番外編 オーウェン-1
ダンジョン内で、ユーリと2人で夜の番を務めていた。焚き火を目の前にして、僕が口を開く。
「ねぇ、本当に明日決行するの?」
「当たり前だ!レインがどんだけ俺らに負担を与えているのか、今さら分からないとは言わせないぞ」
僕がユーリに問いかけると、ユーリは少しイラついた様子で返事を返してきた。
「やっぱりわざわざ殺す必要は無いと思うんだ。普通にパーティーから抜けて貰えば良くない?」
「何を今更。勇者になる君が仲間を捨てるなんてことはしてはいけないんだぞ!そもそもあんな奴がこのパーティーにいること自体間違いだったんだよ。珍しいジョブだから勇者のパーティーにいやがって。珍しいと強いは必ずしも比例するわけでもないんだよ」
ユーリはそれからずっと小さい声で、愚痴をこぼしていた。
レインは僕が2番目に見つけたパーティーメンバーだ。1人目は目の前にいるユーリだ。そのユーリが「影使い…初めて聞くジョブだ。オーウェン、誘ってこい」と言って、僕が誘ったのが始まりだった。
最初の頃は荷物は持たなくて良いし、相手の動きを鈍くして僕たちの攻撃を当てやすくしてくれる、とても良い仲間だった。しかし、敵が強くなるごとにその恩恵は薄くなり、荷物はマジックバックが手に入ったことで、レインがいなくても少なくなった。
さらに彼のジョブの特性上、常にランタンの魔法道具を持っておく必要があって、ダンジョンの敵からの奇襲を受けやすくなった。ユーリが「俺らはランタンの光がある範囲しか目視できないが、モンスターからは俺らのことが丸見えだからだ」と言っていた。僕は反論が思いつかなかった。
ダンジョンのモンスターを倒していくうちに、僕らはジョブからの恩恵が強くなった。しかし、レインは恩恵を受けたと言っていたが、僕らはそこまで変化を感じられなかった。
僕たちのパーティーの中で、彼だけが段々と浮いてきた。彼がいるメリットがなくなり、彼がいるデメリットだけが残ってしまった。
さらにレインはダンジョン後の打ち上げになかなか来ない。理由はハッキリしている。彼が持っているランタンの維持費が掛かり、打ち上げに参加する余裕が無いとのことだ。当然彼がいない酒の席は、彼の悪口で盛り上がる。
その場で彼についての話をしていると、もう1人のパーティーメンバーのルシャは、レインが居なくなっても問題ないと言ったのがきっかけで、パーティーから外す方向に話が固まった。しかし、ユーリが難色を示した。
「レインをパーティーから外すのは賛成だが、あいつは俺らが勧誘していれた人間だ。あいつを誘っておきながら、パーティーから外すのは勇者の卵がいるパーティーとして、外聞がよくないだろう」
と言った。僕はそうは思わなかったが、ユーリの言うことだから間違って無いのだと思った。ルシャは我関せずとした態度で、レインの処遇に関して何も口出しをしてこなかった。
その酒場から1週間もしないうちに、ユーリがある話を持ってきた。
それはダンジョンの穴に関する話だ。
ユーリによると、今僕らが潜っているダンジョンには底が見えない大穴があるらしい。その穴は調査のために何人かの冒険者が犠牲になっている。
一つ、その穴に落ちた冒険者は生きて戻ってこれない。二つ、ロープや風魔法を使ってゆっくり降りても、ロープは突如切れ、風魔法で下に降りたはずの冒険者がバラバラの死体となり、上から落ちてきた。
これらの話があるらしい。そして、ユーリは僕に言ったのだ。
「この穴にレインを突き落とそう。そして亡き者にすることで、新しいパーティーメンバーを追加しよう」
そして今日の朝、僕らはいつも通りにギルドで集まり、件のダンジョンへ向かった。
レインを突き落とす役目は僕になった。ユーリが言うには、僕に人を突き放す、殺すことを経験して欲しいらしい。
一旦、ユーリが言うことには納得した。だけど今になって、レインを殺すことが怖くなった。
だけど、もう決まったことだから、腹を括るしかない。
次の日、僕らは目的の場所に辿り着き、予定通りにレインを突き落とした。
彼は落ちる時に僕を心配したような顔で振り向いた。僕が突き落としたと言うのに。
僕は決して彼のことを忘れないだろう。彼の落ちる時の顔は忘れる気がしない。
「オーウェン、よくやった。君が殺したレインのためにも俺らは新しい仲間を見つけ、より強くなろう」
目的を果たした僕らはダンジョンから出て、ユーリがあらかじめ見つけていた仲間との顔合わせをするためにギルドの酒場へと向かう。
酒場へ辿り着き、新しいパーティーメンバーと顔を合わせるや否やユーリは離脱してギルドへと向かった。
「はじめまして、勇者の卵のオーウェンです」
「はじめましてぇ。私はシスターのリアですぅ。これからよろしくねぇ」
「よろしくお願いします。そしてこっちが……」
「ルシャよ。よろしく」
僕ら3人はユーリが来るまで、どんなことができるかを話しあった。
ユーリはすでにどんなスタイルかを知っていたみたいで、ユーリが来てからは、僕らはダンジョンの浅いところで軽く戦闘をしてコンビネーションを高めようと言う話に落ち着いた。
3日間、浅層で戦闘を行って、リアの働きについて理解できた気がする。彼女はバフをかけてくれて、僕の身体能力やユーリの魔法攻撃力、ルシャが放つ矢の威力を上昇させてくれた。
今までユーリ、ルシャは僕が1体1で戦えるように牽制を行いつつ、ダメージを与えていた。しかし、リアが加わってからは、ユーリ、ルシャのダメージだけでモンスターが倒せるようになり、僕の負担も少なくなった。
正直、レインがいた頃と比べて戦闘が格段に楽になった。
僕たちは、すぐにでも攻略を進める話に固まる。
ギルドに今日の成果を渡しに行く。
買取場所で結果を待っていると、レオが近づいて来る。
「オーウェン!お前ら良かったな、レイン生きて帰ってきたぞ」
「えっ」「は?」
その場にいた、僕とユーリは固まった。僕は頭の中が真っ白になった。
レインが生きてた嬉しさがあるけど、それ以上に彼に恨まれていないかが心配になった。
「レインはなんか言ってたりしてた?」
「あぁ、モンスターにやられて落ちたけど、ジョブのおかげで助かったって言ってたぞ」
「そ、そうなんだ」
僕はレオに質問をして、レオは答えてくれた。
その回答を聞いたユーリは何かを考えるように俯いた。
「あと、新しく登録をしてGランクからスタートで落ち込んでたな。新しいパーティーメンバーを見つけなきゃいけないって」
「本当か!本当にそう言ったのか」
「あ、あぁ」
レオが追加情報を話した瞬間、ユーリがレオの肩を掴み、問い詰めるように聞いた。
レオはユーリの反応が意外だったみたいで、驚いた様子で肯定した。
その直後、買取が終わりお金を受け取りに行く。
「レオ。情報ありがとう。助かったよ、またな」
「おう。またな」
ユーリの明るい様子を見て
「ユーリ、僕はどうしたら良いの?」
「どうやらレインは面倒事を避けているようだ。だから、俺たちに直接害は加えてこないから大丈夫だ。しかし……」
ユーリは誰にも聞こえないような小声で何かを喋りはじめた。
この状態のユーリは話しかけられたら態度が悪くなるから、基本的には放置するしかない。
こんな状態のユーリを置いて、僕らの食事は暗い雰囲気が続いた。
「みんな。明日もダンジョンに潜る予定だったけど、明日1日は休みにしよう。俺に用事ができた」
食事終わりにユーリがそう言った。パーティーのリーダーは僕だが、みんなはユーリの指示に従う。僕もそうだ。
だから、ユーリのこの意見には誰も反対しない。
その夜、僕はレインに対する罪悪感でなかなか寝付けなかった。だけど疲れには勝てず、夜遅くに眠りについた。
しかし、眠りが浅かったのか、太陽が高い位置にある時に目覚めた。
昼ご飯と、鍛錬のためにギルドに向かっている時にレインを見かけた。
彼はすでに新しい仲間を見つけていて、これから依頼の場所に向かっている様子だった。
レインは僕らのことを切り捨てて、すでに新しいスタートラインに立っているんだ。そう自分に思い込ませて、僕も彼のことを振り切って、今の仲間たちと頑張ろうと思った。
ギルドに備え付けの鍛錬場で素振りや、イメージトレーニングをしていると、ユーリがやってきた。
「オーウェン!今日は俺が奢るから一緒に飯食いに行くぞ!」
「いいよ。なんか嬉しいことでもあったの?奢るなんて珍しいじゃん」
「あぁ、そうだな。後顧の憂を断ったからな」
「なにそれ、どう言う意味?」
「これからも俺を信用してくれれば問題ないってことだよ」
「へー、分かったよ」
今日の用事が上手くいったんだろうな。
レインに関することじゃなければ良いんだけど。
****設定****
オーウェンのジョブ「勇者の卵」は成長するジョブで、人によってタイプが変わるジョブ。○○の勇者など。
別にそのジョブだから冒険者になる必要はなく、「農業界の勇者」などのジョブも確認されている。
ちなみに、レインは本当はすごい主人公ではなく、最近の小説では珍しい、本当に役立ってなかったタイプの主人公です。
だから、レインが抜けたことによる瓦解は起きないです。つまりざまぁ要素は無いです。けれど見返すつもりなのでオーウェン達が悔しい思いはすると思います。
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