第31話 攻防戦上の赤ずきんⅡ

「本気で……言ってるの?」

「そうじゃなきゃ、面と向かって言わないよ」

 対立する男女二人の間に、殺伐とした空気が流れ込む。

「そう……あなたが、その気なら……」

 腹を決めたまりんの右隣に、四神のひとつである、朱雀の形をした紅蓮の炎が浮かび上がる。

「私も本気で、あなたの使命もくてきを阻止するわ」

 面前にいるシロヤマを凜と見据えながら、まりんは断言した。

「そうこなくちゃ……」

 巨大な不死鳥の形をした紅蓮の炎が、にやりとしたシロヤマの左隣に浮かび上がり、威勢を放つ。

「行くぜ!」

 シロヤマが発した掛け声がゴングとなり、命懸けの熱き攻防戦が幕を開けた。

 紅蓮の炎でかたどられた朱雀と不死鳥が、威嚇の鳴き声をあげて激突。壮大に火花を散らす。

 攻防する二つの力を挟み、依然として対峙するまりんとシロヤマに動きはない。

 二人とも、面前のものを動かすのに集中しているからだ。

 その一方で、セバスチャンと対戦する細谷に動きがあった。

 どんなに槍を駆使して攻撃しても、手持ちの剣を巧みに操り、阻止してしまうセバスチャンに勝ち目はない。

 まりんから“借り物の力”を借りても、それは明白な事実だった。

 セバスチャンとの対戦において、それを思い知った細谷は戦術を変えた。

 着ている、紺色のコートの内ポケットから取り出した、小型の煙幕弾えんまくだんを鉄筋コンクリートの床上に叩きつける。

 カッと金属が破裂する音がしたかと思うと、忽ち灰色の煙幕が立ちこめた。

 何かあった時のためにと、普段から上着の内ポケットに入れて持ち歩いている煙幕弾ものが役に立った瞬間だった。

 完璧なように見えるセバスチャンでも、これには迂闊だったに違いない。

 珍しく見せたセバスチャンの、ほんの一瞬の隙をつき、思い切り地を蹴って宙を飛んだ細谷はすぽんっと、上空に張られている金色の結界の中に飛び込んだ。

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