第7話 湊先輩こっち向け作戦②

「と、いうわけで“湊先輩こっち向け作戦”について話し合いを始めたいと思います!」


華菜は千早と共に学校近くのファミレスに来ていた。ファミレスよりもファストフード店とかの方が安上がりで良いのではないか、と提案したが千早がどうしてもここのファミレスが良いと言って譲らなかった。


「“湊先輩こっち向け作戦”ってもっと作戦名どうにかならなかったの? なんか私が湊由里香に片思いしている乙女みたいで嫌なんだけど」


「まあまあ。華菜ちゃんの話聞いてる限り恋と似たようなもんだし大丈夫だって」


「全然似たようなもんじゃないと思うけど……」


「でもずっと一途に思い続けていた相手とようやく再会されたら拒絶されてしまった。それでもなお一緒にいたいってもう恋じゃない? 切ない片思い!」


「なんか納得いかないけど、これ以上犬原さんにツッコミ入れてたらキリがないから、もうそれでいいや……」


華菜が頼んだドリアを店員が置いていき、一旦会話が止まった。


ここのドリアは安いので、学生の懐事情にも優しくて助かる。ここのところあまり体を動かしてないので、カロリーが怖いところだが、ついついおいしそうな匂いに誘われてしまった。


それに自分からファミレスを指定した千早が水しか頼まなかったので、2人揃って何も注文しないのはまずいと思い華菜は食べ物の注文をせざるを得なかった。


「で、こっからが重要なんだけど。湊先輩にいかにして華菜ちゃんが振り向いてもらえるか、作戦を考えてきたんだよ」


「そりゃどうも。あんまり期待せずに聞いとく」


千早のことだからまた変な作戦をもってくるのだろうと華菜は判断した。


「1つ目、愛の告白はド派手に! 校庭から湊先輩に愛を叫べ作戦!」


「愛の告白をするつもりはないし、タイトルから嫌な予感しかしないんだけど……」


華菜の言葉は華麗にスルーして、千早がカバンの中から白い大きめのハンカチのようなものを取り出した。


「これを頭に巻いてハチマキみたいにするの」


千早が実際に巻いていく。体育祭でもはじめるつもりなのだろうか。


「華菜ちゃんが応援団みたいな格好して運動場から大声で湊先輩を応援するの。」


「はぁ?」


「応援して、実際に野球をしていたころの感覚に戻ってもらってもらうの。そしたら華菜ちゃんと野球がしたくなるんじゃないかな?」


千早が“かっとばせー、み、な、と”と小声ながらも体を揺らして楽しそうに口ずさむ。


「どうかな?」


「絶対嫌。恥ずかしいし」


華菜が即答する。


「えー。でも入学して早々に2年生の教室に飛び込んで湊先輩のこと挑発したのに無視されたことに比べれ――」


「やめて! あれは黒歴史! あとぎりぎり無視はされてないから!」


千早がすべて言い切る前に華菜が言葉を遮った。


「わかった。じゃあもう1個案があるからどっちか選んで。2択だよ!」


「いや、少なくとも1つ目のは却下だから2つ目の案の採用かどっちも不採用かの2択だからね」


「この案を聞いたらきっと華菜ちゃんも納得してくれると思うから」


千早がフフンと鼻を鳴らした。


「2つ目の作戦はシンプルに何度も何度も2年3組に通って湊先輩にとって華菜ちゃんを放っておけない存在にするんだよ。さあ、どっちか選んで!」


「……どっちも不採用で」


「えー。でもこのくらいしないと湊先輩は振り向いてくれないし、きっと華菜ちゃんがせっかくうちの学校に入学したのが無駄になっちゃうよ?」


「どうでもいいんだって、別に。今日会ったばかりの犬原さんには関係ないことだし」


どうでもいいわけがなかった。きっと由里香を野球に戻せないと華菜の高校生活は意味をなさないだろう。クラスでも上手くなじめなさそうだし、このままでは華菜は真っ暗な3年間を過ごすことになるだろう。


華菜は千早の方は見ずにドリアの皿を見つめていた。もう湯気は立ち上ってはいなかった。

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