第2話 ピンチはチャンスⅠ

「そうはさせるか」

 超美麗な死神さまが、低音の美声で凄む。

「っ……!」

 驚愕したシロヤマは目を疑った。いつも着ている赤いコートの、フードを被った赤園あかぞのまりんが、超美麗な死神さまに(抱き抱えられるように)身柄を拘束されている。

「まりんちゃん?!」

「シロヤマァ~!」

「この娘の魂を刈られたくなくば、碧居満月をここに連れてこい」

「くっ……!」

 無駄に低音ボイスのいい声だしやがって……歯噛みをしたシロヤマは、悔しさを滲ませた。

 あのヤロー……まりんちゃんを人質にとりやがって……!

「助けて!シロヤマァ~!!」

 超美麗な死神さまに恐怖するまりんが、心の底から助けを求めた叫び声にエコーがかかり、呆然とするシロヤマの頭に響き渡る。

 六十秒後。硬く閉ざしたシロヤマの口が、不意に開いた。

「感……無量っ……!」

 目頭を押さえ、感極まるシロヤマに、まりんが全力でツッコミを入れる。

「いや、そこ感動するとこじゃなくない?!」

「ごめん、まりんちゃん。俺、どうしても感動を抑えきれないよ。だって……いつもは細谷くんの名前しか言わない君の口から、俺の名前が出てくるなんて、思わないからさっ!」

 目頭を押さえたまま、涙声で返事をしたシロヤマは、はにかんだような笑顔を浮かべてウインクすると、爽やかに最後の部分を強調した。

「この状況だったら、誰だって面前に居る味方に助けを求めると思うけど?」

 真顔を浮かべるまりんが、光の速さで冷ややかに的確なツッコミを入れる。

「それともなに?私が普段、細谷くんの名前を口にしてるものだから嫉妬しっとして、卑屈になってたわけ?」

 うっすら頬を赤く染めながら、ツンデレモードのまりんがなに気なく尋ね、探りを入れる。

「いや、ぜんぜん……そうでもないよ?」

「図星なんかい!」

 全力で否定するのかと思いきや、若干嬉しそうに否定しなかったシロヤマの言動に、まりんが全力でつっこむ。

 ちょっとからかってやるつもりがまさかの図星回答で、何故か良心がちくりとしたまりんはくんじゃなかったと後悔した。

「いいからとにかく助けてぇ~!」

 Help Me~!!

 超美麗な死神さまから一刻も早く解放されたいまりんが、力の限り叫ぶ。

「まりんちゃん!今、助けに行く!」

 と、叫んでみたものの……

 ポーカーフェースを浮かべるシロヤマは、途方に暮れた。

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