最弱無敵のバグ剣王 ~やり込んだゲームの最弱キャラに転生するが、裏技バグ技もゲーム通りなのでシステムの抜け穴やイベントを駆使して無双状態に。必殺技を壁に空撃ちするだけで要塞が落ちるんだが?~

色川ルノ

第1話 最弱ネタキャラへの転生

「お⁉  そういえばアンブレのリメイク発売したのか」


 何気なく眺めていた掲示板に懐かしいゲームのタイトルを見つけてニヤけてしまう。


「懐かしいなあ……そういえば動画も作ったな」


 アンリミテッドブレイブタクティクス――俺はこのゲームを死ぬほどやり込んでいた。


 最弱ネタキャラと言われる剣王ライジーンをバグ技で初期から仲間にして、【ライジーン一人旅】という名のラスボスを一人で倒すまでの一発撮りの動画を作ったっけ。


 それにしても俺もライジーンと同じ40歳になったのか……。感慨深いものがあるな。


「うっし、ちょっと書き込んでみるか」


228名前:アルマ推しのライジーン40代

ライジーンが最弱とかお前ら、発売当時のライジーンの本当の強さを知らないな。

ゲーム史上最強のバランスブレイカーだぞ


229名前:ライジーンファン10代

>>228

【ライジーン一人旅】の動画見ながら、ゲームやってる。

スマホ版でもバグ剣王ぶりは健在のファンサービスw


 俺の書き込みに早速反応が付いた。しかも嬉しいことに【ライジーン一人旅】の視聴者だ。


 なんだか、10年ぶりに、アンブレやりたくなってきたな。押入れのどこに仕舞い込んでいたっけ。久しぶりだから一番好きな主人公アルマのストーリーでもやるかな。


 そしてリビングを出て、押し入れに向かう。


 ⁈ 胸が痛い! 苦しい!


「う……苦し……い……誰か……たす」


 過労気味な職場環境が祟ったのか、俺は胸に強い痛みを感じて意識を失いかける。

 都合よく助けが来るはずもなく、スマホはリビングに置きっぱなしだった。


 せめてゲームをプレイしてから死にたかったなあ。俺は最後にそう願う。


『その願い聞き入れた。新たなる身体で、第二の人生を心行くまで楽しむが良い』


◇◇◇


 気が付くと、俺は石造りの建物の中にいた。まるで昔旅行したヨーロッパの城の中のようだ。

 立ち上がると身体は重厚な白銀色の鎧で包まれていた。鎧には金銀で細工が施されており、腰には神聖な雰囲気のある剣を佩いている。おまけに背中には緋色の長いマント。

 ひょっとして夢でも見ているのかと疑いを持つが、生々しい鎧の冷たさが現実感を訴えてくる。


「どうなさりましたか? ライジーン様」

「俺がライジーンだと⁈ 確か、俺は胸の痛みで意識を失ったはず……」

「おかしなことを仰って、ウルガラン公のお耳に入ったら大変ですよ」


 俺はゲームの世界で、ライジーン・オルランドに転生してしまったということか? 信じられないことだが、押し寄せる現実感は到底夢で済まされるものではない。それに意識を失う前に聞こえた声、あれは神の声というヤツなのではないか?


 そんなことを考えていると、隣の部屋から声が聞こえた。


「おい、聞いたか? 昨日、ウルガラン公が捕らえたアルマって娘の話。ガングレリ要塞で何かの生贄にされるらしいぜ」

「若いのに不憫だな。そんなことより見回りの時間だ。そろそろ行くぞ」


 そういえば序盤はそんなストーリーだったな。ああ……そこもゲームと同じ仕様なのか。だとするとゲームと同じストーリーをなぞるかもしれない。とりあえず確認する為にも、ガングレリ要塞に行ってみるか……。


 ゲームの世界的な都合なのか、幽閉されてるのにも関わらず、俺は準最強装備であるエクスカリバーとダイヤ装備を身につけたままだ。


「これなら一般兵くらい倒せるかな?」


 幸いなことに、近くにいるのは出口を守っている兵士だけだ。今がチャンスかもしれない。


「そこのお前、俺はここから出る。竜馬を貸してもらうぞ」

「な、何をバカなことを⁈ 謀反の疑いで幽閉されているご自分の立場をお忘れですか⁈」


 兵士は剣を構える。この世界がゲームの世界ならば、剣技も使えるはずだ。


「峰打ち!」

「うっ⁉」


 決まった。相手を殺さず、気絶状態にする剣技。この世界はゲームと同じ法則で、動いているのだろう。


「竜馬はどこにいるのかな?」


 厩舎を見つけ、中を見ると他の兵士は出払っているらしく、一匹だけしか竜馬はいなかった。昔遊んだゲームのマップを思い出し、アルマが囚われているガングレリ要塞へ道を進む。


 そう言えば所持品はどうなっているんだろう……?


 要塞を前にした俺は、所持品を確認した。エリクサーが2本と松明をつける為の木の棒が1本ある。これなら要塞も攻略できるだろう。


「うっし、これならいけるかもしれない」


 俺は竜馬を全速力で駆り、検問所を突破した。そして竜馬から降りると敵がわらわらと集まってきた。その陣形を見るに、ゲーム内の配置と変わらない。

 

 流石に袋叩きに遇ったら、最弱ステのライジーンは倒されちゃうかもな。


 それくらいライジーンは、初期ステータスすらも、信じられないくらい低いのだ。

 これはゲーム開発陣のとあるミスだと言われている。


 更に主人公たちと仲間になるのだが、性格が悪いことで有名でネタになっていた。謀反の疑いをかけられ幽閉されているのも、権力欲に負け、ウルガラン公の政略に屈したからであり、自業自得なのだ。


「貴様、何者だ? ここがガングレリ要塞だと分かって、侵入してきたのか⁈」

「ここに囚われているアルマという少女を助けに来た」

「待てよ、貴様、まさかライジーン・オルランド伯爵か? ウルガラン公に謀反の疑いで、幽閉されていたはず」

「黙って待っている性分じゃないんでね」

「ライジーンだ!  あの腹黒剣王ライジーンが単身で攻め込んできたぞ!」


 俺はその場に転がっている石ころを拾った。そして投擲。兵士に石ころが直撃する。


「ぐえっ⁉」


 ぶつかった敵の兵士は倒れてピクリとも動かなくなった。やはりゲームの世界のようだ。投擲は武器の攻撃力に依存し、この場合は準最強武器エクスカリバーの攻撃力が加わる。ダメージはカスな石ころでも序盤の雑魚敵を倒すくらいの威力は出せるようだ。


 しかも、不思議なことにゲームの仕様と同じで、石ころはどこでも無限に拾える。これなら近くに行かなくても、敵を一方的に蹴散らすことができるだろう。


「お前たち、奴が投げているのはただの石ころだぞ! 何をやっているのだ!」

「す、すみません、隊長。恐ろしい威力の投擲で入り口はもう持ちそうにありません」


 俺は余裕綽々と要塞内部へと侵入した。拾える石ころは無限、どんな敵が現れても、序盤なら問題ない。要塞のマップもゲームをやり尽くしたので、記憶に焼き付いている。


「さ、さすが先の大戦の英雄だ……。おい、お前たち魔導士と騎士たちを呼んで来い。ウルガラン公の兵を使わなければ、この要塞は墜とされるぞ!」


 敵の配置が今まで見たこともない配置になった。しかも人数が100を優に超える上、魔導士がいるのも厄介すぎる。ライジーンは魔法耐性が低すぎて、雑魚の魔法で数発で瀕死になるからだ。


「今、ウルガラン公から伝令珠で命令があった……。作戦を早めるようだ。それまで全力でライジーンを押しとどめろ!」

「作戦が早まる⁈ つまりアルマの生贄の儀式が早まるということか⁈」

 

 もしかしたらもしかしたら、中盤でしかアルマに会わないライジーンが動いたから、ストーリーが変わり始めているのかもしれない。まだ、うじゃうじゃと敵はいる。


 このまま石ころを投擲しているだけでは、間に合わない!


「待てよ、俺は最強の脇役ライジーンなんだよなあ……」


 ライジーンは普通に戦ったら、どんなキャラよりも弱い。レベルアップする毎に、ステータスは下がるし、覚えている魔法も使えなくなる始末だ。


 だが、ライジーンの真骨頂は他のキャラクターの強さとはベクトルが違う。

 はっきりと思い出した。彼のことをバランスブレイカーと呼んでいた真の由来を。


 俺はエクスカリバーを腹に突き立てた。


「痛えええええええええええええええええええええッ!」


 尋常でない痛みに冷や汗と動悸が止まらない。レッグホルスターから初期装備のエリクサーを取り出し、一気に飲むとケガと痛みは完治した。


 死んだらどうなるのだろうか? ゲームと同じように蘇生魔法とか効くのだろうか?


 疑問が心の中にさざ波を立てるが、今はそれどころではない。


「おっ、きたきた。力がみなぎってくる!」


 ドクンと心臓が脈打ち、体が白い光に包まれ、輝きだす。

 

 必殺技が使えるようになったのだ。


 まだ序盤の敵の攻撃ではダイヤ装備のライジーンをピンチにするには少し時間がかかる。それに魔導士の魔法の集中砲火など喰らったら一瞬でお陀仏だ。だからエクスカリバーで自分を攻撃し、ピンチになり必殺技が使えるようにした。


 そして、俺はエクスカリバーを投げ捨て、壁に向きを変える。


「と、投降する気になったのか?」


 敵の騎士の一人が声を漏らす。

 勿論投降する気など微塵もない。


 俺はゲーム史上、最凶の必殺技を壁に向けて放つ。


 剣を持ってるかのように大上段から手を振ると、剣がある筈の場所に暴風が巻き起こる。雷が鳴るような轟音が響き渡り、全てを断絶する剣技が壁に向かって、盛大に空振りした。


 必殺技を放ち終わったと同時に、100人は優に超える敵すべてがバタバタと倒れていく。


 技の名前は雷鳴無双斬、敵一体に即死効果のある、斬撃属性の超大ダメージを放つ必殺技。スタータスの低いライジーンが使っても、ゲーム終盤では、雑魚すら倒せない。


 しかし、思った通り、ゲーム開発陣痛恨のミスと後々まで語られたバグ技は、この世界でも効果があるようだ。

 

 ライジーン・オルランドに限り、武器を装備していない状態で、敵のいない空間に必殺技を放つと敵全体に、即死効果付きのダメージが及ぶという最凶最悪のバグ技なのである。即死耐性がなければ、どんな数の敵を相手にしようとも勝ち確定。自分が敵だったら戦慄してしまうだろう。


 やっぱりライジーンが、最強のバランスブレイカーなのは変わらないようだ。投げ捨てたエクスカリバーを拾うと、死屍累々を後にして、俺は先を急ぐ。


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