第3話 未来から

 未来の幽霊?


 意味が分からない…。俺は酷く困惑する。


 霊媒師は変な汗を光らせながら、巻いていく様に話しだした。

「私としては、六本木さんは引っ越された方が良い。この霊は六本木さんに憑いているのではなく、この部屋を気に入ったみたいなのでね。

確かにこの部屋は眺めも良いし、陽射しも入ってくる角部屋。特にこのロフト付きってのが、この子(幽霊)にしちゃ、珍しくて、そりゃもう子供の様に興奮してらっしゃる。

どうですか?六本木さん引っ越されてみては?」


 いやいや、ちょっと待てよと。お前は不動産の仲介業者か?

 そうだ、その通り。霊媒師の言った通り、俺だってこの部屋を気に入っている。しかも、入居して間も無いので、初期費用で金は使ったばっかりだ。今、退去する為の金なんて全く無い。しかし、それしか方法が無いと言われてしまうと…。


 俺がしばらく熟考していると、霊媒師は口を開いた。

「六分儀さん。私からのアドバイスなのですがね。」

「いや、六分儀じゃなくて六本木です。どうやったら、逆に難しい単語に間違えるんですか?絶対わざとでしょ?」

「そいつは失礼しました。せっかく洒落た苗字なもので、一回ぐらい間違えてやろうという気持ちが出てしまいまして…」

「いや、それはいいので話を進めて下さい。アドバイスっていうのは何なんでしょうか?」


 霊媒師は斜め後を向き、何かを確認してから、再度俺の目を見て話し始めた。


「直接彼女と話して六本木さんが相談に乗ってあげて下さい。」

「彼女?」

「はい。幽霊の事ですよ。何故未来から来たのか。何が起きたのか。六本木さんが直接話を聞いてあげて打開策を見つけるのです。」


 誰でもそうだと思うが、俺はキョトーンとして、しばらく無我になっていた。


「では、六本木さん健闘を祈ります。」

 ロードバイク用のヘルメットをかぶって帰ろうとする霊媒師を止めて慌てて俺は聞いた。

「ちょっと待って下さい!霊とあなたが話してくれませんか?そもそも、俺は幽霊の姿なんて見えてもいないんですし!」


 霊媒師は少し面倒くさそうな顔して畳み掛けるように言ってきた。

「申し訳ないが、私は次の約束(ツーリング)があるのです。御代も結構って言ったでしょ?私がこの部屋を出たら幽霊は六本木さんの前に姿を見せると言ってました。

というか、私の儀式のお陰で、六本木さんにも霊の姿が見えるようになったんですよ。後は、直接この子(幽霊)と話して自分達で解決策を模索して下さい。

言いましたよね?未来の霊だから、この時代じゃ除霊できないと!

つまり、この子を未来に戻さない限りは成仏できないのです!!」


 ???


 えっと、俺がバカなのか?全くもって整理がつかない…


 怪談?未来?え?これはSF?なんだ、未来に返すって?霊媒師が一気に説明をしたものだから、自分の頭で整理するのに時間がかかる。というか、整理しても、意味が分からない。


 俺はとりあえず、この部屋に取り残されるのが怖く、霊媒師を外まで見送った。


「いい自転車ですね。ビアンキですか。」

 霊媒師の変に興奮していた感情を沈める様に話を逸らしてみた。


「お?六本木さん、よくご存知で。六本木さんもロードバイク乗りですか?よかっから、今度ツーリング是非参加して下さいよ。」


 ロードバイクの話になったら急ににこやかになりやがって!さっきまでの渓谷の様な眉間のしわはどこ行った!

「いえいえ、僕は漫画で知っているだけなので、せっかくのお誘い申し訳ありません。」

 俺が謝っているのも変だよな?と思いながら最後に大事な事を霊媒師に聞いた。


「あの、その幽霊ってのは危害とかそういうのは無さそうですか?」

 霊媒師はロードバイクに跨り、俺の方を振り向いて、こう言った。


「とても素直で感じの良い女性です。私はこの年齢なんで理解できませんが、容姿は今時の女性が加工詐欺した写真の様に目がやたら大きくて、顎のラインがやたら細い。

宇宙人のグレイ型ってありますよね?未来の人間は皆、そんな感じかもしれませんねー。

ま、とにかく何かあれば連絡下さいな。玄関開けたら、彼女があなたの事を待ってますよ。」


 まるで、俺に彼女を紹介してやったんだぜ?みたいな腹立つ顔で、親指でグッドポーズをしながら、ウィンクをして、前に姿勢を戻すと颯爽とロードバイクで消えていった。


 こけろ!と念じてみたがダメだった。


 それよりも幽霊だ。危害が無いなら、とりあえず話してみるか。その未来から来た幽霊って女に。まずは、「なんで未来からこの時代に来たのか?」それが重要だ。


 恥ずかしい話だが、俺は霊媒師の話に少し気が乗っていた部分も正直あった。

 幽霊が飲み物や食べ物を摂らないという概念があるのにも関わらず、近くのコンビニで二人分の飲み物や食べ物やお菓子、幽霊用の歯ブラシセットを購入していた。


 アパートに戻り、玄関扉を開ける。


 だが俺はこの時、まだまだ想像を絶する壮大な物語に巻き込まれる事を知らない。


 ……ガチャ


「おかえりなさい。」

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