第31話 恐るべき野望。その陸。

「こ、これは…」


パトリックさんがそう言ったまま絶句している。それは仕方無いだろう…あの巨大な化け物【ケルベロス】が小さな小犬になってしまったのだから。

ただし頭はちゃんと3つあるので一目で魔獣だとは判る。


「お、俺の新しいスキルで…強制的にテイムしました…コレでもう暴れる事はありません」


ミカエルさんに麻痺の解除をするポーションを飲ませてもらった俺はパトリックさんにそう話した。


「強制的…そんな事が出来るとは…やはりサルナス殿は規格外ですなぁ…」


「体力を九割以上削れば強制的にテイム出来る様になるのです。最後、もう少しで九割以上削れたのにスキルが切れてしまって…本当にご迷惑お掛けしました」


「オイオイ…謝ってくれるなよ。此方が謝りたいくらいなのに」


ミカエルさんが苦笑しながらその様に言う。

だが、最後は本当に危なかった…死の覚悟をしたくらいである。今生きているのは間違いなくこの二人のお陰だ…感謝しかない。


「あのスキルが切れて攻撃を喰らった瞬間は死を覚悟しました。パトリックさんとミカエルさんが攻撃してなければ間違いなく死んでたでしょう。本当に感謝します」


「不思議なモノで…あの瞬間咄嗟に身体が動いていたのですよ。昔の血が騒いだのかも知れません」


パトリックさんはそう言ってニコリと笑った。


「それもサルナス君が頑張ってくれたからだ。君が居なければ私もパトリック師もとっくに死んでいたからね。此方こそ感謝しているよ」


ミカエルさんの言葉に頷くパトリックさん。これだけ上位クラスの冒険者なのにサラッとこの様な事が言える人格者はそうは居ないと思うよ。


麻痺の効果が取れてきたので立ち上がり、其処で伏せて待っている紫色の小犬の所まで向かう。小犬にはそれぞれ3つの頭の額にテイムの刻印が浮かんでおり強制的なテイムは成功していた。

鑑定で【ケルベロス】のステータスを確認する。


名前:

種族︰エルダーケルベロス(希少魔界獣)【強制平伏中】


レベル【強制レベルダウン中】:29(2981)

HP【減退中】:1354/1354(135490)

MP【減退中】:1095/1095(109542)

攻撃力【減退中】:1643(164395)

防御力【減退中】:1181(118138)

回避【減退中】:1299(129926)

幸運【減退中】:29(2981)

スキル【威力限定中】:黄泉の障壁、魔界炎の息吹、闇の咆哮、闇の爪、神殺しの牙、状態異常付与、状態異常無効、超再生、暗黒雷の波動、闇眼、超嗅覚


強制的にテイムしている為にレベルを下げられてるのか…ステータスが全て100分の1に落とされている。しかも身体まで小さくなっている…此方は100分の1どころじゃないな。

すると【ケルベロス】はこちらを向きながら牙を剥き出しにして念話をねじ込んで来た。


《グルルル…我をこの様な目に合わせおって…必ず殺してやるぞ…グルルル》


「口だけは達者な様だが迫力不足だぞ。まあ、100分の1にステータスが落とされてるからな…そうだ、名前を付けられるみたいだ。何が良い?シロ…紫色だしシロはオカシイよな…」


《我にはエルスカンドラという立派な名がある!貴様などに名付けられる覚えは無いわ!》


キャンキャン吼えながら文句を付けて来るが、俺は全く無視して話を続ける。


「そうだな…ちっちゃくなったからチビだな。うん、そうしよう。チビ、ついて来い」


《な…よりにもよってチ、チビだと!?き、貴様!!愚弄しおって!!許さんぞ!!ガルルル!!》


怒り狂ってるチビだが、尻尾を振りながら大人しく俺について来ている。

何か悔しいがちょっと可愛い。


パトリックさんとミカエルさんは唖然とした表情で俺達を眺めている。その時に俺は気付いていなかったが、二人には念話が聞こえてないので、俺がチビに話し掛けて、チビがワンワン吠えているだけというシュールな絵図だったので、かなり痛い人に見えていただろう。


俺は魔人が自害した場所にやって来た。

身体は消えてしまっており魔石は完全に砕けてしまったが、ヤツの使っていた魔剣が残されていた。俺はその魔剣を拾い上げて鑑定をしてみる。



魔剣カリム︰魔戦士カリム愛用の魔剣。魔道の付与、疾風迅雷の付与、攻撃力(+2900)《×1.35》、回避(+1000)《✕1.25》


魔道:攻撃力に《×1.35》の付与。


疾風迅雷:回避が(+1000)上がるのと同時に《×1.25》の付与。



かなり凄いステータスの魔剣である。

魔戦士カリム…確か西方の国の英雄の名前だったな。だが、何故英雄の剣が魔人に所有されていたのだろうか?気になる所だが、それを知る魔人は既に居ないし確かめようが無いな。


俺は魔剣をパトリックさんに持って行った。


「魔人の持っていた魔剣です。魔剣カリムと言う中々の銘刀ですよ」


「な、何??魔剣カリムですと??コレは凄い!!」


俺から奪い取る様に剣を持った興奮気味のミカエルさんが、食い入る様に見ている…まあ、凄い剣だからなあ。

しばらく眺めていたミカエルさんがハッと気付いて俺達に謝った。


「す、済まない…カリムは私の憧れの戦士だったのでつい…魔戦士カリムは西方のマルデル皇国の英雄で、優れた魔法剣士だったと伝えられています。確かにこれほどの剣は魔戦士カリムの業物でしょうなあ…素晴らしいです…」


苦笑しながらそれを見ていたパトリックさんが補足を入れる。


「うむ、確か1000年ほど前の英雄と聞いている…カリムは西方を襲った魔界獣を倒したと言い伝えられておるよ。そこの【ケルベロ…いや、チビなら何かしら知ってるかもしれぬが…」


なるほど…魔界獣となれば同じ魔界獣のチビなら何かしら知っていてもおかしくない。


「おい、チビ。1000年ほど前にお前の仲間がこちらに来ただろう?」


《チ、チビでは無いわ!!グルルル…1000年ほど前ならギルアメスの事であろう。生意気なエルダーキメラだったわ》


「チビがギルアメス…エルダーキメラだったって言ってますね。その魔界獣」


「ちょ、ちょっと待ってくれ!サルナス殿はそのチビと会話しているのか??」


パトリックさんは驚く様に俺に聞いてきた…そうかチビとの会話しているのが念話だから分からないのか。


「ええ、念話の様です。ああ…コレって俺にしか聞こえてないのですね…」


「なるほど、念話か…」


パトリックさんとミカエルさんが妙に納得した様な顔をしている。そうか、さっきの名付けの時は独り言の様になっていた訳か…。


「この魔剣はパトリックさんにお渡しします。魔人の魔石も粉々ですし、【ケルベロス】も…チビになっちゃいましたし…討伐証明は必要でしょう?」


「いや、確かにそうであるが…」


「ならばどうぞ。俺にはチビが居ますからね」


と俺はチビを抱えて撫でてやる。物凄い牙を剥いているが尻尾はブンブン振られている。

何だこの可愛い生き物…。


パトリックさんは俺達を見て苦笑しながら剣をミカエルさんから受け取る。


「では預からせて貰うよ。コレで当家の面目も立つ。ありがとう」


そのうち避難していた騎士団や冒険者達が集まって来て、パトリックさんとミカエルさんの指示の元で魔獣の亡骸から魔石や素材を獲っていた。



俺は一度馬車まで戻って魔獣武装(ビーストアームス)を解いた。そしてブラッドを馬車に繋げながら礼を言った。


「ありがとうブラッド。お前のスキルで生き残る事が出来たよ」


ブラッドは満足そうに嘶いていた。本当にブラッドのスキルは優秀だった。

そして、俺はアインにも話し掛ける。


「アイン、本当に助かった。あの機転が無ければ確実に死んでいたからな」


『私の忠告を無視して魔人と戦った時は理解不能でしたが、一緒に戦った時に少しだけ人間の思考を一部共有出来たので、完全に理解は出来ませんが一部理解しました』


「まあ、理解不能だと思うぞ。人間の思考なんて曖昧でいい加減なのだからな。俺自身の事さえ分からんしな」


『なるほど。それが良くも悪くもなるのでしょう。思わぬ力を発揮したり、簡単に生命を危険に晒したり』


「その通りさ。それが人間って事だよ」


俺の手元に来たラッキーを撫でながらそう言った。

隣に座っているガッツがボソッと俺に話し掛ける。


「オ、オレ…サルナスノキモチ、ヨクワカル」


「ありがとうな。何時もガッツやラッキーには助けられっぱなしだからな。頭上がらんよ…さて、皆で飯にするかな!」


俺は飯を用意しながら皆の苦労を労う。

そして色々とこの戦いの事をふり返っていた。

最後のあの瞬間に逃げ出す事なく俺に付いてきてくれた皆に感謝しながら…。





《我の飯は無いのか!!??ガルルル…》

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