永遠の幸せを祈って

 響き渡る鐘の音。それは祝福を意味していた。永遠に結ばれる二人を見守る晴天。飛ぶ鳩たち。

「おめでとう!」

「おめでとう! お幸せに!」

 お祝いの声が飛び交う、幸せな広場。人の輪の中心に立っているのは……。紛れもなく、あたしとデニーロだ。

 憧れだったウェディングドレス。デニーロにベールを上げてもらって、今ここにいる。

 白いタキシードをシャキッと着こなしたデニーロは、少し緊張した様子だった。が、いつも通りの彼。問題ない。あたしはデニーロの手をそっと包み込み、温もりを伝えた。

「僕は……一生、レウェリエを守ります!! 一生、愛し続けます!」

 その言葉にあたしは思いっきり息を飲んだ。こんなにはっきり言って呉れるだなんて、思いもしなかった。ただただ幸福でいっぱいの気持ちに満たされている。愛しい……。

「あたしも、一生デニーロを愛し、デニーロのもとに居続けます!」

 しっかり、お返ししなきゃね。あたしはフフッと微笑み、デニーロを見上げる。デニーロと目を合わせ、微笑む。約束、果たせたね。生きて帰れたよ。

 向かい合ったあたしたち。緊張するなあ……。

 そっと、そっと歩み寄る。この一歩一歩にあたしたちのこれまでの想いがたくさん詰まっている。

 失った仲間のためにも、エステラのためにも、あたしは幸せにならなくてはいけないのだ。護られたあたしの命。大切に生きなくては。

 握った手から伝わる愛しさ。ああ、デニーロ。一生あなたのもとにいるわ。デニーロも、一生あたしを愛して……くれる?? 

「っ……」

 柔らかな唇の感触に、そっと目を閉じる。こんなにも幸せな瞬間、他にあるだろうか。こんなにも好きで満ちた瞬間、他にあるだろうか。

 様々な疑問が頭の中に浮かび上がってくる。

『おめでとう、レウェリエ。幸せにね』

『幸せにな。頑張るんだぞ』

『しっかり、デニーロに付いて行って、幸せにね!』

『素敵! レウェリエ! お幸せに!』

 広場の端には、アネラ、雷姫、ソフィア、エレナが立っていて、お祝いの言葉をかけてくれていた。

 きっと幻想だろう。なのに、とても嬉しかった。また逢いたいという想いが、幻想という形だけれど叶って良かった。心からそう思えた。 

『レウェリエ』

 一人、近づいてくるアネラ。涙を堪えているかのような表情で、あたしに歩み寄る。

「アネラ……」

 あたしもまた、泣きそうだ。でも、こんなところで泣くわけにはいかないと、グッと堪える。が、涙腺は正直で、もう限界だ。

「時間は止めてあるわ。いくらでも感情を解き放っていいのよ」

 その言葉は、あたしを安心させるのには大きすぎて——。

「あたし……、皆に、生き返ってほしい……」

 なんと甘えた言葉なのだろう。幼稚すぎる。故人を生き返らすなんて、絶対に不可能だ。だけども、アネラは全て受け止めてくれた。

『そう思ってくれて、嬉しい。判っているとは思うけど、あたしたちはもう既に他の世界に転生してしまっているうえに、宿命も背負っているわ。だから、エステラにはもう戻れない』

「だよね……」

 判り切っていた筈なのに、何故か悲しかった。それはあたしの中にまだ絶ちきれていないものがあるからだろう。もう子どもじゃないんだから、きっぱりと忘れなきゃいけないのに。

『無理して忘れる必要はないわ。寧ろ、忘れないでほしい』

 懐かしそうに空を仰ぐアネラの瞳。疲れているのか、目の下にはクマ。アネラは今、どんな世界で生きているのだろうか。

 あたしが思っているよりずっと過酷で理不尽な世界で生きているであろうアネラたち。四人からは、強さと、その中にある優しさが感じられた。

 じゃあ、あたしも強くならなくちゃ、ね?

「大丈夫」

『え?』

 心配そうにあたしの顔を覗き込むアネラ。

「あたし、強くなるから」

 なんか、気恥ずかしい。それはきっと、あたしが未熟だからだろう。なら、いつかこの言葉が気恥ずかしくなくなるくらい、強くならなければいけないのだ。

『いつかの再開の時には、ちゃんと強くなっていてね』

 いつかの再開は、いつかなあ……。まあ、この先永遠に逢えないなんて言うことはない。だって、あたしたちは同じ「ザルバドル」であり、「友達」なんだから。逢えない筈がないのだ。

 あたしには大切な思い出があり、大切な人もいる。この幸せは、あたしが「選ばれしもの」だからこそ、感じることができるのだろう。

 エステラの綺麗な空気に消えて行く四人をそっと見守った。

 あたしにはデニーロがいるし、四人ともまたいつか逢えるから、大丈夫。それまでに、ちゃんと強くなろう……。

 青空に、仲間を想った——。

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