トカゲ令嬢とバカにされて聖女候補から外され辺境に追放されましたが、トカゲではなく龍でした。

克全

第1話:トカゲ令嬢

 天寿を全うして穏やかに死ぬことができたと思っていたのに。

 天国で穏やかに暮らせると思っていたのに、事もあろうに身分差別と弱肉強食の激しい異世界に転生するとは、思ってもいませんでした。

 前世では善良に正しく生きてきたはずなのに、どこが悪いというのですか。

 神様だろうが仏様だろうが出てきて説明して欲しいものです。


「ふん、トカゲ令嬢の分際で廊下の真ん中を歩いているんじゃないわよ」


 事もあろうの公爵令嬢の私が、大勢の取り巻きを引き連れた伯爵令嬢に廊下の端に追いやられます。

 それがこの国の、いえ、聖女学園の現実です。

 爵位よりも従魔の貴賤で地位が決まるのが学園内の掟です。

 それは男子用の勇者学園も似たようなモノです。


「まあ、なんて情けない事でしょう。

 それでも私の御姉様なのですか。

 由緒あるリバコーン公爵家の長女と言えますの。

 側室腹の妹にも劣るなんて、情けなさすぎて涙が出ますわ」


 勝ち誇った表情で大勢の取り巻きと一緒に私をバカにするのは妹のナタリアです。

 自分が側室から生まれたことが悔しくて、幼い頃から突っかかってきます。

 成人の儀で神から従魔が確定されてからは特に激しくなりました。

 なんと言っても彼女の従魔はスフィンクス。

 ライオンの身体に雄羊の頭部を持つ、王家を守護する聖獣の一柱なのです。


 それに比べて私の従魔は小さく弱々しいトカゲでしかありません。

 それでも従魔を得られること自体特別な事なのです。

 そもそも純血の貴族令嬢しか神から従魔を授かることができません。

 その貴族令嬢でも一割しか従魔を授かることができません。


 何とか授かった従魔でも、スライムやゴブリンといったとても聖獣とは言えない従魔を得る令嬢が九割もいるのです。

 それなりに評価される従魔を得られるのは百人に一人程度なのです。

 ただ私のトカゲがあまりに小さく弱々しいので、聖女候補と認めてくれる者がほとんどおらず、トカゲ令嬢と陰口を言われるのです。


「ああ、ソフィア、このまま学園に残っても辛いだけだろう。

 幸い我がリバコーン公爵家にはナタリアがいる。

 もう十分公爵家の体面は保たれたし、聖女に選ばれる確率も高い。

 王家からも内々にグレアム王子との婚約解消を打診されている。

 王家から正式に婚約解消の使者が来てはソフィアの経歴に傷がつく。

 ここはシンシアの台所領で病気療養としてはどうだ。

 婚約解消は私から申し出ておくから」


 王立聖女学園の学園長を務める父から呼び出しを受けて学園長室に行くと、情け容赦のない言葉をかけられました。

 私の事を心配しているように見せかけていますが、父にとって大切なのはリバコーン公爵家の繁栄と体面だけなのです。

 いえ、これはこの国全ての貴族に言えることです。

 流れを変えたくても個人の力でどうこうできるモノではありません。


「分かりました、今日中に準備を整えて明日には出立いたします」

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