第3章 生徒会と恋愛お約束条項①
週が明けて、月曜。昼休みになると柏が俺の席にやってきた。
「やあ、姫崎くん。先週はお盛んだったみたいじゃない」
「……やっぱ聞いてないわけねえよなぁ」
ずるずると机に突っ伏す俺に柏がからからと笑う。
「放課後にね。会長があんなに慌てる様子は珍しかったよ」
「おかしいな。誤解は解けたはずなんだが……」
俺と柏が昼休みに教室で話していることにクラスメイトたちが好奇の目を向けていることはわかるが、先週のそれほどじゃあない。
ま、これを機会に少しでもクラスに馴染めればあのトラブルメイカーに『友達作るの下手くそ』なんて言われずに済むかもしれない。
ちなみに先週末――土曜はバイトもなかったので本当は美月をランチか、でなければカフェにでも誘おうかと考えていたのだが昼休みのあの件で『恋愛交渉禁止令に抵触したペナルティ』としてナシにした。放課後にそれを伝えると『寄ってきたのセンパイの方じゃないですか! ずるい! センパイがペテルティで私を可愛がるべきです!』と猛抗議してきたが却下。
どう考えても原因は美月の不意打ちだ。
「そもそも柏が一緒に生徒会室に来てくれればこんなことにはならなかったんだ」
「ええ? 酷い言いがかりだな……仕方ないじゃない。事務手続きの関係で担任に呼ばれていたんだから」
そう返してくる柏に、俺は声を潜めて尋ねる。
「クラスの連中にはいつ言うんだ?」
「あんまり早めに言って気を遣わせてもね……二、三日前くらいかな」
「そっか」
俺は生徒会の絡みで先に聞いたが、いつ明かすかなんてのは柏自身が決めればいいことだ。俺はそれまで誰にも明かさないようにすればいい。
……もっとも、クラスに柏以外の話し相手などいないのだが。
「……で、今日も生徒会室、行った方がいいのか?」
「あ、うん――お願いできる? 金曜の放課後に、執行部定例会議で姫崎くんと我妻さんの扱いについて話し合ったんだ。それを会長が説明したいって。できれば我妻さんも呼んで」
「――じゃあ先に行っててくれよ。購買寄って生徒会室に行くからさ。美月も連れてく」
言ってからしまったと思った。俺が『我妻さん』を美月と呼んだことに柏は口笛を吹くマネをして、
「了解。じゃあまた後でね」
どこか楽しげに頷いて教室を出て行く。
……俺も行くか。中庭にも寄って美月を連れて行かないとな。
◇ ◇ ◇
「……………………」
ベンチで俺を待つ美月は頬を膨らませていた。
「……まだ拗ねてんのか」
「……そんなことありませんよ」
そう答える美月の声は怒気を孕んでいたが、それでも真ん中から少しずれてベンチに座り、俺が隣に座るスペースを空けている。
「初デートが幻に終わった悲しみを噛みしめてるだけです」
「忘れろ」
「センパイがいつもよりくっついてお昼してくれたら許してあげます」
「いつの間に俺が許されなきゃならない立場になったんだ? ま、どっちにしてもそりゃ無理だ。俺、今日はここで飯食わないし」
「え」
悲しげな顔をする美月。
「そんな顔すんなよ。美月もだよ。生徒会室に来てくれってさ」
「生徒会室に?」
どこか安堵したように、美月。広げかけた弁当を元に戻す。
「ああ。柑奈さんたちのプランじゃ俺を庶務にってことだったろ? でも俺はフル参加じゃなくてスーパーサブ的なポジションを希望した。そこにお前も志願したわけだ。それをどう扱うのかって先週定例会議で話し合ったんだってさ」
「その結果を、って訳ですか」
「みたいだよ」
「じゃあ今日は二人で甘い時間を過ごせませんね」
「そんな時間を過ごした憶えはないな」
「そんな意地悪言うと生徒会室ですっごい甘い空気出しますよ」
「すげえ脅しだ……」
げんなりとすると一矢報いて気が済んだのか、美月はいつもの笑顔に戻った。立ち上がって俺に並ぶ。
「じゃ、行きましょうか」
「……なんか楽しそうだな」
「楽しいですよ。興味ありましたもん、生徒会。センパイが入ってましたからねー」
自身の言葉通り楽しそうに美月が言う。
「ありました、ってことは前の世界線じゃ生徒会に参加しなかったのか?」
「はいです。さすがに文化際の時期から参加してもすぐに選挙で代替わりですし、センパイも次の生徒会には参加しなかったので」
「そうか……俺、三年の時は生徒会に参加しなかったのか」
「前のセンパイは生徒会の仕事に興味が持てなかったのかも知れませんね。でも今度は私と一緒ですから、来年も生徒会やりたくなるかもですよー?」
一緒にどうですか? と美月。
「三年なら庶務って訳にはいかないだろ。会長か副会長か会計か――そしたらだいぶ時間拘束されそうだし、あんまり気乗りしないな」
「そんなにガチめに答えなくてもいいじゃないですかー。もうちょっと夢見させてくださいよ」
「夢?」
「ですです。生徒会長を務める三年生のセンパイに、それを支える二年生副会長の私――学園モノのお約束じゃないですか! 公私ともに支えますよー」
「恋愛交渉禁止令に抵触するな、それは」
「その頃にはアップデートしてくださいよー」
「いいから急ごうぜ。あんま待たせても悪いだろ」
「はーい」
俺がそう言うと、美月は明るい顔で返事をした。
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