Episode 1

Episode 1.1

 AD三〇〇年、第七代ミグランス王朝。

 ある日アルドたち旅の一行は、王都ユニガンの国立劇場の支配人に呼び出され、とある依頼を受けた。一行は依頼をこなすべく、街を出てセレナ海岸へと歩を進めていた。


「急に支配人に呼び出されたと思ったら、やっぱりいつものアレだったわね」鍛冶屋の看板娘エイミはやれやれといった様子だ。

「劇の新しい脚本を所望しておられマシタ。今こそ人型汎用アンドロイドのサーチ能力を発揮する時デス!!」リィカは張り切って自慢のツインテールをくるくると回転させている。

「合成人間の私には、人間が物語を作って演じたり観たりするのは理解し難い行為だけれど、興味はあるわ」ヘレナの表情は読めないがやる気はあるようだ。

「探してきてくれなどと毎度毎度簡単に言うでござるが、そう易々と見つかるものではござらんぞ。何か当てはあるでござるか?」そうは言いながらも、乗り気なのがカエル男のサイラスの顔に出ている。

「うーん・・・当てなんてないけど、他でもない支配人の頼みだ。どうにかして探してくるしかないな」お人好しを絵に描いたようなアルドはいつだって前向きだ。その何事にも全力で取り組む姿に、仲間は全幅の信頼を寄せている。

「頑張って探せば、きっといい脚本が見つかるよ! ね、お兄ちゃん」アルドの妹のフィーネもやる気のようで、にっこり笑った。

 一行が連れ歩く黒猫のヴァルヲは何処吹く風といった顔で、アルドの後ろをのんびりと歩いている。

「たまたま劇作家とバッタリ会えると助かるんだけどな!!」

 などと一行が談笑している最中だった。


「覚悟しやがれ!!」


 突然、辺りに物々しい雄叫びが響き渡る。


「あっちから聞こえたぞ! 行ってみよう」


 物騒な声を聞くや否や、アルドは声の聞こえた方向へと走り出していた。仲間たちもまた、アルドに続き駆け出す。

 駆け付けた先には、ひとりの青年と大勢の魔獣が対峙していた。どうやら声の主は魔獣のリーダー格のようで、今まさに青年を襲わんとしているところだ。


「ふん、かかって来やがれ!」

 青年は息巻いているが、どう見ても多勢に無勢だ。すかさずアルドたちが割って入った。


「助太刀する!!」

「なんだコイツらァ!! まとめてぶちのめしてやる!!」


 屈強な魔獣たちを相手にアルド一行は果敢に挑む。今まで幾度となく死線を潜り抜けてきた彼らだ。どんなに手強い相手でも、決して屈することはなかった。大勢いた魔獣たちは次々と倒されていく。


「へェ・・・」魔獣の群れと対峙していた青年はアルドたちの健闘ぶりにニヤリと笑みをこぼしつつ、彼もまた魔獣たちをばったばったとなぎ倒していった。どうやら腕は立つようだ。


「く・・・くそっ、ここは一時撤退だ!! ずらかるぞ!!」

 リーダー格がそう言い捨てると、魔獣の群れは一目散に逃げていった。

「ふん、いつでもかかって来やがれ」逃げ帰る魔獣たちを尻目に、青年は既に自分の獲物の手入れを始めていた。


「危なかったな。無事で良かったよ」アルドが青年へと駆け寄る。

「礼を言う。ま、俺ひとりでもなんとかなったけどな」青年はあっけらかんと笑って言ってのけた。「俺の名はアウイル。旅の物書きだ。訳あって各地を回りながら小説を書いている」


「俺はアルド。俺も仲間たちと旅をしているんだ。アウイルは物書きなのか。ってことは脚本とかも書けるのか? 俺たちは今、劇の脚本を探しているところなんだ」

「ん? あぁ、劇用に書き直せば使えなくもないかもな。ちょうど今書いている冒険譚が終盤に差し掛かっていて、あと少しで書き上がるところだ。俺はどうしてもこいつを後世に残る名作に仕上げなくちゃあならない。その為なら脚本として使ってもらうのも悪くないな」まんざらでもない様子で、アウイルと名乗る青年は笑った。

「そうか! だったらなにか力になれることがあれば言ってくれ。協力するよ」

「渡りに船とはこのことデス。良いパートナーシップを築きマショウ」

「拙者たち、腕っぷしは立つでござるからな。アウイル殿もなかなかのものでござったぞ」

「ありがとう。こりゃまた随分と変わった仲間たちだ。だがさっきの戦いっぷり、見かけで判断してはいけない見本だな。また見識が深まったよ」そう言いながら、アウイルはノートにメモを取っている。

「それで、これからどうするの?」エイミがアウイルへと尋ねた。

「これからリンデに寄って野暮用を済ませたら、知り合いの船に乗せてもらいザルボーへと渡る。そこでこの旅には一区切りつけるつもりだ」

「では私たちもリンデで旅の仕度を整えたほうが良さそうね」ヘレナが早速準備へと取り掛かる。

「私も張り切ってお弁当を作るよ!!」フィーネは早くもお弁当の中身を考えているようだ。

「にゃ?」お弁当という単語にヴァルヲが反応した。


「細かい話はリンデに着いたら話そう。ひと先ず向かおうか」


 アウイルに促され、アルドたちは港町リンデを目指し歩き始めた。

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