第24話 モントシュタイル

 朝を走り、街や村を見つけては情報収集ついでに滅ぼし、夜は早めに休息をとるという生活は四日目を迎えた。最近になって気づいたことだが、四大の量が増えたような気がする。そして、私たちに牙を剥く者が多くなった。街で訊いた話だが、エルヴァーリオ亡き今、ずいぶんと政治体制がこれまでと変わったらしい。これまで潜んでいた反クレオール教の者たちが蜂起し、殺気立っているそうだ。新たに教皇として君臨した者は女らしいが、彼女も反クレオール教のようだ。国家の半数以上が反クレオール教となった今、もはや内乱も考えられる状況にある。私に対する相当な恨みを抱いている者も多いようである。

 そう教えてくれた男もまた、反クレオール教だという。かつて炎の神を屠る際、下半身が動けなくなってしまったらしい。その恨みは相当のものであるようで、私をぶち殺してやるのだと意気込んでいた。私は彼を燃やした。最期まで彼は私に呪いを吐いていた。形なき呪いを。

 くだらない。私は思わずため息を漏らした。クレオール教もクレオール教だが、反クレオール教も反クレオール教だ。前者はその罪を受け入れた自分に酔い、後者はその罪をも棚に上げているだけ。結局は、自分本位でしかない。

 まぁ、それでも構わない。私の前に立つ限り、君達は敵なのだ。クレオール教も反クレオール教も、無信教も、動物でさえ。生けるもの、全てを私は屠ろう。腕を裂き、血を流し、黒炎は石畳に踊る。幾つもの街が、村が、灰を纏って死せる――。

 そんな旅は六日を数え、夕刻の平原を馬で駆けていた頃だ。突如、馬が嘶きを上げ、進むのを止めた。急ブレーキに、荷台ががたりと揺れる。鈍い音と共に、エインの呻き声が聞こえてきた。


「いっつ……なんだよ……っ!」


 寝ぼけ眼を擦りながら顔を覗かせたエインに、私はその先を顎で示した。


「到着だ」


 切り立つ崖の下、広がる風景。巨大な運河の川沿いに、木組みの家々は立ち並んでいた。橋をまたぐ小さな街並みに、緑が溶け込んでいる。モントシュタイルを見下ろし、エインは待望の静かな歓声を上げた。


「ここが、モントシュタイル……!」


 崖の上から望むモントシュタイルの街並みには、争いの痕跡が残っていた。破壊された家々に、燻りを見せる緑。焦げた石畳に、崩れ落ちた橋。住むに値しない場所となり果てている。だが、確かに奴らはいるのだ。眼下に広がる広場で開かれている市は、賑わいを見せていた。

 ふと隣を見ると、黒炎はまさに奴らを飲み込もうと、意気込むように盛っていた。エインの瞳が輝く。真っ赤な瞳が、炎を宿す。

 私は、彼の背を押した。


「とっとと行くぞ。私とて、時間が惜しくないわけではない」


 ナイフで手首を裂き、溢れ出る鮮血をガラスの小瓶で受ける。血で満たしたそれをエインに授け、私は笑った。


「暴れてこい、エイン。自我など忘れ、欲望のままに屠るのだ」


 手首を振り払うと、エインの黒炎は爆発的に燃え上がった。彼は自らの頬に飛んだ血を指で掬い、そっと口づけるように舐めた。

 怖気が立つほどの笑顔。それは、彼の顔が歪んでいるから、というわけではない。

 使命を宿した眼。死を纏い死を運ぶ、その狂気に、美しさを感じたのだ。


「――あぁ、もちろんさ」


 黒き死の炎は、まるで地を這う蛇のごとく崖を下る。

 私は荷台を置いて馬に跨り、崖を駆け下りた。血を振りまきながら、私は街を駆け抜けた。

 私には、まだ謎が残っているのだ。

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