奴隷になったんですが、思ってた奴隷と違う

ACSO

プロローグ

第1話プロローグ

 ギャーギャーギャー……どかーん


 女三人寄れば姦しいと言うが、五人も集まればそりゃ煩いだろう。

 それも公爵家の娘、聖女、騎士団副長、勇者のパーティメンバー、エルフの国の貴族となればもう誰も止められない。

 俺の周りで激しく口論……し合う女たちがおとなしくなる気配は全くない。

 派手にぶっ壊れた城を遠い目で見ながら、俺は背中に浮かび上がる五重の奴隷紋・・・・・・をさすった。


 これ、消えないかなあ……。

 これまた頭を抱える国王とため息がはもった。



 ☆☆☆☆☆☆



 豪華絢爛なこの国の王城にありながら、そこは無駄な物は置かれていない厳粛な空間。中心の窪みを囲うように柵がしかれ、席が置かれたそこはさながら裁判所みたいである。

 いやまあ、断罪の間っていう裁判所なんだが。

 その地べたに俺たち一家は手を後ろに縛られて座らされている。

 まるで俺たちが悪いことをしたみたいだが、全ての原因と犯人はこの親父だ。俺と母さん、他の三兄妹は何も関与していない。迷惑なことだ。


「―――では、起訴の確認をする。大臣」



 俺の家―――オセアン伯爵家は古くから続く名家だ。そして俺はその家の次男。そして前世からの記憶を引き継いでいる。まあこれは一人にしかバレてないが。

 それはさておき、そんな名家の財政がやばい。その理由は完全に親父の散財なのだが……。結果、多方面から借金を抱えて火の車である。


 で、お金の借り先が国王にバレて問題になり、今に至る。

 他国の上位貴族とか、協会とか、公爵家に借金してる辺り、もう死刑しかないだろうなー。

 なんてとなりにいる姉に言ってみると、なんだか姉は余裕そうだった。なんでだ。


「調査の結果、金を散々浪費していたのは……」


 金の動きやそれに関与した人物などが読み上げられていく。

 それを聞いていると、俺以外の兄弟は関与していないみたいだ。まあ、家にいたの俺だけだしなあ。

 道理でみんな余裕なわけだ。

 死ぬのは俺と親父かー。母さんは公爵家出身だから死刑にはならなさそうだし。


「―――では、判決を言い渡す」


 周囲を見渡す。

 そこには何人か知り合いがいたが、そいつら全員けろっとした表情してやがった。なんならちょっと嬉しそうだ。

 よし、化けて出てやろう。そう心に決めて、判決を聞く。


「エリオット・オセアン及び息子、イチヤ・オセアンは死け―――」


 やっぱり、死ぬのか。

 ここに連れて来られる前に、罪人は奴隷紋を施される。土壇場で逃げたり、暴れたりさせないためだ。なので、俺はおとなしく死ぬしかない。


「「「「「待ったー!」」」」」


 俺の隣を含め、五人くらいの声が国王の声を遮った。

 信じられないと言った目を向ける周囲の人間たち。

 当然だ、国王の言葉を遮ることなどあってはならない。

 大臣が顔を真っ赤にして怒鳴るが、それを遮るように声の主たちが羊半紙を突きつける。


「貴様らッ! 国王様のお言葉を遮るなどなんたる―――」


「「「「「これをご覧……」」」」」


 全く同じムーブだったが、示し合わせたわけではないのか、五人の少女たちがお互いを見て固まる。


「? よい、見せてみろ」


 国王が紙を受け取り、見やる。そして、全員のを見終わる頃には驚愕で口が開きっぱなしになっていた。


「こ、これは……」


「どうされましたか……?」


 国王のただならぬ様子を見た大臣が、恐る恐る尋ねる。すると、国王は意を決したように言い放った。


「イチヤ・オセアンの先ほどの判決訂正するっ!」


 ん?なんだ?


「イチヤ・オセアンはミーシア・アストン」


 公爵家の一人娘。ミーシア。吸い込まれるような深い黒の髪を持つ少女。


「ネア・アースライト」


 この国で信仰されている宗教の協会に所属する聖女。透き通るような銀髪の、豊満な肢体のお姉さん。


「マリア」


 勇者パーティの魔法使い。庶民生まれ故に家名はない。


「アリス・オセアン及びリリス・オセアン」


 ウチの姉と妹の名前だ。なんで?


「ルルーナ・エルクライナ」


 親父が借金をするまで、俺と婚約関係にあったエルフ族の貴族の子。


「彼女らの奴隷とするッ!」


 ……えっ


「なお、エリオット・オセアンの死刑は変更なし。また、これら二人以外についてはお咎めなしとする」


 カン、と木を叩く小気味のいい音が鳴り、裁判が閉幕した。





 そして、とりあえず五組分の奴隷紋を背中に掘られ、先の喧嘩に至るのだった。








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