私まで…?

早くカリータ領に帰りたいのに、国王陛下とエイレミルダ妃に泊っていきなさい、と引き留められてしまった。


でもねぇ、トーナメント二日目が気になるんだよ…しかも、メイド達に案内された部屋は王弟殿下、リーフェの王城での私室だった。


「当然じゃないか~俺達夫婦だし?」


シレッと私の後ろから、リーフェがやって来て笑っているけど…たまには独りでゆっくりさせて欲しい…と思うのは私だけか?


そして部屋に入ったら、後ろから抱き付いて来るリーフェ。


いやいやいやぁ?あんたさっきまで飛んだり跳ねたり殴ったり蹴ったりしてたでしょう?疲れてるよね?そうだよね?さあさあ…おやすみなさいませ?


「お、おやすみなさいま……せ?」


羽交い締め?を仕掛けてきているリーフェの方をなんとか顧みて促してみた。


「今夜は寝かせないよ…」


リーフェの瞳が怪しく輝いた!……ような気がした。


「ぎゃ!」


それ知ってるーーーー!!エロエロしい小説とかで絶倫の男が野獣化して、ヒロインの耳元でねっちょり囁いたりしてる時の台詞だぁぁ…え?まさか…


ジリジリ…と異世界の野獣が私に近寄って来る……逃げられない!!!


……結果、トーナメント2日目は夕方近くにやっとカリータ領に戻って、なんとか決勝戦は見れました。2日目の優勝はバファリアット少将でした。下馬評通りだ。


2日目のトミクジの売上も好調で、ひとまず安心した。


安心できないのは私の体力の方だけど…全身ガタガタだよ。私の方がトーナメントに参加したみたいな満身創痍状態だよ。


疲れた…何だか本当に疲れた。


3日目の試合はこれまた下馬評通りにサリオ班長のぶっちぎりの優勝だった。


今の所、トミクジの予想は1位はリアフェンガー殿下。2位がサリオ班長だったのだけど、二人の順位が入れ替わるのでは…と囁かれ始めていた。


しかし囁かれている当の本人のリーフェは全然、気にしてないようだった。


そしてトーナメント4日目…


私は噂の黒髪に金色の瞳の鋼のような雰囲気を持つ美丈夫、クゥベルガー大尉をやっと見ることが出来た。


クゥベルガー大尉の外見は黒髪はサラサラ…そしてお顔立ちはさっぱり…思っていたより、私の郷愁を誘う姿形を持つ美丈夫様だった。


ふわあぁぁ~さっぱりイケメン様だよぉ!


「……」


私がそのさっぱりイケメン様に、前のめりになっていたのをリーフェは気が付いていたみたいだった。ずっとねちっこい目で見られていた。


リーフェは試合を見ている間、珍しくずっと手を握って来て顔を近付けてくると


「どこ見てるの?」


「こっち見て」


とか、どちらのヤンデレさんですか?状態になっていた。


「どうしたのですか?いつも皆がいらっしゃる場ではここまで近付かれないですよね?」


お昼過ぎまでその調子だったので、胃の調子も良くない私は野菜スープを頂きながら、隣でムスッとしているリーフェに聞いてみた。


リーフェはチラッと鍛錬場の方に目をやってから私を見た。


「ああいうのが好みなの?」


「好み?」


「黒髪で…無口で…ヴァルはああいう男が好みなのか?」


あ…ああ…クゥベルガー大尉かぁ。この方、ご自分の顔面偏差値分かって言ってるのかしら?


ちょっとイケメンくらいでは太刀打ち出来ない美貌の持ち主のくせに…そうか、私ってリーフェに向って言葉にしたことなかったな。リーフェだって私のこと少しは気にしてくれてるから、妬いてくれているのよね?


「リーフェ…私ね、ん?…ぅぅ…ぐ…」


リーフェに顔を近づけようとして、胃がグルッと動いて…


「$#@&¥€!!」


この世で一番美しいのはだぁれ?のリアフェンガー殿下でぇす!のご尊顔に向って、胃の中の何かを吐いてしまったのだ。


異世界人生で一番の汚点になりそうな大失態だ。


「ヴァ……ヴァル?!ヴァル大丈夫かっ?」


「……っ」


胸が苦しいのと胃がムカつくのと、恥ずかしいのリーフェにぶっかけてしまった申し訳無さで、地面に平伏すとメイドのフリージアの悲鳴があがった。


一時、トーナメントは中断されて大騒ぎになった。


「毒じゃないのか!」


「スープを調べろ!」


いやいや、違うと思う。絶対色々なアレコレの疲れのせいだと思う。


反論したくても、力が出ないのでリーフェに抱えられたまま、トーナメントの救護の為に待機していた医師に診断してもらった。


どうせ胃潰瘍とか胃炎だろうよ。


「ご懐妊ですね」


何だって?


「ごかいにん…」


オウム返しに医師のおじ様に聞き返すと、満面の笑みを返された。


「おめでとうございます。妃殿下はお子が出来てますよ」


「うおおおっ!」


「ヴァル!ヴァルゥゥ!?」


救護テントの中に歓喜の悲鳴が沸き起こった。エルダやフリージアも悲鳴を上げ、シーナなんて号泣している。


リーフェは浄化魔法を使って汚物の汚れを除去した後、私に抱きついてきた。


「ヴァル!ありがとうっよくやった!」


「うぐぅ……」


また吐くぞ?いいか、吐くぞ?


だが吐く前に目が回ってきた。多分疲れも溜まっていたのだろう、目を瞑っているとリーフェは私を抱っこしたまま、何処かに移動したみたいだ。


何とか目を開けると自分の寝室だった。


「大丈夫か?」


リーフェのサファイアブルーの瞳が私を見詰めている。私が手を差し出すとリーフェが手を握ってくれた。


「リーフェ大好きよ、愛してるから……」


他のイケメンに目移りする心配ないよ……


私はそこまで言ってから、気を失ったようだった。その後リーフェが顔を真っ赤にして、寝室でのたうち回っていたのも知らないし、試合会場に戻ってジル様に抱きついた後、半泣きになって色んな方面の方々をざわつかせていたなんて知らなかったのだ。 


どのくらい寝ていたのだろうか、眠りから覚め…目を開けると隣にリーフェが寝ていたが、また目をカッ…と見開いて私を凝視していた。


だから怖いって!


リーフェは医師に色々と妊婦への対処を学んだようで、起きようとした私に甲斐甲斐しくお世話をしつつ、妊婦薀蓄を語ってくれた。


「異世界人には無い症状らしいので説明すると、子供を腹に宿すと、魔力が巡って通常の悪阻とは違う魔力酔いになるらしい。ヴァルが吐いてしまったのは俺達の子供がかなりの高魔力保持者の可能性が高いからだと思う」


「ええっ?悪阻以外にも…」


なんてことだよ、悪阻だけでも辛いと思うのにそれに加えて魔力酔いだって?そういう理由か…まだ膨らみの無い薄いお腹を見る。ここに子供がいるのか、実感がイマイチ湧かない。


リーフェが水の入ったグラスを渡してくれたので、有難く頂いて水を飲む。


リーフェは水を飲んでいる私の枕元に佇んでいる。


「あの…ヴァル、えっと…先程言ってた、その…あい、愛してる…ってホント?」


「!」


もうすぐ27才がモジモジするなー!顔を赤くするなぁ!可愛いじゃないかっくそっ!!


これは喜んでくれているのよね?


「はい、大好きですよ。だからクゥベルガー大尉は気にしないで下さい」


「ヴァルゥ!!」


はいはい!さっぱりイケメンは愛でるだけは許してくださいね!


またリーフェが羽交い締めしてきそうだったので、身構えているとフリージアとシーナが間に入って制してくれた。


「お腹のお子が潰れます」


「潰れます!」


リーフェは顔を真っ赤にしたまま、すまん…と呟いて大人しく部屋の隅に移動した。


真っ赤になったリーフェと目が合い、微笑み合う。なんだこれ?恥ずかしい…嬉しい。


私もリーフェに釣られたのか顔に熱が籠もる。やだこれなに?


今頃自覚したみたいで、恥ずかしい。私…リーフェのこと、相当好きみたいだ。


そんな甘酸っぱい空間の室内で、シーナが


「ご懐妊が続きますね〜」


と、言った言葉に急に我に返った。


そうだ、まさに続いてしまった。狙ったわけではないけれど、マリエリーナの妊娠に合わせてきたかのように、私も妊娠してしまった。


こちらは正式に婚姻している夫婦の子供。あちらは婚約者でもないただの恋人の妊娠…どちらが表立って祝われるなんて分かりきっている。


あ〜あ、わざとぶつけた訳じゃないのに、マリエリーナが怒るかな〜

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