第60話 聖夜祭 「……ああっ! ロミオ~」「……ああっ! ジュリエット~」 やっぱし、お似合いかな?

「……今思えば、愛が生徒会長になって、あたしも一票入れた義理もあるし。そりゃ愛は……、愛の学園に込める意気込みはすごいなって思うし」

 新子友花が、なんだかブツくさと……。

「大美和さくら先生から始まったん聖夜祭を……、さ。そのあたしと勇太がぶち壊したら、ラノベ部の部員として、示しがつかないことは理解しているけれどさ」

 両手の指をツンツンしていたら、

「ふへへ! 新子友花さん。忍海勇太君。ここまで来たら、もうファイト~ですよ」

 舞台袖には大美和さくら先生も待機していた。

 応援かな いやいや……いることが、かなりのプレッシャーですってね。


「友花ちゃん、ちゃんとやってね」

 東雲夕美がチョンって具合に、2人の肩それぞれに手を当てると――

「……ほんとうに、夕美っておきらく極楽ですね」

「どういたしまして……、友花ちゃん」


「あんたねぇ。言っとくけど、褒めてないからね……」

 ジト目にジト目を深めて、横目で東雲夕美に呆れる新子友花だった。



 続いて――

「今回は、新子にダーリンを譲りますから。存分に演じてきてくださいね♡」

「だからさ! あんたの勇太じゃないだろが」

 新城・ジャンヌ・ダルクも駆け付けてくれている。

 たぶん……、いい意味で。

 というか、何にも下心もないというのが彼女の本心だろう――



 フランス人らしい? ……と言っては、どうなのだろう??



「私はこれでも、ダーリンと数ヶ月彼の自室で日本語の勉強をエンジョイしちゃいまくりでして……」

「その日本語がさ……、新城。少しおかしいってば」

「……そうですか? ダーリン勇太」


「……さあなぁ」

 忍海勇太に寄せられた視線を、彼はあえて逸らした。



 一方、舞台の袖の向こう側から――

「友花! それに勇太様! お願いしますね」

 と、両手を合掌してペコペコと頭を下げ続けている。

 ……教会なのに合掌って、

「愛よ……。この恨み晴らさずには……いられるかって……、にゃいさわ!」

 一方の新子友花の拳に力が入る。正直に、神殿愛の視線を見たくない。

 あんたのせいだぞって……。なんか恨みというよりも、やるしかないかっていう――


 この友情感覚に、自分自身で辟易していた――


 友情とは、ちょっと違うかも……、なんていうか?

 例えるならば、太宰治の『走れメロス』の主人公は主人公たらしめなければ、あたしは人間失格なんじゃないかという――

 桜桃おうとうが読めなかった、恥辱から思う名誉挽回な気持ちでもある。


 どーして読めなかった……あたし。

 あたしが読めなかったから、あたしは今のラノベ部の地位に甘んじているのだぞ。

 でもさ、このあたしの気持ちはどうだろう?

 一票を入れた、あんたに……、あんたを否定することは、自分への矛盾だ。

 そう思ったから――



『メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。生れて、はじめて君を疑った。君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。』



 作者は、この前改めて太宰治の走れメロスを読んだけれど――

 文章表現が上手いと改めて、感動してしまいました。

 物語全体からして、数日の出来事なのですけれど、読めば情景表現とか情景表現がきちんと書かれていて、とても勉強になりました。


 作者が思うに――

 友情とは、真の友情とは――


 疑念の先にこそ現れる、光明なのかもしれない。


 たぶん、だけどね。




       *




「……ロミオさん。あなたはどうして、ロミオなのですか?」


「……ああジュリエット。君こそ、どうしてジュリエットなんだい?」


 どうして?

 聖夜祭の寸劇が『ロミオとジュリエット』なのだろう。

 オーソドックスだからなのかも、それに付属幼稚園と保育園の子供達にも、分かりやすい劇だし……


「……ああっ! ロミオ~」

「……ああっ! ジュリエット~」


 やっぱし、お似合いかな?


 2人が教会中央に歩み寄る。

 ちなみにテラス越しとか、そういう舞台設定はありません。



「……ああロミオ! ああロミオさま……って」

 その時、舞台の上で新子友花が演技を止めて真顔になる。


「ちょいな! 勇太、ちょくっつくな……」

 そう……ながらも。演技上の言葉使いは止めない。


「勇太……。あんた、どんだけセクハラ男なんだってば」


「……ああ、ジュリエット」

 同じく、忍海勇太も刹那に真顔に戻して――

「……ってお前が先だろが、くっついてきたの。……お前の胸は何カップなんだこれ?」

 と小声で、

「おいこら! セクハラ……バカ勇太。劇中で何ハレンチなこと考えてんだ?? アホか!」

 本来、向けなければならないロミオとジュリエットの視線――

 その視線を、忍海勇太は新子友花のバストへとあからさまに向けた。

「……Aくらいのカップか? お前成績はC+なのに、なんなんだ? この皮肉」

 

「ああ……お前って言うな!! 皮肉って……勇太が言ってんじゃんかいな!!」

 まったくもって、失礼な大胆セクハラ発言だ。


 どこかの権力者が、その権力を持て余した結果。

 思わずセクハラ発言してしまい、ソーシャルで辞めろ辞めろの大合唱。

 でも、辞めない権力者を抱える民主国家で、ようやく軍隊が決起してクーデター。


 辞めない人って、いるんですよ……。


 成功の連続の結果、意固地になる老害の結果、次世代の若者達が苦しむという構図。


 まるで、火山の噴火を少し少しと噴火させて、ガス抜きさせるような安易な態度。

 さっさと、次世代に任せなさいよ。



 元アニメの先生である作者からのアドバイスです――



「いいから離れろって! セクハラ勇太」

 ああ……ロミオ。

 と、腰砕けに倒れつく瞬間の演技に、肘鉄を思いっきり一発喰らわしてから、

 新子友花はヘナヘナと、舞台に膝をつく。

「……お前、それこの場でするか? 聖夜祭だぞ。今宵って……」

 忍海勇太が、少し……否、ヘトヘト寸前によろめいた。


「……へへ~ん。聖夜祭だからこそ、勇太にさ、お見舞いしたんだから」

 新子友花よ――君は男子には鬼か?

「……みんな、見ている前で、お前ぬけぬけと」

「だから、あたしのことをお前言うな!」

 と、小声で舞台に聞こえないように2人が口論をしている。


 ――76年ぶりのハレーすい星並みに大接近している。


「う~ん! 話題が絶えないね……。友花ちゃん。聖人ジャンヌ・ダルクさまの織姫と彦星以上の演目です~」

 東雲夕美は、こう言い放つ。

 聖人ジャンヌ・ダルクさまの名誉回復の日が七夕――つまり7月7日だから、それにあやかったのか?

 幼馴染としての、最高の褒め称えた言葉だ。

 

「うーん……。ダーリンのイケズーですわ」

 ハンカチで目頭を拭きながら……、

 でも変な日本語を何故か知っている新城・ジャンヌ・ダルク。

 思いっきり、ロミオとジュリエットの2人の熱演ぶりに感泣している。


 続いて神殿も――

「ちょっと……! 2人とも真面目に演じてよ……ね」

 舞台袖から、小声で会場に聞こえないように声を落として叫んでいる。

 のだけれど、聞こえる由もない。


 ここで、微かに見えてきたのが生徒会長としての面子だ――


『生徒会長が選んだ2人なんだから、もっと、ちゃんと演じてくれないかな?』

 さもないと、生徒会長の立場が危うくなる――

 だったら、他に演者はいなかったのか……いないんだ。



 生徒会長という立場でも、なかなか上手くいかないっか??



       *




 そんなことお構いなく――舞台上の2人。


「……こらって! 勇太。離れろって」

「……そっちこそ、お前!!」


「だから、お前言うなー!!」

 新子友花がいつもの条件反射で、大きな声を出してのお約束を言った。

 しかも舞台中央で……である。


 そしたら――



 ザワザワ…… ザワザワ……



「……あのお姉ちゃんと、お兄ちゃん」

「なんか……さ」

 子供達が、何やらざわつき始めてきた。


 その子供達を、慌てふためきながら保護者が抑えている――


 そんなことお構いなく――舞台上の、


「お前さ、これじゃ寸劇が台無しになるだろ?」

「ゆ……勇太がさ、あたしに……くっつくから……だろが」


 ロミオとジュリエットは仲が……よろしくないようで?


「……おい勇太! あんたはさ、どうして勇太なんだって……。だからさ、ちょい離れろって」

「おい、お前って。……お前はどうして、そう……いっつも俺を避けるんだ?」

「当たり前だ。セクハラ勇太じゃんか。……んもーー!! だから、近いってば」

「俺は、セクハラ男ではないぞ」


 ウソつけ……

 部室で神殿愛のスカートの中をガン見していたくせに。


「……だったらさ、お前……俺と付き合え」

「あ……アホか勇太? 気がくるって……。それに、今ここで言うな、意味が分からないってば!」


 ――言っときますけれど。

 2人の会話は、長椅子に着席している幼稚園と保育園の子供達は勿論のこと、2階や3階にいる生徒達にも筒抜けに聞こえていますから。

 教会は、声が響きますからね――




「これ……て、愛の告白っていうんだよ……」

 突如、会場に座っている1人の幼稚園児が言いました。

 それも大声で――

 そしたら、



 読者様!

 ここからが見もので~すよ♡



「うわー! これって大人だ!!」

 と、他の子供が続いて言ったのでした。

「大人だ」

「大人だね……」


「大人って、大人ってやつは……」

 昔のフリカケCMかいな!


 とまあ、子供達が一斉に雨後の筍のように――否ですね。

 


 聖ジャンヌ・ブレアル教会の外は、依然として、牡丹雪がしんしんと降り続いているのですから――



「ああ……! 勇太様。あなたという……」

 神殿愛が舞台袖で、自分のブレザーを声を押し殺しながら銜えている。

「神殿愛は、勇太様をお慕い申したのだけれど。その願いもかなわず……」

 的な悲劇役を袖で演じて――


 一方、

「ふふーん!」

 と鼻を鳴らして、新城・ジャンヌ・ダルク。

「私という女を袖にして、あんな金髪山嵐といちゃつくなんて……。ダーリンも罪なお方ですぞ」

 どうして金髪山嵐を知っている?

 ああ、神殿愛から聞いたのか――


 あと、それから日本語の語尾もおかしいぞ。



「こーなったら! 私も飛び入り参加して、ダーリンを奪って――」

 それじゃ、ロミオにならないでしょう。

「でも、ふふーん。ですわ」

 腕を組みながら、

「ジュリエットの最後は悲劇――そうジャンヌさまのようにです。自ら命を経ってしまい……。決して王子様のキスでも蘇ることもなく」

 どこかの童話が混じっているよね?

「ああ……そっか」

 両手を頬に当てて……何かに気付く。


「そしたら……、ダーリンも自ら命を経って。な……なんて悲劇的な寸劇なのですか? 聖夜祭――恐るべしです」

 イエスさまの生誕をお祝いする聖夜祭が、いつの間にか恋の修羅場へと変化しているのは、最後の晩餐――ならぬ。


 最後のあがき?



 ――なんだか、話が西欧の童話を越えてしまっているような?

「お前って……」

「もう……。お前って言うな!」

「この際さ、折角だから……。その、触らせて、もらうくらいは……」

 強引に迫ってくるのは白夜びゃくや堂々の潔白さ……自称。

 無法人か? 忍海勇太である――



「お前、アホか! セクハラだぞ……勇太って。こら、落ち着け……って」



 盛犬の如くに新子友花に熱情してくる……その身体を、なんとか身をそらそうと。

 でも、舞台上の手前で失態は御法度でもあるから――

「今しかチャンスが……」

 忍海勇太は現在……、盛犬まっしぐら。


「だからアホか? 寄りにもよって、子供達の前で……」


 ――その子供達。



「うわ~! 大人って、こういう具合に馬鍬まぐわうんだ……」



 まぐわって……ないからね。

 それに新子立ちは高校2年生だから……、大人じゃないよ。

「すごーい! ボク……とっても参考になる」


 参考にしなさんな……


「ちょ……勇太?」

「なんだ、今いいところ……」

「じゃなーい! 勘違いするなって」

 すかさず新子友花が、履いているジュリエット用のヒールで、忍海勇太の足の甲めがけて思いっきり殴った。

 それって、台本にないぞ。


(アドリブじゃい!! 何か文句あるか! 作者よ ヽ(@`⌒´)ノ )


「うわ!」

 忍海勇太が、その攻撃をモロに受けてしまう。

 しかも、舞台上で――


 これ痛いよ……


「お……お前、正気か?」

 忍海勇太が殴られた頭のところを、摩りながら。

「ああ! あたしはいつでも正気だぞ……。だから、セクハラ勇太、やめい!!」

 居直る新子友花――


 でも、本当はやりすぎちゃったって……と、




       *




「すご~い。感動だね」

 なぜか……?

「痛みをも、愛に変えているロミオだ……」

 なぜか……??

「痛みはさ、ジュリエットを慕う、更なる気持ちになっちゃうんだよ……」

 子供達がどこからか、一人、また一人囁き始まる。


「すごーいよ……」


「すごーい……」


 何故だか、子供たちが大合唱して喜び驚き。

 わずかの園児達は目に涙を……。



「これが、ロミオとジュリエットなんだ」

「これが……、聖夜祭ってやつなんだね」

「ああ、聖人ジャンヌ・ダルクさま……」


「すご~い……」



 って、これ何かの夢かな??





 今宵――聖夜祭のメインイベント『ロミオとジュリエット』


 若い君達は、もう若くはない作者から見て――羨ましいと思う。


 この気持ちは本当だ。先輩から君達へ言いたいこの気持ちも、羨ましいからだと思うけれど。


 言わせてくれ――


 君達は、きっと……大丈夫だからね。





 続く


 この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。

 引用 『走れメロス』太宰治

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