人間の神様と、……そして、猫の神様。


 夢の中で猫になってしまった僕はいったいどっちの神様を信じればいいのだろうか? そんなことを僕は思った。どうやら僕の思考は少しだけ飛んでいるようだ。それはきっとこの寒さのせいだ。夢の中でも眠くなるのと同じこと。普段、僕は神様なんていう存在をまったく信じていないというのに、どうしてこんなときだけ、僕は神様のことを考えようとしているのだろうか? それはもしかしたら僕が、『いつもよりも死というものをずっと身近に感じている』からなのだろうか? 

 ……うん。そうなのかもしれない。確かにその通りなのかもしれない。

 ……ああ、そうか。僕はこれから、この場所で死ぬのか。そんなことが今更ながら、当たり前のように受け入れられた。人は誰でもいつかは死ぬ。僕もいつかは死を迎える。それが今だということなんだ。つまりそういうこと。僕の人生はここで終わる。猫になって、見知らぬ暗い廊下の真ん中で、うずくまって丸くなったまま、一人ぼっちで死んでいく。僕はそんな小さな命に過ぎない、こんなにもちっぽけな存在だったんだ。そんなことを僕はようやく思い出すことができた。

 でも、それでいいんだ。すべては夢。すべては幻。僕が願ったものも、僕が望んだものも、なにもかも手に入れることができないままに、僕はここで猫になって死んでいく。

 ……意識が、だんだんと遠くなっていった。僕はすべてを諦めたように、そっと二つの瞳を閉じた。

 もう僕はなにも考えない。なにも望まない。なにも感じない。そうやって自分のすべてを手放していく。……そうやって、……もう少しで、僕の世界は完全な終わりを迎える『はず』だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る