小休止・士のあの日のあの子のあの場所あのジジイ
ヤツは老師の前に臆することなく立っていた!
しかし現れたるは幼子!実際カラテ歴もヤツに数倍劣るシロウトそのものである!
「楽勝である」
ヤツは嘲笑した!いや哀れんですらいた!
老師の気まぐれに付き合わされ突き合いを強いられる幼子を!
それはヤツにとっても「おつきあい」に過ぎなかった!
老師が動いた!いや実際には動かなかった!
ただ口は動いた!雄弁でなくただ一言!
「傷つけずに殺せ」
ヤツが了解した瞬間、変化は訪れた。
「勝てぬ!」
ヤツは驚愕した!恐れおののいてすら居た!
相手は幼子である!確認するがシロウトそのものである!
だがヤツは言った、勝てぬと!
そればかりではない!
膝は震え!幼子のコブシが深々と己の顔面を突き刺す幻影に涙がこぼれた!
それはあきらかに恐怖だった!
なぜだ!ヤツは強者である!「傷つけずに殺す」など容易いはずである!
それがなぜか幼子に討ち果たされる前提!
それもまぐれではない!一撃必殺である!(しかも確信)
絶対的強者たるヤツがカラテ歴にも実力にも劣る幼子に一撃必殺されるのを恐れる!
「勝てまい」
老師が静かに言う。
「それが弱さじゃよ
だが強さでもある」
傷つけるなと言った。
幼子は柔肌である。コブシはおろかヤツの踏み出す足が弾いた小石ですらたやすく傷つくだろう。またヤツはそれを恐れても居た。死ぬならばせめて苦しまず一撃で。そのように了承していた。つまり殺すこともまた確信していたのである。しかし勝てない。
殺せとも言った。
幼子のカスリ傷すらためらうヤツがなぜkawaii幼子を殺すことができようか。否。
そして弱さ、強さである。
己より弱いものに対する憐憫!それを肌で感じとるほどの経験値、洞察力!
そして圧倒的実力差!全てが弱さである。
強さとは…老師ですら分かっていなかった。
だがわからないということ、それそのものが「可能性」であると老師もまた直感した
それはヤツもまた同じである。
わからないまま了承した。
「修行完了!」
言うのが逆であるが、老師はこう言った。
「ありがとうございました」
幼子も言ったことについては言うまでもあるまい。
後に拳聖と呼ばれる幼子の初の試合が今日であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます