第10話


ある人物が朝、盗難被害に遭った。

寝ている間に自宅への侵入を許してしまったようだ。


盗んだ犯人は電車に乗って逃走した。

朝はさほど電車の数が多くない。

追いかけようにもそう簡単には追いかけて来られまい。

「ちょろいもんだぜ。へっへっへ。」


逃げ切れただろうと安心し、車内で一息ついた。

座席に座っていて、どうやら居眠りしていたようだ。

気が付くと電車は終点近くまで来ていた。


そして盗んだ物が無くなっていた。

誰かに盗まれてしまったのだ。


新たな窃盗犯は乗り降りする客が非常に多い駅で乗り換えた。

そして多くの客でぎゅうぎゅう詰めの電車に乗り込んだ。

これだけの人込みに紛れていればそうそう簡単に見つけられまい。

「ちょろいもんだぜ。へっへっへ。」


2,3駅程進んだ所で再度乗り換えることとした。

この駅もまた乗り降りする客が多い。

人込みをかき分けながら電車を降り、乗り換えようとした所で気が付いた。

盗んだ物が無くなっていた。


「ちょろいもんだぜ。へっへっへ。」

盗んだ人物は2駅隣で降り、人込みに紛れて駅併設の商業施設へ逃げ込んだ。

建物内も随分多くの客で混雑していた。

それをかき分け、屋上の広場で一休みすることとした。


ベンチに座り、一息つくと睡魔に襲われた。

まぁ、ここは彼の誘いに乗っても構わないだろう。一眠りすることとした。


そして盗んだ物はまた別の誰かに盗まれた。

なんということだ。どれだけの人の手を渡り歩けば気が済むのだろう。


まぁ、どうしても欲しかった物ではない。

また誰かから別の物を盗めばよいだろうと考え、屋上を後にした。


一方、また新たな窃盗犯となった人物はまだ屋上に残っていた。

そしてその人物は、最初に窃盗被害に遭った人物であった。

自らの手で取り戻すことに成功したのである。その人物は大いに喜んだ。





翌日。

とある商業施設で窃盗犯が逮捕されたというニュースが流れた。

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