第3話  Purpose

「……で。七花さん、色々と説明してもらおうか。」

現在は昼休み、そしてここはこの高校のA組専用個室自習室。

そこに俺と唯、そして七花さんで座っている。

この施設は個室とはいってもそれなりに広く、アクティブラーニングと言うのだろうか、生徒同士の教えあいも可能な場となっている。

監視カメラがついているため世間に見られてはばかられるような行為は出来ないが、こうやって喋るのには適している。

多くの人間は、A組に限るが、昼休みをこの場所で摂って、そのまま勉強するようだ。

「……うん。わかった……。」

七花さんはそう答えた。


あの波乱のホームルームの後、七花さんのまわりにはクラスメイトが集まってしまったため話は出来なかった。

そういう理由で、俺と唯は七花さんを誘って、昼休みにこの場所に来たということだ。

ちなみに俺はいつもこの部屋で唯と昼ご飯を食べているから、そこに七花さんが加わっただけと言うこともできる。

「でも、話の節々を信じられないかもしれないから、できるだけ質問は最後にしてもらってもいい……?」

「……わかった。」

「うん……。」

俺と唯はそのお願いを了承した。

「……。」

七花さんは、思案するように、少しだけ間を空ける。

その時間は、空気を真剣なものに変える効力を発揮した。

終ぞ、七花さんは口を開く。

「……実はね、私は未来からきたの。」

「「……は?」」

俺と唯は、先刻前の七花さんのお願いを一瞬で無視してしまった。

「あ……ごめん!続きをどうぞ……!」

唯は咄嗟にそれに気づき、七花さんへ続きを促した。

「そういう反応になるのも仕方ないと思う……。でも、正確には私自身は未来人じゃなくて、私の中にある意思……魂とでもいえばいいのかな?それが未来から来たものなの……。」

「「……。」」

「タイムパラドックスって知ってる?未来から過去に来た際に、過去を大きく変えてしまうことで、様々な矛盾が生じてしまう、という説なの。だから、私は自分の体は持ってくることができなかった。だってそんなことしたら、この時代には私が二人存在することになっちゃうからね……」

「「……。」」

俺と唯は言葉を失っていた。

「魂だけでも過去に戻る行為にタイムパラドックスが生じてしまうんだけど、私は特殊な体質でね……。少しだけならタイムパラドックスを起こせるの。尤も、さっき言ったように、私の体がこの時代に2つ存在するような、大きなパラドックスは起こせないけどね」

……なんだそれは。と俺は思わずにはいられなかった。

「それで、私が来た世界はここから6年後の2026年。……とある人物に頼まれて、この世界、この時代に来たの」

俺は、次に来る言葉を直感的に予想し、そして当ててしまった。

「……。……その人物はね、翔くん……あなたなの。」

唯が俺の方を見る。

明らかに、表情から動揺が見て取れる。

それは、俺とて例外ではなかった。

「……。すまないが、流石に質問をさせてもらう。未来の俺は、どういう目的で七花さんに過去に行くよう頼んだんだ……?」

「未来の翔くんはね、実は私が補助する教授なの……。」

「きょ、教授だと…?六年後で教授……?」

「あなたは、このまま進めば東京大学に進学する。そして、若くして物理学の権威になるほどの功績を残した。……つまりは、タイムマシーンを発明した。本来なら、教授になるには、年を重ねる必要がある。でも、貴方はその時代の日本の顔になった。そんな人間を、粗末な地位に置いておくことはできないと判断した政府は、貴方を特別に、日本一の大学の、教授……正確には特任教授に任命したの。驚くべきことに、反発はほとんどなかった。だって、それほど凄い功績を残したのだからね」

「タイムマシーン……。」

「だけど、未来のあなたは人付き合いが苦手というか、もう人と仲良くなるのを諦めているというか……。このままだと、天涯孤独になるから。……ということで高校生の時の自分を変えてもらうために私を過去に送ったの。」

「「……え?」」

俺と唯は、二人揃って素っ頓狂な声を挙げた。

「そんなことで……未来の俺は七花さんをここに送ったのか……?」

「……実はね、そうなの……。」

七花さんは真面目な顔でそう告げた。

「いや、それは流石に無いだろう……。タイムラドックスとかタイムマシーンとか、色々よくわからないことを言われたが、最後のそれは流石に信じがたい、というより信じたくはないのだが……。」

俺はそう突っ込まずにはいられなかった。

なんで七花さんはそれに応じたのか、とか訊きたいことは山程あったが、その質問全てを忘れ去るぐらい、その事実が嘘であると思いたかった。

……だって、そんなの……。

みっともなさすぎるだろ……。


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