いじめられてひきこもってた俺。元同級生に拾われてカレー屋の店長となり初出勤の日に、AIに職を追われた女神を拾って異世界転移。装備品のスプーンがチートだった。

世界三大〇〇

転移なんてごめんだ!

 志子はカレーチェーンの社長になり「店長をやらないか」と声をかけてきた。

 俺は、志子に拾われた。


 チャンス到来だ! ひきニートを卒業するにはこの上ない条件。

 俺は2つ返事で応じ、店長になるトレーニングを積んだ。

 そしてこの日、店長試験に合格した。


「おめでとう、春日くん! 合格です。よく頑張ってくれました」

「名胡桃さん。いや、名胡桃社長、ありがとうございます!」

 ここまで頑張れたのは志子のおかげ。


 志子は笑顔で、

「いいえ。春日くんが頑張ったからです!」

 と言いながら、何かを取り出した。

 筆箱くらいの大きさ。丁寧に包装されている。


「ささやかですが、これは友人としてのプレゼントです!」

 ありがとう! 俺は感激で涙が止まらなかった。


 落ち着いてから包みを解く。

 中に入っていたのはステンレスのスプーン。

 普通のスプーン。店の備品と同じもので新品。


「勇者のスプーンです! 大事に使ってくださいね」

「うん。ありがとう」

 また泣いた。勇者のスプーンは肌身離さず持ち歩くことにした。




 そして翌日。初出勤前に近所の神社に立ち寄った。

 小さな池のある、小さな神社。

 恋愛成就の神様が祀られている。


 あろうことかその池に勇者のスプーンを落としてしまった。

 何てこった! 肌身離さず持ち歩くと決めたのに。


 すると……。


 池の中から現れたのは、女神と名乗る女性だった。

 黒々とした長い髪が神々しい。


「あなたが落としたスプーンは、これですか?」

 言いながら、銀色に輝くスプーンを見せびらかす。

 ちょっと形が違うような気がする。


「いいえ、違います」

「では、こちらですか?」

 今度は全く同じ形。だけど色違いで、黄金色に輝いている。


「それも違います。俺が落としたのは、さっきと同じ色で、これと同じ形です」

「まぁ、なんて正直者なの!」

 女神は目を輝かせている。神々しい。

 俺は、頭を掻きながら言った。


「正直なことくらいしか、取り柄がないんですよ」

「うんうん。たしかにそうですね!」

 なっ。失礼な! いくら神様でも初対面で言われると腹が立つ。


「そんなに怒らないで。私には見えるのですよ!」

 女神はマイペースに言った。それでいて、神々しい。


「見えるって、何が、ですか?」

「あなたのスキルが!」

「スキル? そんなもの、俺には何もないです」

「いいえ。1つだけあるようです」

 何だ? 英語の検定とか簿記とか算盤とか書道とか、何もないのに……。


「店長検定5級、ですよね」

 その通り。俺はまだ5級。4級目指し中の駆け出し店長だ。

 それはスキルというよりはライセンスなんだけど。


「そんなあなたに朗報です」

 朗報。はじめてもたらされた。


「あなたを異世界転移させてあげます!」

 はぁ? 何で今更。異世界転移なんて望んでいない。

 少し前の俺なら、飛びついた案件。

 けど、志子社長のもとで頑張るって決めた今、俺には不要。


「お断りいたします!」

 俺はキッパリと言った。

 それまでは神々しかった女神が、急に取り乱した。


「はぁ? 何拒否ってるの? めっちゃ幸運ですよ!」

「いやいや。不要ですよ」

「転移ですよ! チートもつけますよ!」

「俺、ここでやりたいことがあるんで」

「そんなこと、言わないでよ」

「って、言われてもなぁ……」

「お願い。お願いだから転移して!」

 そんなお願いされるなんて、おかしい。

 女神が言うように、異世界転移できるのはめっちゃ幸運だと思う。

 チート持ちなら、無双できるかもしれない。

 そんな上手いはなし、何か裏があるに違いない。


「裏なんてないわよ」

 と、女神は言いながら、挙動不審になった。

 ますます怪しい。


「違うわ。違うのよ。転移そのものに裏なんかないの……はっ!」

 なんだ最後の「はっ!」は。うっかり口を滑らせました感が半端ない。


「じゃあ、どうして俺が転移者に選ばれたんですか?」

「誰でもいいの。ノルマがあるの。今日中にあと1人……はっ!」

 うっかりにも程がある。


「もう1度言いますよ。お断りいたします。俺には不要ですから!」

「ふーん。じゃあ、必要になれば転移するのね?」

 今度は俺が「はっ!」と言う番だ。明らかな脅しじゃないか!

 そういう態度に出られると、許せない!


「何よ。神の力を侮るなら、天罰をくだすまで!」

「なんて言い草! 訴えてやる!」

「誰に訴えるの?」

 たしかに。訴える相手が思い浮かばない。


「こう見えて私は1級女神士。誰の拘束も受けないわ。AI以外……はっ!」

 AI? どういうこと?


「今の時代、士師業の多くがAIに置き換わっているわ。神界も例外ではなく、明日からはAIが転移の門番になるのよ……はっ!」

 さっきから、ちょくちょく考えていることがだだ漏れな気がするんですが。


「そりゃ、私、女神だもの。それくらい分かるわ!」

 どやった。その顔がたまらなくかわいいのが腹立たしい。

 この、俗物女神め!


「そういったって仕方ないでしょう。分かっちゃうんだから」

 分かったことをスルーせずに取り合うからややこしい。聞き流せよ。


「なるほど、そういうことね……はっ!」

 言っている側からこれだ。本当にどうしようもない女神。

 だけど、どこか放っておけないところがある。

 俺は、はなしだけは聞いてやろうと思い直した。


______


あとがき

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 久し振りに異世界ファンタジーを書きはじめました。


 今度こそ、本当に異世界に行こうと思います!


 応援、よろしくお願いいたします。

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