第5話 ギャルとの遭遇

「なんだか久しぶりに来たな〜」

【ほう──『神社』というやつか】


 学校帰り、ミカは最寄りの神社へと足を運ぶ。理由は勿論、厄祓いの為である。


「最近悪いことに巻き込まれてばかりだからさ 神頼みでもして厄を祓っておこうかなって」

【ほう? 貴様が祓いたいのは本当に"厄"であろうな?】

「ハハハ ヤダナー マオウサマ トウゼンデスヨ」


 明らかに不自然な態度が気に入らないと、魔王が頭の中で抗議を始めるが、ミカはとにかく賽銭箱に五円玉を投げ入れ、祈る事に集中した。


(神様お願いします……どうかボクの中に居座ってる魔王が出て行ってくれますように──早急さっきゅう 至急しきゅう 迅速じんそくに)

【貴様も学ばんやつだな 心の声は筒抜けと言っているであろうに】

(いや お互いのためかなって……)


 問答無用だと、脳が直接締め付けられているかのような激痛に襲われ、ミカは痛みに悶える。

 今までは物理的に干渉していたというのに、物理は物理でも、内側からの痛みは想定外だった。


「イタタァ……何今の?」

【少々我輩を甘く見ているようだったのでな 灸代りに脳を揺らしてみた──が 加減を間違えると殺してしまうのが欠点だな】

「欠点じゃなくて欠陥だよ!」


 やり方がえげつないと、今度はミカが抗議するのだがお返しとばかりに無視される。


 お互いを知って、信頼関係ぐらい芽生えても良いのではとも思っていたが、これでは当分無理そうだと、ミカは諦めた。


【それより分かっているな? 明日は土曜日だ つまり──貴様の"休日"というやつであろう】

「そうだね 溜まってるゲームとか漫画とか消費する絶好の……」

【『魔憑まつき』探しだ 戯け】


 何処に魔憑きがいるかは魔王は察知する事は可能である。

 が、あくまでも霊に取り憑かれ、魔憑きとなった人がある程度まで近づかなくてはならない。


「探すって……分かる範囲ってどの程度なの?」

【半径5kmといったところか それ以上は"なんとなく"程度にしか分からん それに常に分かる訳でもない】


 なるべく外に出て自分から探しに行かない限り、見つけるのは難しいだろう。だから魔王は積極的に外へ出るよう指示し、歩いて探させるのだ。


「ハァ……正直ゴロゴロしてたいなぁ」

【我輩がいない日ならいつでも良いぞ】

「その日の為に探すんでしょう」


 いったいその日はいつになるのやらと、ミカはため息を吐かざるをえない。

 前世が魔王で、凄い力に目覚めるまでは良いが、人格まで目覚めてしまったのは致命的である。


「夏休み終わって新学期になったばかりだってのに……幸先最悪なんですけど」

【嗤えば良いと思うぞ】

「絶対字が違うと思う」


「アレー舞田マイダじゃーん? アンタもお祓いに来たん?」


 側からみれば一人で勝手に揉めている変な人にも関わらず、ミカを声をかける者がいた。


 振り返るとそこには、竹箒を持った『巫女』の姿がそこにいた。

 いつもより大人しい・・・・・・・・・が、隠しきれない爪のマニキュアなどから、"ギャル"を彷彿とさせた、似つかわしくない巫女がそこにいた。


「こっ……こんにちわ伊吹さん なんでここに?」


「え? ここアタシん家の神社なんだけど知らない系?」


【誰だこの女?】

(『伊吹イブキ ミコト』さん クラスメイトだよ)


 クラスのギャルグループに属する、静寂を好むミカとは縁遠い人物である。

 気さくで誰とでも分け隔てしない、所謂『オタクに優しいギャル』なのだが、如何せんミカはテンションが苦手だった。


「伊吹さんここの人だったんだ……って事はその格好は家の手伝い?」


「似合うっしょ? 学校終わったらバイト代わりに巫女やっててさー いつもは人なんて来ないし 暇つぶしにスマホ使い放題だしで 結構良いんだよね〜」


 笑顔が眩しい。これが自分とは異なる世界に住むギャルなのかと、ミカが勝手に怯み、恐れ慄いていると、魔王はミコトの"ある言葉"を指摘した。


此奴こやつ 何か知ってるぞ】

(え? なんで分かるの?)

【此奴は『お祓いに来た』のかと貴様に訊いたのだぞ? 神社の目的が何故"お祓い"だと分かったのだ?】


 更に"アンタも"と、他にも誰かが訪れた言い回しである。

 いつも人は来ないというこの神社に、ここ最近ではお祓い目的で訪れる人が増えたのではないかと、魔王は考えたのだ。


【とにかく知ってる事を吐かせろ 手段は問わん】

(物騒な言い方しないでよ!)


「どしたん黙って?」


「なっなんでもないよ ハハハ……」


「ふーん」


 黙り込んでしまったミカは、今魔王と脳内会議してましたとなど、口が裂けても言えはしない。

 幸いあまり興味無さそうに、スマホに夢中で深くは追求されなかった。


「でも舞田が来るとかウケるんですけど お祓いじゃなかったらもしかしてアレ? オカルトマニア的なヤツ?」


「悩みがあったからちょっと神頼みしでもと思っただけだよ 変な事に巻き込まれませんようにって」


「それな 通り魔事件もそうだけど 学校の人体模型壊した犯人だってまだ捕まってないし マジ最近物騒すぎて引くわ」


 ミカの目は泳ぎ、顔を合わせられない。


 学校の人体模型に魔憑きが取り憑いた為、壊すしかありませんでしたと、ミカは一週間前の出来事を心の中で自白した。


 当然通り魔事件の事にも、深く関わっていしまっているミカ。

 そして犯人である魔憑きを倒してしまったので、迷宮入りが確定の事件にしていた。


「話は変わるんだけどさ……さっき"お祓いしに来たのか"って言ったけど もしかして最近多いの?」


 勘づかれる事はあり得ないが、この話題はミカの心臓に悪いと、魔王の指示通りの話題へと移す。


 キョトンとした顔をされはしたが、ミコトは気にせずミカに話す。


「それがさー なんか神妙な顔して『憑かれてませんか』って相談が最近多いんだよねー 悪霊様々で商売繁盛って感じ」


 手を合わせてミコトは悪霊に拝む。


 巫女としてその発言はいかがなものかとミカは思うが、商売としては有り難い事であろう。


「伊吹さんはもしかして──視える人だったり?」


 淡い期待がミカの胸に宿る。


 お祓いが出来るなら、霊の類が視えるのなら、魔王の存在に気づくかもしれない。

 そもそもミカが神社を訪れたのは、そういった期待もあったからだ。


「……プハッ! "視える人"とか! そんなわけないじゃん チョーウケる!」


 残念ながらハズレであった。


 今更自分の発言が恥ずかしくなり、ミカは顔を赤らめると、持っていたスマホを向けら、写真を撮られる。


「照れ顔拡散しとこーと」


「チョッ!? やめてよ!」


「舞田ってばアレ? 写真撮られたら魂取られるって信じてる系男子?」


「いつの時代の人だよ!」


 ミコトにいいようにからかわれ、泣きたくなるのをグッと堪えながらも、負けじと話を戻した。


「出来たらで良いんだけど……相談しに来た人達をさ 教えてくれないかな?」


「なんで?」


 ここでサッと返せれば良いのだが、ミカは良い答えを思いついていない。

 長く悩むと悪い方向に疑われてしまう為、ミカはとにかく考えた。


「……『オカルトマニア』だから」


 悲しい事に全く思いつかず、泣く泣く誤解に便乗する事となった。


「ウーン 個人情報だし?」


「そこをなんとか!」


「お賽銭箱にお金プリーズ」


 お金とはつくづく便利だとミカは思う。


 既に五円を入れてはいるが、必要経費だと割り切って再び投げ入れた。

 それに五円とはいえ、二回もお金を払ってお参りしたのなら、ご利益も得られるだろうとポジティブに考える。


「家の神様五百円以上じゃないとご利益無いんだよね」


「神様がめつくない!?」


「冗談だし」


 手のひらで踊らさせるミカ。頭の中で笑いを堪える魔王がいるが、心を無にしてミコトに訊ねる。

 

「とにかく一番悩んでる人を紹介して欲しいです!」


「会ってどうすんの?」


 自称オカルトマニアが会ったところで、解決するとは思えない。

 ミコトとしても、軽い気持ちで紹介はしたくないだろう。


「──解決出来るかもしれないから」


 嘘は言っていない。もしも魔憑きに悩んでいるのなら、魔王にとって都合が良い。


「……りょ」


 ミカの顔を覗き、疑いの視線を送っていたが、ミコトは了承する。

 

 ミコトのスマホからアラームが鳴る。休憩時間が終わったのだ。

 

「んじゃアタシはこれで 掃除やんなきゃだし」


 掃除をしに、その場を離れていくミコトは、ふと立ち止まり、振り返った。


「なんかつかれた顔・・・・・してっからさ お祓いするなら知り合い料金にしとくよ」


 最後にミコトはニカっと笑い、境内の奥へ今度こそ去っていった。


「……"つかれてる"ってどっちの意味かな?」

【どちらだと思う?】

「両方だと思う」


 本人が言うのだから、間違いないだろう。

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