんな金のない俺には、新品同様となった赤鉄製狩猟刀が嬉しかった。


「ん、そう言えば、夢中になって作業をしたけど、魔力切れにならなかったな」

 以前ならば、作業の途中で魔力切れになってもおかしくない。もしかしたら、魔力の源泉であるD粒子の量が増えたのかもしれない。


 『セルフ・アナライズ』を発動して調べてみた。


【氏名】サカキ・グリム

【D粒子量】DⅡ

【生活魔法】ランクS/魔法レベル1

【付与魔法】ランクF/魔法レベル0

【魔装魔法】ランクE/魔法レベル0

【攻撃魔法】ランクF/魔法レベル0

【生命魔法】ランクF/魔法レベル0

【分析魔法】ランクE/魔法レベル1


 自分の顔がニヤニヤしているのが分かった。

「D粒子量がDⅡになってる。魔力切れにならないはずだ」

 嬉しさで、心がジーンと痺れるような感覚を味わった。そして、明日もダンジョンへ潜ろうという気持ちになる。


 学院は明日から三連休に入る。その三日間をダンジョンで鍛えれば、魔法レベルがアップするかもしれない。生活魔法使いが魔法レベル2となる事は、ほとんどない。生活魔法使いにとって、ダンジョンに潜る事が危険であるからだ。


 なので、D粒子量は増えず、魔法レベル1のまま人生を終える生活魔法使いが多いらしい。

 俺の取り柄は生活魔法だけなのだ。なのに、生活魔法が魔法レベル1のまま上がらない。それが我慢できなかった。


 ダンジョンに潜れば、魔法レベルが上がりそうだという手応えを感じた。そして、生活魔法が魔法レベル2になるように、この三連休をダンジョンの挑戦に費やそうと決める。


 翌日、朝早くから巨木ダンジョンへ潜った。学校が休みなので生徒たちの姿はほとんどない。寮に住んでいる生徒も、まだ寝ているようだ。


 ダンジョンに入った俺は、一層を最短距離で抜け二層に下りた。二層は赤鉄の鉱床まで行って、そこから改めて探索を始める。


「よし、ここからだ」

 リッパーキャットを倒しながら、三層への階段を探し出し下りる。三層はドーム状の巨大空間で、そこには光があった。曇りの日に雲を通して差し込む薄暗い陽光という感じの光である。


 周りを見ると、ゴツゴツした岩場が広がっている。その岩場には青色をした大きなトカゲが棲み着いていた。革鎧に使われている革の元である青トカゲだ。


 全長二メートルほどでダークブルーの皮に覆われている。

「この武器で仕留められるのか?」

 俺は赤鉄製狩猟刀を抜いた。青トカゲが俺に気付いて近付いてくる。その動きは思ったほど早くない。青トカゲの横に回り込み、狩猟刀を振り下ろした。


 切っ先が青トカゲの背中に突き刺さる。だが、切っ先の五センチほどが突き刺さっただけだった。

 青トカゲが尻尾を振り回すのが見えた。俺は避けようとしたが、間に合わずに脇腹に食らって迷路の地面に転がされた。慌てて起き上がろうとした時に、大口を開けた青トカゲが迫ってくるのが目に入る。


「ヤ、ヤバイ……どうすれば? ……そうだ」

 見れば、狩猟刀は青トカゲの背中に突き立ったままになっている。俺は『プッシュ』の魔法を発動し狩猟刀の柄を押し込んだ。狩猟刀が八センチほど青トカゲの背中に潜り込む。


 青トカゲが苦しそうに藻掻く、それを見た俺は、青トカゲから距離を取り、また『プッシュ』の魔法で狩猟刀の柄を押し込む。


 三回『プッシュ』の魔法を発動。そこでやっと、青トカゲが光の粒となって分解し魔石となった。その時、身体の内部で何かがドクンという音を発したように感じた。


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