ロリでも愛してくれますか?〜幼馴染と付き合ったら寝不足でロリになる特異体質者だった件〜

ラッコ

1 「俺と付き合ってほしい!」

 梅田葵太(あおた)は決心した。今日必ず、愛しの幼馴染・中崎姫奈(ひな)に告白しようと。


 ふたりが出会ったのは幼稚園のときだ。家が近かったこと、学力的にも近かったことなどが理由で、幼小中高と同じ学校。高校2年生の今は、通算7度目の同じクラスだ。


 姫奈は学校中で知られる美少女である。瞳は大きく、鼻筋は通り、色は白く、長い黒髪は手入れが行き届いている。おまけに性格は優しく、誰にでも笑顔で接すると評判。実際、彼女に一切の裏表がないことは、幼馴染の葵太が一番知っていることだ。


 そんなふうにハイスペックな姫奈は、当然ながらモテた。小学生のときは男子からイジメに近いことをされたし、中学生になると同学年先輩後輩問わず告白されたし、高校生になるとその勢いは他校への男子へと広がった。


 だけれども、彼女は誰とも付き合おうとしなかった。結果、玉砕した男子は数しれず。幼馴染の葵太ですら、数えるのをやめてしまったくらいだ。きっと、本人も覚えていないだろう。


 容姿端麗。純情可憐。明眸皓歯にして天衣無縫。親しみやすくて、決して高嶺に咲いているわけではないのに、手が届かない撫子の花。


 それが中崎姫奈という女の子だ。


「姫奈、話があるんだ……た、体育館、放課後の、裏、に来てくれないか?」


 だから、葵太が長年の片想いに終止符を打とうと決意しても、それは前向きな感情ばかりではなかった。むしろ玉砕覚悟だったし、幼馴染で趣味が近いという共通項はあるにせよ、クラスでは日陰者な自分が釣り合う相手じゃないよな……という気持ちもあった。


 それゆえ、いざ告白の場所へと誘うときも、日本語がおかしくなった。なんだよ、放課後の裏って。 


「……放課後、体育館の裏にってことだよね?」


 そんな日本語でも、頭のいい姫奈は葵太の意図がわかったらしく、小さく聞き返した。葵太が黙ってうなずくと、姫奈は「うん、わかった!」と返した。いつものように明るく清廉な笑顔だったものの、なぜか一緒に教室へと行かず、ひとりでトタタと先に走っていってしまった。


 これが今日の朝、授業が始まる前に、下駄箱のところでした会話。


 時間が経って放課後の今、体育館の裏にて、葵太は姫奈と向き合っていた。


「えっと、姫奈」

「うん」

「きゅ、急に呼び出してごめんな!」

「や、朝に言われたしべつに急ではないと思うけど……」

「そ、そうか。それもそうだよな!」

「えーと、うん」


 真面目なツッコミに、勢いをそがれる葵太。


「……」

「……」


 ぎこちない沈黙が、容赦なく幼馴染であるふたりの周囲を包んでいく。姫奈は視線を斜め上に逸らし、手をモゾモゾとしている。どうやら今からなにが行なわれているか勘付いているらしい。まあ体育館の裏に呼び出されて気づかないのも難しいだろうが。


 心臓があり得ないほど激しく動き、呼吸の仕方すら忘れそうなほど自分が緊張していることに、葵太は気づいた。


「葵太、話ってなあに?」


 助け舟を出すかのように、姫奈が首をかしげた。風に吹かれた髪を華奢な手でおさえつけ、葵太を斜め下から覗き込んだ。清楚でありながら、どこか蠱惑的な雰囲気もある、そんな感じだ。


 ああ、なんてかわいいんだ俺の幼馴染は……葵太は少しだけ、心にゆとりが出来るのを感じた。その隙を見逃さず、息を吸い込み、一気に言った。


「姫奈、ずっと好きだった! 俺と付き合ってほしい!」

「うん、いいよ」

「そりゃ姫奈はかわいいし、俺みたいな冴えない男と付き合う必要なんかないだろうけど、でも誰よりも姫奈のこと昔から好きで、それだけは自信があって、もし付き合ってくれたら絶対に大切に……って、え、今なんて?」

「いいよって。彼女になるって言ったの、葵太の」


 葵太が聞き返すと、姫奈はそう返した。口先は不満げに少し突き出てて、呆れたように肩を落として腰に手を当てつつも、瞳は嬉しそうに細められており、白い頬は赤く蒸気している。


 告白が成功した……そう理解した瞬間、葵太の全身を大きな喜びが駆け巡って、


「わーっ、やったあああっっっ!!! 姫奈と付き合えるっっっ!!! 嬉しすぎるぞおおおお!!!」

「あ、でも葵太! ちょっと待って!」

「えっ?」


 叫んだのだが、すぐに姫奈が止めた。戸惑う葵太に、人差し指をピッと立てる。


「でも、ひとつ条件があって……」

「条件?」

「うん、条件。というか秘密かな」

「ひ、秘密?」

「……いやでもどうだろ。いくら幼馴染の葵太でも、やっぱさすがにこれは聞けないかな……」

「ちょっと待って。一体なんのことかさっぱり」

「んーでもなあ……付き合うならそこだけは飲んでほしいし……」

「そ、そんなにアレなのか。厳しい感じのやつなのか」


 つい十数秒前まで笑顔だったとは思えないような、険しい表情で姫奈はうなずく。


「そうだと思う。きっと驚くし、戸惑うし、面倒な女だって思うだろうし、なんなら私のことを『気持ち悪い』とすら思うかもしれない……」


 葵太は、姫奈の言葉が飲み込めないままだった。驚いて戸惑って面倒だと思って、最悪、気持ち悪いとすら思う可能性がある……どんな条件なのか、まったく理解できない。


 だけど、せっかくうまくいった告白を、自ら手放す気にはなれなかった。だから胸を張って言ってやる。


「お、俺が姫奈のこと気持ち悪いなんて思うわけないだろっ!」

「そうかな?」

「当たり前だ。俺たち何年の付き合いだと思ってるんだ」

「えっと11年くらい?」

「惜しい12年。正確には12年と46日な」

「え、出会った日も覚えてるんだ」

「幼稚園の入園式の日だからな。具体的には3月10日。覚えやすいだろ?」

「普通に忘れてたし、そこまで覚えてるのは正直ちょっと気持ち悪いかも……」

「……そっか、俺が姫奈のこと気持ち悪いと思うことがなくても、姫奈が俺のこと気持ち悪いと思うことはあるんだな……ああ、世界はなんて残酷で美しいんだ……」

「ミカサみたいなこと言うんだね。幼馴染なだけに」


 告白が成功したこともあって、変なテンションになっている葵太に、姫奈は静かに呆れつつ、


「でも、そうだよね……他の男子は無理でも、おバカな葵太なら大丈夫かもしんないもんね」


 真剣な表情に戻って、そんなふうに言う。どこか自分に言い聞かせるような口調だった。


「褒めてるのかけなしてるのかわかんないってのはさておき、その通りだよ。俺に聞けることならなんでも聞くから、だからその条件とやらを教えてほしい」

「わかった」


 そして、姫奈はゆっくりとうなずくと、


「今から、私の家に来てもらえる?」


 そう言ったのだった。

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