第57話 謎多き結末

『――君が今の姿になる前、何者かに襲われた可能性がある――』

 真顔で推測したカシンの言葉が引き金となり、断片的な記憶のカケラがまりんの脳裏に流れ込む。

 学校帰りのまりんの面前に佇む人物の姿。

 カラスのように黒いコートを着るその人の顔は思い出せない。ただ、ぞっとするような雰囲気をまとい、にやりと不気味な笑みを浮かべるその人に、まりんは酷く怯えていた。

 耳にかかるくらいの、黒髪の少年が白いロングパーカーを着てまりんの面前に佇み、黒ずくめの人物と対峙している。

 顔面蒼白の細谷がこちら側を覗き込んでいるのを最後に、ふっつりと記憶が途絶えた。

「 ………… 」

 まりんは、頭が混乱していることに気付いた。

 カシンの話はあくまで推測だ。本当のこととは限らない。だが、まりんの本体が今も行方不明なのは本当のことだと思って間違いない。

「……確かに、いろいろと謎は残るけど……私が魂魄体なら、辻褄が合うわ。

 おかしいと思ったのよ。私の面前に死神が現れるなんて。

 事件か事故に巻き込まれて死ぬのか、突発的に発症して病死するのか、いろいろ考えてた」

 不思議と、信じたくもない現実をまりんは受け入れたようだ。ふぅと穏やかに微笑み

「けれど、私はもうとっくに死んでたのね。

 物もちゃんと持てるし、学校で友達と会話して触れ合ったり、家族とご飯食べたり、普段と変わらない生活してたから、全然気付かなかったけど」

 まりんはそう、切なくも理解したように言った。

 間近でまりんの発言を耳にしたシロヤマ、細谷の二人には、それがとても生々しく聞こえた。

「あのさ」

 気まずい表情をした細谷が不意に、口を開く。

「赤園はまだ……死んじゃいないよ。きっと、どこか安全な場所で生きてる。だから……希望を持とうぜ」

 細谷はそう言って、優しく微笑んだ。

 希望が滲み出る細谷の笑顔を見たまりんの顔がみるみる赤面する。

 好きなひとの笑顔って、なんでこうも相手をドキドキさせてしまうのだろう。

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