第30話 修行編 Last Day ④


「はっはー! 始まるぞ!」


 ——  TiTiチチ ……


 セフェクは目を輝かせ、イチの能力発現の兆しを楽しんでいる。


「 …… (違う、こんなのじゃダメだ …… こんなのじゃ試験に合格はできても、ハレヒメを救い出すなんて到底叶えられるものじゃない …… もっと、自分が考えてた形へ近づけるんだ …… )」


 イチは前へ差し出していた右腕を、ゆっくりと頭上へと押し上げていく。


「あれ? イチ様? あとは唱えの零式無尽ぜろしきむじんを発して法式は完了ですよ?」


「お前、何をする気だ?」


 トトとトーレがイチの異変を感じとる。


「 …… (まだなんだ …… 力の足らない自分でも、もっと力を ……効果を最大化できるように法式を …… もっと、もっと …… )」


 イチは次に、左手の指先で足元に向け書術を描き始めた。


「イチ様っ!」


「イチ! 何をしていると聞いているんだっ!」


「はっはー! 思ってた以上に面白ぇじゃねぇか! イチよぉ!」


 ——  TiTiチチ …… 


 —— Gaガッ! GaZiZiZiZiガヂヂヂヂッ! 


「まさか、干渉 …… させているの? そんなこと!」


「おいおいおい、こいつはブッ飛んでんなぁ」


 足元の円環法式の影響を受けてなのか、頭上の法式が円環の形を失い、いびつに拡大されていく。


「地上の法式を干渉させ、頭上の法式にエラーをおこさせているっていうの …… ?」


 トトは少しづつ何かに気付き始めている様子だった。


「でも、それじゃ法式の間にいるイチ様の体が …… 」


 激しく吹き荒れる暴風、プラズマの中にいるイチに目を凝らすと、髪は逆立ち、衣服は少しづつ焼け焦げ、千切れては上空に舞っていく。


 —— Piピッ! …… PiPiピッピッ


 皮膚も赤みを帯び、裂けながら、血液は上へと霧散むさんしていく。


「どうするよイチ! そのまま暴走して弾け飛ぶのか、力づくで自分の物にするのか! 想いだ! お前がどうしたいかという想いを形にしろ!」


 セフェクの目はもうイチへ注視しかしていない。周りの誰もがイチの動向に目を奪われ、動けないでいるようだ。


 —— KyaShiキャシッ! Kishuキシュッ


「(くっ! 体が …… 本当に弾け飛んでしまいそうだ …… うぅ、体中の骨がきしむ)」


「イチ、やめるんだ! 体が …… 皮膚ががれてる!」


 トーレは静止する方に動いた。


「うおおおおぉぉぉ!!! もっともっとだぁぁあああ!!!」


 イチは、心の底からの願望を大きく叫んだ。そして地上へ向けた左手と頭上へ向けた右腕を、目の前へ差し出すように前方へ向けていく。


 —— Gaガッ! Gyaギャッ! ZyaZyaZaGyaジャジャザギャッ


「きゃっ!」


「無茶だ、そんなこと! こっちにこい!」


 トーレはイチのマニュアルにない法式の使い方に予測ができず、手を差し出すが近づくに近づけないでいる。


「いけ、イチ! 欲望のまま形にしろ!」


 法式は激しく影響し合いながら、火花にも似たプラズマ同士の細かい衝突を繰り返し、次第に無理矢理に重なっていく。


「これは …… セフェク様 …… 」


「ああ …… 自力でMode Thanatosモード タナトスを作りかけているな」


「止めなくて良いんです …… か? 形を保てなければ …… 最悪なことも …… 」


「っは! それはあいつが決めることだろう」


 セフェクは腕を組み、落ち着いた様子で見届けている。


「重なれぇぇぇえええ!!!」

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