第14話 狼の結末 (途中から別視点)

 アランが、狼が包まれている影の前に立って、何かしている雰囲気がある。

 だが、アランが何しているのかは全く分からなかった。

 なぜなら、俺の目からはただ、突っ立っているようにしか見えないからだ。

 俺が「拘束を解こうか」とアランに聞くと、アランは「申し訳ないですけど、拘束したままでお願いします」と言った。

 なんだか、時間がかかりそうだったから、ゴブリンの解体作業に入る。

 あの狼がここにいるおかげか、森の雰囲気がさっきとは全く違くて、ゴブリンとかが来る気配を感じられない。


 ということで、狼を拘束している影は動かさず、新たに足元の影を伸ばし、未解体のゴブリンを次々と出していく。

 アリスから、ナイフを一本借りて、ゴブリンの首から骨をとる作業を繰り返す。


「アリス。アランが何してるか分かるか?」

「分からないです。ただ、ご主人様とあの狼が戦っている時、顔をものすごく青くしてたので、最初から何か感じていたのだと思います」

「そうなのか」

「それにしても、ご主人様、本当に強かったです。初めてご主人様が全力で戦っているところを見たのですが、どんな相手でも負けないと思いました」

「ははは。アリスありがとう。でもな、それはあの狼が手加減してたからだな」

「そうなのですか?」

「あぁ。あの狼はいつでも俺を倒すことが出来たはずなのに、全然攻撃しようして来なかったんだぞ。今考えるとたぶん、アランとの関係が何かしらあって攻めて来なかったんだろう。そんな相手に流石に負けない」

「そう…なのですか?私にはご主人様に攻め入る隙が無かったと思うのですが」

「そうでもないぞ。俺があの狼の速度に慣れるまで、普通に見失ってたからな」

「それでも…いや、ご主人様はまだ今の実力に満足してないわけですね。流石です、ご主人様」

「あはは。ありがとな」

 アリスの言葉に思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 そこまで持ち上げられると、悪い気はしない。


 会話しながらも解体は進んでおり、解体作業はすぐ終わった。

 だが、アランはまだ突っ立ったままで、まだ終わっていない様子だ。

 俺はゴブリンの死体を端に集め、アリスと一緒に少しばかり休憩することにした。

 休憩するために、腰を下ろし水を飲もうとした瞬間、俺は立ち上がった。


 なぜ立ち上がったかというと、影の中にいたはずの狼が、急に消えたからである。

 いや、消えてはいないみたいだ。

 小さくなった存在を確かに感じる。一気に小さくなったせいで、消えたと勘違いしたみたいだ。

 いや、いきなり小さくなるなんて、あの狼はおかしいだろ。

 とりあえず、小さくなった狼を影で捕まえる。


「レインさん!ありがとうございます。もうこの狼を拘束しなくて大丈夫です」

 アランからそう言われ、俺はすぐさま影を解除して、狼を解放する。

 影の中から出てきたのは、体長1mぐらいになった狼が現れた。


「解放したが、なんでこの狼は小さくなってるんだ?そもそもアランはこの狼と関係ありそうだが、いったいどういう関係なんだ?」

「そのあたりもちゃんと説明してくれるよね?」

「分かってます。ちゃんと説明させてもらいます」


 時間も時間だし、街に帰りながらアランの話を聞くことになった。


****アラン視点****



「なにか、とてつもない速さで近づいて来ます!」

 アリスがそう言い切る前に、俺の目の前に黒い柱があった。

 一瞬、この柱が魔物かと思ったけど、一泊おいてレインさんの影が作り出した物だと気づいた。

《やっと見つけたぞ》

 とっさに直前までゴブリンと戦っていて、握っていた剣を声が聞こえた方向へ向ける。

 そこには神力を纏った、まるで神獣と言わんばかりの狼が立っていた。

 その狼と目があった瞬間、狼は再び消えてしまった。その直後に狼が立っていた場所に黒い棘が突き出していた。

 これもレインさんの影が作り出した物だと感じる。

《聖騎士のお主、聞こえておるのだろう。私は敵ではない。攻撃の手を止めてもらえぬか?》

 頭の中に、誰か分からない声が聞こえる。

 声の聞こえた方向を向くと、またもや狼がいた。

 しかし、すぐまた消えてしまい、代わりに黒い棘が飛び出してきた。

(お前はいったい何者なんだ)

 狼に話しかけるように、頭の中で狼に語りかける。

《それは、落ち着いて話したいのだが、お主の仲間の攻撃が鬱陶しくてできないのだ。先ほども言ったが、攻撃の手を止めてもらいたい》

 どうやらテレパシーは成功したみたいで、返事が返ってきた。


 どうやらあの狼は敵ではなく、なんなら仲間になりそうな展開に感じる。

 だから、レインさんの元に行き、攻撃をやめてもらおうとする。

 しかし、ジョブの恩恵の一つ、危機察知能力が激しく警鐘を鳴らしてきた。一歩でも動くと危険だと。


 落ち着いて辺りを見回すと、全てが黒に染まっていた。

 たぶん、この黒はレインさんの影だ。でも、何で僕に危険を及ぼすかは分からない。

 だけど、影を踏んでレインさんの元に行くことはなかった。

 初めて機能した危機察知能力、初めて見るレインさんの本気の戦闘にびびって、初めて身に迫る命の危険に立ち向かうことは出来なかった。


(すみません。僕にレインさんを止めることは出来ないです)

《そうか、ならばその男を殺すしかあるまい》

(こ、殺す!?どうして殺す必要があるんですか)

《お主さえ無事なら問題ない。邪魔するやつは殺してでも排除するだけだ》

 僕は一気に血の気が引いた。

 僕を奴隷から助けてくれたレインさんが、僕のせいで死んでしまうことが最悪だった。

 だから、もう一度説得に臨んだ。


(待ってください。僕は奴隷で、レインさんがご主人様なんです。レインさんを殺したら、奴隷である僕が生きていけなくなるかもしれませんよ)

《ほう。ならば一層とその男を殺す必要が出てきたな》

(えっ、どうして!)

《聖騎士を奴隷にするなど、あってはならないことだ。それに、ここでこの男を殺しても、お主の制約の対象がいなくなるだけで、利点しかないからな》


 僕はやってしまった。狼を止めるために言った一言で、レインさんが死んでしまう。

 それからは何も考えることは出来ずに、ただ呆然と立ち尽くしていた。


 それからどれぐらい経ったのか分からないが、辺り一面に貼っていた緊張感と、黒い影が無くなっていた。

 あぁ、レインさんが死んじゃったんだな。

 そう思った時、目の前に見覚えのある背中があってとても驚いた。


 レインさんが大丈夫かと声をかけてきた。俺からしたらレインさんの方が大丈夫かと不安だったけど、落ち着きを取り戻すまで言葉に詰まって、聞けなかった。

 レインさんが、この影の中にあの狼がいるから、俺の力できれいに殺して欲しいと言ってきた。

 レインさんを殺そうとしてたし、俺も殺したい気持ちは少しでもあった。だけど、ペット枠として仲間にするのも良いと良いと考えた。

 一番の理由は話が通じる生物を殺すのが嫌だった。この狼が喋れるのは俺しか知らないから、この気持ちは多分誰にもわからない。


 レインさんに話して、影の中の狼と話したい旨を伝えた。すると、レインさんは何の疑いもせずにそれを許してくれた。

 レインさんは拾ってくれた時から、ずっと俺らの話を信じてくれる。


(そこの狼、この声聞こえてる?)

《なんだ、殺るならさっさと殺ってくれ》

(いや、僕は殺すつもりはない。レインさんは分からないけど)

《どういう事だ?お主は私に何をさせたいのだ》

(お前には僕たちの仲間になって欲しい。正確にはレインさんに従ってもらう)

《ふざけるな!聖獣である私が、聖騎士でもない人間に服従しなければならないのか!》

 簡単に予想できた回答で、思わずため息が出た。

(君が今どういう状況か分かってる?その聖騎士でもない人間に負けて、拘束されてるんだ。負けたら服従するのは当たり前じゃないのか)

《だが、わざわざあの男でなくとも良いではないか。聖騎士であるお主に従っても同じではないか》

 たしかにその通りだ。だけど、戦いに参加してない、自分に実力が足りないとかの理由を抜きにしても、ちゃんとした理由がある。


(さっき、お前は「奴隷は制約の対象が主人のみ」と言っていたけど、制約の対象に「主人の主人」は含まれているのか?)

《ぐっ、それは……》

 狼の返事には、図星を突かれて困ったような声色を感じた。


 やっぱりそうだったか。

 信じられないことにこの狼は、レインさんに負けたというのにレインさんを殺す気満々だったのだ。

 狼が言うように、俺と主従関係を結んで、それからこの狼に命令で制御できればいいのだが、この世界の奴隷に対しては命令できないから、気付けてよかった。


(て言うわけで、お前にはレインさんに従ってもらう)

《もう…無理か。仕方ない。私もまだ死にたくはない。条件を飲む》

(その前に、主従関係を結ぶためには街の奴隷商に行く必要があるから。そこに行くまでに、そのデカくて目立つから小さくなることってできる?)

《了解した。そのスキルがあるにはあるのだが、久しく使ってないから時間がかかりそうだ》

(わかった。小さくなれたら教えて。そうなったらレインさんに説明して、解放してもらうから)


 レインさんの命の危険を回避したとともに、新たな戦力を迎えることができた。

 それから、俺は狼から連絡が来るまで待っていた。


《よし、スキルを発動させて小さくなれたぞ》

 狼からその連絡が入ったと同時に、目の前の影が一気に小さくなった。

 バッ、とレインさんの方を向くと、少し驚いた表情で構えていた。

 俺はレインさんの反応の速さに少し驚いて、少し慌てながら解放の旨を伝えた。



****あとがき****

 かなり遅くなりました。

 走るJCやJKの育成や、テストやらで時間を食われながらも一応書いてます。

 この小説を書き始めて、小説書いてる人すごいなって思いましたし、そっから絵や漫画など、創作活動してる人にもさらに尊敬の念が込められましたね。


 あとアランとアリスの奴隷紋には、主人に歯向かえない他、主人の命令に絶対服従の機能が付いてます。が、レインは一切命令を使わないので、そんな機能は無いと思っています。


 一回、寝ぼけている時に、ふざけてる下書きを公開してました。読者のほんの数人ですがそれを見られまして、馬鹿にしたような状況になってましたが、そんな意図はさらさらないのでご理解いただけると助かります。 2021/08/03追記


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