社会の中、身を寄せ合うようにして生きる孤独なふたり

 記憶を失い身元不明のままの男性と、両親を亡くしひとりで生きてゆかざるを得なくなった高校生の少女の、奇妙な共同生活のお話。
 ままならない現実の苦しさを描いた現代ドラマです。天涯孤独の身の上となった人同士が、縁とも呼べないようなか細い縁から、手を取り合うかのようにして共に暮らし始める物語。
 世に孤独と呼ばれる状態は数多あれど、その中でも特に差し迫った苦労の大きな孤独というか、つまり「明日からどうやって食べていけばいいんだ」レベルの孤独を描いているところが魅力的でした。身の回りに自分の縁者が誰もおらず、物質的・経済的なレベルで独立していかなければいけない、ということの意味。今はかろうじて生きていても、この先なにかあったらそれで終わり、という綱渡りの人生。そうありふれた境遇ではない、と信じたいのですけれど、しかし反面、少なからずそういう人生を抱えている人がいるのは確実なわけで(なんなら知らないだけで身の回りにもいる)、それだけに身につまされるような思いです。普段、自分がいかに脳天気に生きているか。
 この先はネタバレを含みますのでご注意下さい。
 結末が好きです。壮絶さというか、そう都合よくは行ってくれないところ。結局ままならないものはどうしたってままならないわけで、つまり傍目にはきっと最悪と言ってもいいくらいの状況だと思うのですけれど、それでも最後一行、ギリギリのところで前を向いていること。きっと救いや解決と呼べるほどの何かもなく、でも決してバッドエンドで終わるわけではない(もちろんハッピーとも言えない)、荒涼としていながらも何か強さのようなものを感じさせてくれる作品でした。