4話 傷パワーパッドは正義

*****


「夢でもいい。今夜も夢の中で待ってる。」


*****




『カランコロン—...』




「ダン!音ちゃん!



おかえりーっ…て

…え?お姫様抱っこ?


…え〝っ!

音羽、膝から血が!!!


ダ!ダ、ダン早くお風呂場連れてって!」




日向がキッチンから声だけで誘導する。


「あー、兄貴。

傷パワーパッド持ってる?帰りに買ってくるの忘れた。音が暴れるせいで。」


「な!なんでよ!ひな兄違うの!これはね?その…あの、なんで言うか…


へへへ。スリルを求めた結果?」


照れながら日向にそう言うとダンとお風呂場に向かった。


「話はご飯の時に聞くから早く綺麗にしてきなさい。心配ご無用。

傷パワーパッド、用意しておくから。」


どうやらこの家で傷パワーパッドは最上級の治療で正義のようだ。


「スリルって。もぅ、嫁入り前の娘が怪我なんて

お兄ちゃん心配だよ。そしてどこに頬を赤らめる要素があったの。」



ため息をつきながら独り言のように鍋に向かって話す日向。



だが、混ぜる手は止めない。

日向はお父さんでもあり、お母さんでもある。

娘を心配しながら、ご飯の心配も出来る。



やはり“天才”の無駄遣いはこんなところでも起きているようだ。


「あと5分でご飯ですよー!早く降りてきなさいねー!

ちゃんと手も洗うのよー!うがいもしてねー!」


2階のお風呂場から2人の返事が聞こえる。


—————————————

*****




『—クチュッ…チュパ…

—チュポ、チュル…』





湯気が立ち込めるお風呂場。



「いっ…、あっ…んん〝ー。はぁ。

そこはダメだよ、恥ずかしいっ。

—み、見ないで…」





湯船の縁に股を広げて座らされる音羽。



しゃがんで、一心不乱にシャワーを膝めがけて浴びせるダン。




「痛いっ!!!!痛いの!いやーーーーっ!

ダン、あんた馬鹿なの?シャワーの水圧、もう、痛ーーーい!

ひな兄ぃ!助けてー」


足をバタバタさせて逃げる音羽の太ももを抑え容赦なく浴びせるダン。


「おい、暴れんな!ちょ、バスタオル!スカートめくれ!変な声出すんじゃねえよ。


こ、こら、止めろ!あと少しで終わるから!

音羽、転んだ時ヒール脱げなのか?

足の裏、砂利付いてる。今洗ってんだから大人しくしてろ」


ダンはバスタオルを膝に掛け直し、シャワーを止める。


血は止まったようだ。

ダンは新しいバスタオルを取り、音羽の足を丁寧に拭いていく。

つま先から、かかと、白く細い足。

そして太ももに差し掛かったところで手と息が止まる。


「ちょ。ねぇ、もういいから。傷パワーパッド取って。」


「何、今更恥ずかしがってんだよ。

風呂なんてガキの頃から毎日一緒に入ってんだろ。

裸も見てるし、今更なんだよ。」



そういうと、持っていたバスタオルを優しく頭にかけ、

——クシャクシャクシャ。と音羽の髪の毛を雑に扱い風呂場を後にした。




「いつの話してんのよ…。」



音羽もまだ湯気が立ち込めるお風呂場を後にした。


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