百合から逃げたいカノジョさん、ただいまカレシ募集中!?

文嶌のと

百合から逃げる編

高校2年 1学期

第1話 今年こそ彼女を作ってやる

 4月8日朝。

 ネクタイを昨年度までの緑から赤にチェンジさせ、見慣れた通学路をひとり歩く。

 年度替わりのため、初々しい新入生の姿も多く見受けられる。男子は黒ブレザーに黒ズボンという地味なスタイルだが、女子は黒ブレザーに赤スカートという素晴らしく萌える恰好だ。前を歩く女子のスカートが春風に舞い、ひらりと捲れる。キャッという高い声に合わせ、すぐさまスカートの裾を押さえていた。中を見ることは叶わなかったが、朝から目の保養になり、足取りは軽くなる。ついでに桜並木から舞い散る花びらも俺の心を応援しているかのようだった。


 ――今年こそ彼女を作れよ、と。


 彼女いない歴=年齢はもうイヤだ。必ずや彼女をゲットしてやる。

 選べるような身分じゃないが、俺には高校入学当初から好きな子がいる。モテないヤツが二頭を追うな、と思われるだろうが、どちらも好きなのだから仕方がない。

 どちらとも1年次は別クラスだった。ある種の運試しとして、今年度同じクラスだった方に告白しようと思う。またどちらともハズレだった場合は……いや、やめよう。マイナス思考は良い結果を生まない。俺のこれまでの経験談だ。




 自宅から徒歩15分。母校が見えてきた。

 正門の左脇に私立愛咲あさみね高等学校と書かれている。愛が咲くはずの高校なのに、1年間いっさい咲くことはなかったのだが。

 偏差値は中の上、文武両道に力を入れ、スポーツも数多の賞を取っている。だが、俺がここを選んだ理由は別にある。


 この学校の女子はカワイ子ちゃんばかりで有名だからだ。

 制服の可愛さも相まって、入学当初からムラムラしっぱなしだった。近くの公立に進学しなくて本当に良かったと思っている。


 門をくぐり、並木道を進むと人だかりを見つける。

 掲示板の前の人混み――そう、新学年のクラス名簿を確認している群れだ。俺もその中に歩みを進める。

 皆一様に掲示板を眺めているため、合法的に女子に近づける。周りからは薔薇の花園のような高貴な香りが漂っていた。


 飛びそうになる意識を戻し、クラス名簿に目を通す。

 全部で5クラス。あのふたりと同一になる可能性はかなり低い。

 そんな中、俺はまず下の方から見ていく。俺の苗字があかさたな順で後方だからだ。


 ――んっ! 今年は1組か……。


 ゆうひろという自身の名を見つけたあと、すかさず中央辺りに目を移す。今度は幼馴染のアイツの名を見つけるためだ。


 ――おっ! 今年もはやと一緒か。またエロ本貸してもらえるな。


 がみはやという小学生のころからの幼馴染の名を1組に見つけ、歓喜する。どちらも彼女のいないエロ好きではあるが、一番の理解者だ。何かと助けてくれるアイツに感謝している。かと言って、ホモじゃないよ? 断じて違うよ?


 ――ッ!!


 そのあと、一瞬脳が停止し、真っ白になる。


 天宮あまみやしろ――その名を1組に見つけたからだ。

 俺が好きな女子一人目だ。

 ハーフである彼女はとてつもない美貌の持ち主だった。ゆるふわな金髪ロングに、零れんばかりのおっぱいを持つ。それでいてウエストは引き締まり、胴よりも足の方が圧倒的に長い。

 ハーフではあるものの日本人風な面持ちなので、学内でも違和感は感じない。美人系よりもどちらかというと可愛い系かな。引く手あまたで告白されまくりと聞く。


 同じクラスになったことで、俺もとうとう当たって砕ける時が来たか。たとえフラれてもおっぱいだけは揉みたいな。


 ――ッ!!


 そんな不埒な考えの中、ふたたび思考は停止する。


 ほし千紗ちさ――その名に目が留まったからだ。

 そう、俺が好きな女子二人目だ。

 天宮さんと同じくとてつもない美貌を持つ彼女だが、タイプは全然違う。星乃さんを一言で表すとクールビューティーってところだ。黒髪ロングを軽く結い上げ、繊細な顔のパーツをしているが、そのパーツが動くことはほとんどなく、動揺などを見せたことはない。

 1年次に何度か廊下ですれ違ったが、いつも凛とした表情だった。その格好良さに俺は惹かれていた。

 背は天宮さんとほぼ同じ。おっぱいの大きさもだ。

 ふたりとも才色兼備のため、体の至るところが引き締まり、大事なところは柔らかいという感じだ。最高かよ。

 当然、星乃さんもモテまくりだ。


 天宮さんみたいに素直そうな子も良いが、星乃さんみたいなタイプがデレた瞬間を拝みたい気持ちもある。


 だから、どちらかなんて選べないんだ。しかも、今度に限ってはどちらも同じクラス。嬉しい限りだが、いったいどちらに告白すべきなんだ?


「よおっ、相棒!」


 鼻の下を伸ばしながらボーっと掲示板を眺める俺の肩を、トンとする輩がひとり。


「なんだ、颯斗か」

「なんだ、とはなんだ!」


 自慢の茶髪を揺らしながら不機嫌そうな顔をしてくる。顔のパーツは悪くないが、目つきの悪さが台無しにしてしまう。どうしても人は目で全体を把握してしまうので、目つきが悪いと柄の悪いヤンキーに見えてしまうからだ。ヤンキーという言葉は颯斗の中身を知れば、無関係だとわかるのだが、お近づきになる前に避けられているので、彼女はできない。内気でうぶな中身イケメンなのだが、惜しい男だ。


「ごめんごめん。それより、今年も俺ら一緒だぞ」

「マジっ!? やったな! んで、告白する方は決まったのか?」


 春休みの時点で、さっきの件については伝えてあるので、颯斗は知っている。


「それがさ、ふたりとも同じクラスだったんだよ」

「えっ!? マジっ!? 最高じゃん。俺は告る勇気なんて無いけど、目の保養になるな」

「まぁとにかく、ふたりを見て決めるよ。今まではすれ違うだけだったけど、近くで拝めるしな」

「決めるっつっても、どうせフラれるんじゃね?」


 颯斗の正論すぎる指摘に、俺は腕を目の部分に当てた。


「スマンっ! そんなつもりじゃあ」

「へへ、嘘だよ。そうだ、どうせフラれんだよ。知ってる」


 学内トップ美少女のふたり。そんな相手の彼氏になれるわけないなんて知ってる。けど、夢見たって良いじゃないか。減るもんじゃなし。


「けど、ミジンコみてぇな確率はあるかもだし、頑張れよ」

「ひでぇ言い方だな」

「ほら、教室行くぞ」

「おう!」


 ダチと並んで校舎内に入った。

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