第28話 終盤戦、開始

 結局、五番勝負は俺の負け越しで、高科にラーメンを奢ることになった。

 チャーハンと餃子もつけて、だ。くそう、言わなきゃよかったな。


 手持ちの千円じゃ足りねえ……となると、貯金を崩すしかないか。

 ゲーセンを出たところで、ガタイの良い金髪が俺たちに気付いた。


「……よお」


「鳴滝先輩。どうしてこんなとこで? 俺たちを待っていたんですか?」

「……一応、助けてもらったからな」


 そう言えばそうだった。

 途中で隙を見て逃げたのか、先輩の姿が見えなくなっていたな。


「そういう見た目をしていたらああいうこともありますから、気を付けてくださいよ」

「悪かった。感謝してる……この恩は必ず、返す」


「別に、いいですけど……じゃあそうっすね、覚えておきます」


 ラーメン屋に向かう道中で、高科が呟いた。


「なんか企んでる顔してるな」

「企んでるってほどじゃない。ただ……保険を張りやすくなったな、って」


「保険?」

「使わないなら、それに越したことはないってことだよ」


 ニンニクマシマシラーメントッピング全乗せとチャーハンに餃子が運ばれ、

 テーブルが埋め尽くされた。高科の胃は大きい方だが、

 さすがに全部は食べ切れず、追加したチャーハンと餃子は俺と半分ずつにして食べた。


 元々、一人で食べる気はなかったのだろう。

 俺と同じで、二人で食べる用に提案したのだと見抜かれていたようだ。


 ラーメン屋を出て高科が一言。


「二軒目、どこにいく?」


「満腹だっつの……でも、俺らじゃ入れるのファミレスくらいだろ」

「じゃあいこう! すぐにいこう! 朝まで飲み明かそう!!」


「補導される前に帰るからな……ったく」


 将来は、こうして連れ回されるのだろうなあ、と嬉しい悲鳴を予感した。



(推理パート)


 残り三十分を切った放送が入ったことで、全員に焦りが見えてきた。

 充分に情報が出揃っているとは思うものの、決定的な証拠がまだない。


 少女Aを追い詰め、退学にまで追い込んだのは誰なのか。


 その理由は?


 方法は? 


 ……あと少しな気がするのに、まるで隠されているように見つからない。

 まるで、ではなく、隠しているのだろう。犯人が。ばれないように――。


 ひとまず、『教師』と『母親』は除外だ。

 現段階で八人は多過ぎる。


 仮説とは言え、少しでも絞っておかないと時間が足らない。

 可能性が高いのは、


『親友の女子』


『友人の男子』


『父親』


『マネージャー』……だろうか。


 それぞれに少女Aを退学に追い込む理由がある。

 内容は良い理由も悪い理由も両方だ。


 尼園が言ったように、逆から考えてみよう。


 少女Aを退学させるとしたら、まずどうする?


 精神的に追い詰める……、少女Aが自分から退学すると決断する状況にする。

 これは肉体的なダメージも同じで、脅迫をすればそう難しくない。


 集団でのいじめを整え、味方もおらずクラスでの居場所がなくなれば、

 自然と離れたいと思うのが普通だろう。


 学校に通うことにメリットが感じられなければ、

 少女Aはすぐにでもやめる決断をするはずだ。


 少女Aにとって痛みや苦しみでない方法で決断させるなら、マネージャーが適任だろうか。

 仕事のパートナーであれば、学校をやめることで得られるメリットを提案しやすい。

 しかし前者も後者も、父親からすれば受け入れがたい理由だろう。


 学校には通っていてほしいはずだ。


「林田先輩、本当はもう分かっているのでは?」


 木下が俺にだけ聞こえる声量で言った。


「悪いが、分からない。

 お前の方こそ、ゲーム中、俺ばっかり見てないでちゃんと参加しろよ。

『少女Aの妹』、だったはずだろ。出し惜しみしてる情報があるなら教えてほしいものだ」


「それもそうですね」


 少女Aの妹で分かっていることは、

 突然、アイドルになった姉とぎくしゃくしてしまったことだ。


 元々、姉よりも妹の方が家庭内でもチヤホヤされていたので、

 姉が引き立ててくれていた、とは思いにくかった。

 だからアイドルデビューに関して、それほど強く裏切られたと思いはしなかった。

 なぜなら自分の姉なら顔の素材は良いと知っていたからだ。


 地味な容姿に見えるようにしていても、家でもずっとそのままなわけがない。

 姉の本当の正体を知っていてもおかしくはなかった。

 だから喧嘩の理由は、姉を目的にして話しかけてくるミーハーが増えたことだろうか。

 姉のせいで自分が正当に評価されなくなった。妹が抱えている不満はそれだ。


 妹にとって、姉が退学しようがしまいが結局、現状はなに一つ変わらない。


 だから犯人候補からははずしているが……。


「姉の友人である男子と親友の女子とは、互いの家をよく行き来する仲でした、

 というのは知っていますよね? それほど異性を意識しない男女の友達でした。

 少女Aが親友女子の家に遊びにいって、その親友女子の兄に好意を抱いたように――、

 たとえば、姉の友人が家に遊びにきた時に、偶然ばったりと出会ってしまった妹が、

 年上の異性を魅力的に感じることは、あり得ないことだと思いますか?」


 つまり、


「妹は、友人の男子に好意を抱いていたのか……?」

「そういうことになります」



 少女Aは、親友女子の兄を。


 親友女子は、友人の男子に見せかけ、実の兄を。


 友人男子は、少女Aのことを。


 少女Aの妹は、姉の友人である男子のことを。



 それぞれ、好意を抱いている。


 しかし友人の男子が、姉のことを好きであると妹は知らない。

 だが、親友女子がポーズとして友人男子に好意を抱いていることは、察してしまっている。


「妹は勘違いしているわけです。

 親友女子がブラコンであることを知らなかったわけですね――ええ、最初は。

 だけど、先輩は分かっているはずですが、親友女子の兄は、

 少女Aの妹と接触していますよね? 少女Aのことを探るために」


「…………」


「その時に、妹を持つ苦労さを語っていましたから、

 なんとなく分かってますよ、少女Aの妹は。親友女子がブラコンであるということを」



 だとしたら、なんだ? 


 妹が求めるものは、なにになる?

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