第7話 Gが幼なじみを殺した理由

Gは趣味で小説を書いていた。

小学校の頃から書いていて、友達の間で読み合いをしたり、中学生になる頃には、ネットに自作の小説をあげていた。

Gの小説を、友達はとても面白いと言ってくれるが、ネットでの閲覧数はそれほど伸びず、最新作が二桁PVがつくだけで奇跡のような状態が続いていた。

Gの小説を真っ先に読むのは近しい友達でもネットの読者でもなかった。

Gには幼稚園の頃からの幼なじみがおり、彼女こそが第一の読者だった。

しかしGと幼なじみは、親友と言える間柄ではなかったと、周囲の人間は言う。

家が近所で、同じ幼稚園、小学校、中学校に通うようになり、通学路が一緒なので一緒に登校しなければならなかったというだけの関係のようで、学校に到着すると早々にお互いの友達のところに行ってしまうのを、多くの人が目撃していた。

だからこそ、Gが幼なじみを殺したというニュースに同級生が感じたのは、驚きよりも微妙な違和感だった。

Gは幼なじみに対して、殺害に至るほどの感情を向けているようには誰も感じなかったのだという。

Gは幼なじみに対して、薄っすらとした無関心しか示してこなかった。それは幼なじみも同様だった。というのが周囲の見解だった。

だから、Gが幼なじみにいつも小説を読ませていたというのも、何か不思議な感じがしたという。

「Gは、クラスの人気者って感じじゃないけど、アニメとか漫画が好きな子たちのグループでは生き生きするタイプ。そういうグループの中だと、垢ぬけてるほうだったから、中心になって、盛り上げてく感じだった。○○ちゃん(※幼なじみの本名)は、頭も良くて、優等生タイプ。大人っぽくて、みんなから一目置かれるタイプっていうのかな。本も好きだけど、そういう、なんていうの、クラスの子が書いたアニメ系?読むタイプには全然見えなかった」

警察はGが幼なじみを殺した理由を、「自作の小説を馬鹿にされたから」と供述していると発表した。






Gは幼なじみを殺した本当の理由を私にだけ教えてくれた。


「別に殺す気はなかったんですけどお」


けれどあなたは睡眠薬を大量に溶かしたポカリスエットを幼なじみに飲ませ、眠った彼女の手首を切って、冷水シャワー下に丸一日放置した。この行動は、殺意がなくては実行できないのではないか。

そのように私は尋ねた。


「まあ、そうですけどお。でも殺す気なんてなかったしい。あたしはただ、小説の殺害シーンがありえないとか、あいつが言うから、実際に死なないか試させただけだしい」


Gは毎回幼なじみに小説を読ませていた。しかし幼なじみの評価はいつも辛口だった。

現実では、こんなトリックは成功しない。キャラクターにリアリティがない。台詞がわざとらしい。実際の人物はこんなこと言わない。

幼なじみはいつも淡々と指摘した。

殺害される一週間前に、Gは幼なじみに「一回くらい、ちゃんとしたの書いてきてよ」と言われたという。


「なんかあ、さすがにむかついてえ。で、すっごい頑張って書いたんだけどお、人がいっぱい殺されるやつ。ちゃんと昔の事件とか調べて、同じような殺し方があるの確認したりしてえ。なのにあいつ、こんなんじゃ人は死なないって」


ポカリスエットに大量の睡眠薬を混ぜれば味で気づく。

仮に気づかなかったとしても、シャワー室に引きずられたら起きてしまう。

人が手首を切って死ねるのはフィクションだけ。

もしここまで目が覚めなかったとしても、さすがに冷水に当てられたら起きるにきまってる。


「…とかいうからあ、自分で体験したこともないくせにさあ、リアリティとかあ、現実にはとか、すっごいうるせえから、実際にやってみたってだけ。殺す気なんてなかったよお」


しかし殺害シーンを再現したのなら、やはり殺意があったのではないか、と私は尋ねた。


「いやだからさあ、何回も言ってんじゃん。殺す気なかったって。そんなつもりはなかったのお」


Gはふいに、満面の笑みを浮かべた。


「にしても、こんなんじゃ死なないって言ってたやつが、その方法で死んでちゃ、馬鹿みたいだよねえ。あいつ、それほど頭も良かったのかなあ。結局口だけで、現実なんてすこしも知らなかったしね」



Gは未成年なので、裁判が終わると早々に、厚生施設に送られた。

厚生施設では読書クラブに入り、小説を書くことも続けているという。

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