第6話:誰が為

「すばらしいよ君は!」

(やらなきゃ。)

「先生のおかげで…本当に…なんとお礼を申し上げたらいいか…。」

(やらなきゃ、やらなきゃ。)

「これからもよろしく頼むよ。吉田君。」

(待ってる。みんなと京子が、待ってる。)

(やらなきゃ、やらなきゃ。)

(やらなきゃ、やらなきゃ、やらなきゃやらなきゃ、やらなきゃやらなきゃやらなきゃやらなきゃやらなキャヤラナキャヤラナキャヤラナキャヤラナキャ…

プツンッ


店の外に投げ飛ばされた男は、ひざまずき、ハァハァと息を切らしている。

「ハァ…ハァ…やるな、お前ら…これをもって来ておいて、よかったぜ…。」

男は腰から三十センチよりは長い脇差を抜いた。少し形の外れた楕円が光る。

「穏便に済ませようぜ、お前らさん…。」

男は刃先でしっかりと安土等を捉える。

「おい手前ぇ話聞いてたのか?」

安土もベルトからナイフを抜く。

シュッ!

安土は瞬きもせぬ内に男の背後に回り込む。

「謝れって言ったんだよ。」

「う、うわぁぁぁ!」

男は錯乱し、脇差を精一杯に振り回した。

ザクッ。

刃先が安土の腕に当たり、安土の手から血がしたたり落ちる。

「クソッ手前ぇ…。」

安土は小さな傷をぐっと抑える。小さな傷のはずなのに。

「あいつまさか…毒盛りやがったな。」

玉城は安土に駆け寄る。

「おい、大丈夫か安土、斬られたとこ見せろ。応急処置する。」

玉城は安土を連れて店の中に入った。

「ッへ…ヘヘッ。おれだって…やりゃできるんだよやりゃぁ!」

男はアヅチの負傷した姿に味を占め、調子に乗ったように高笑いをする。

「おら玉城ぉ!早くこっちにこい!今なら解毒剤を渡してやるよ!」

「紀ちゃん、頼んでたやつ、くれるか。」

「アイヨ。」

玉城は店の奥から二十センチ以上の幅のある大剣と、先が丸く整えられていない刀を持ってきた。

吉田はそれを受け取り、ブンブンと何度か振り回した。

「ん、いつも通りだな、ありがとよ、紀ちゃん。」

吉田はニィッと笑って見せた。

「おいお前ら話を聞けよ!」

男は我慢できずに脇差をまっすぐに構えて突進してきた!

ガキン!

脇差は大剣の樋に当たり、勢いを相殺された。

「向かってくるだけの単純な攻撃。一瞬で止められるってわかんねぇのか?」

吉田はギロリとにらむ。

北流剣ホクリュウケン…」

男は後ずさりしようとした、が…

吉田は自分の刀を地面に叩きつけた、刀は反動を受け、男の方へ跳ねる!

渡徒とかち!」

吉田の大剣は男の行く手を阻み、刀はすさまじい威力で胸元に当たった。

「ウッ!」

「安心しろ、峰打ちにしてある。」

男はナイフを落とし倒れた。

吉田はトコトコと男の倒れている場所まで行く。

「これでこりたろ?もう謝罪は面倒だから、早く帰っちま……!?」

先ほどの衝撃のせいだろうか、吉田の刀はパキンと言う音とともに地面に半身を落とした。

「吉田さん!ウッ!」

「叫ぶなばかっ!傷が開くだろ!」

玉城は安土の包帯を巻く。

「へっんながむしゃらの攻撃するからだ…自分の刀の限界くらい…知っておけ!」

男は足でナイフをけった。ナイフは吉田の足に刺さろうと…

シュゥゥゥ…

「んな…バカな…。治っている…だと…。」

吉田の足に刺さろうとしたナイフを止めたのは、先ほどと同じ長さを取り戻した吉田の刀だった。

「これがオレのカルマさ。」

吉田は男に刀を突き付けた。

「すげぇな、壊れたものを何でんかんでん治しちまう…再生のカルマってことか。オレのリウマチも元通りに直してほしいもんだぜ。」

玉城は少し笑いながら言う。

「紀ちゃん…。」

「どうした?吉田。」

「リウマチ治せたら、良かったのにね。」

「吉田さん…。」

安土は吉田を見つめる。

「これはオレがチェイサーに入る前の話……


2218/5/6吉田ヨシダ 創介ソウスケ


「これみたら京子喜ぶぞー…。」

吉田は右手に最新のゲーム機を抱えながら帰路についていた。自分含め自分の家族は抽選で外れてしまったのだが、同僚がなんとなく応募していて、しかも抽選に当たったらしく、いらないと言うので当選権を譲ってもらったのだ。

小さなころから武道を習っていたのだが、中学の反抗期で辞めてしまい、親元を離れ高校からは神奈川にいた。23で大学時代から付き合っていた彼女と結婚し、六年前に子を授かり今に至る。

一人娘の京子は父がゲームを好んでやっているのを見てゲームが大好きになり、いつもゲームの話ばかりしている。妻にはもう見せるなと叱られるのだが、ゲームをキラキラとした目で見つめる自分の娘が見れると思うと、やはり見せてしまう。

最新のゲーム機を見た京子の表情を思い浮かべながらドアノブを回すと鍵が開いていた。

「ん…おかしいな。いつもは鍵がかかってるのにな…。」

不審に思いドアを開くと、家は暗く、帰りを待ちわびた妻の声も娘の声も聞こえなかった。

リビングで妻は血だらけで横たわっており、娘は跡形もなく消えていた。


「事故」だと警察は処理した。「事件」ではなく「事故」だと。

妻は前々から警察に目をつけられていたらしく、自分の知らない場所で反社会的勢力なるっ物とつるんでいたらしい。妻は自殺を図っており、娘は妻が混乱してどこかへ連れて行ったと「処理」された。

「違う…京子は…京子は…。」

そんなある日一通の手紙が届く。それは高橋と名乗るものからの手紙であった。

手紙にはこう書きつづられていた。

「娘さんの事件の真実知りたくありませんか?知りたければ6月の10日、上下田カミシモダ青龍台隊舎セイリュウタイタイシャまで来てください。」

面識のない人物からの手紙。嘘の可能性も十分考えられた。だが、自分はやはり間違ってなどいなかったと吉田は確信した。6月10日、青龍台隊舎。そして上下田…。

2218/6/10

「お、来た来た。」

「高橋…もう少し静かにしてくれるか…。客人の前だ。」

指定された場所には、黒髪の背の高い二十代後半ぐらいの男と、同じく二十代後半ぐらいの、頬に入れ墨をした目が虚ろな男がいた。

黒上の背の高い方が挨拶をした。

「こんにちは、はじめまして…かな?一応。高橋 景臨って言います。こんにちは吉田さん。」

「はじめまして。…ここに、妻と娘の事件の真相が…あるんですか。」

「その通りです。これを見てもらえますか?」

高橋が腕をクイっとやると、目が虚ろな方の男は机の上のパソコンを開いた。

パソコンの画面を開くと、そこには顔に大きな痣のできた自分の娘の顔が映っていた。

「京子!…これは、なんですか!?なんでここに娘が映っているんですか⁉︎しかも、痣だらけだ…一体これはなんなんですか!」

石付木イシヅキ、説明してやれ。」

高橋は、石付木と呼ばれる男の方を見た。

「これは、ある犯罪組織のネットオークションのサイトです。あなたの娘…京子さんは、ここで売られています。額は3億。」

「3億…⁉︎」

3億、そんな莫大な金は用意できない。これは、自分の能力を使うしかない。そう思った。


「高橋、あの人あのままにしててよかったのか?娘のためと言って、無茶をしそうだったぞ。」

「大丈夫さ。多分あいつはまた俺らの所に来る。」

「高橋…この間から思っていたが、お前はあの人の行動に対して、どうしていつも確信的に物を言うんだ。」

「……変わってないなぁ。17年の昔から。」

「そうか…17年前の。」

「…………。」


「君かね、うちで働きたいというものは。」

「はい。」

自分の再生のカルマを有意義に使え、かつ大きな金が手に入る場所、それは病院だと考え、病院に来た。

「医師の免許も何も持っていないのに、人の病気を治すだなんて馬鹿げたことがあるものか。」

「一度見てもらえたら信じてもらえます。」

「………どんな病気でも治せると言ったな。今、世界中で誰1人として直せない難病を患った子供がうちの病院にいる。そんな病気でも、君は治せるのか?」

「元通りに治してみせます!ですが、このことは他言無用で。」

「治してからの話だがな。」


「う…うぅ…。」

「先生!光則は、光則はどうなるんですか⁉︎」

「お母さん少し落ち着いて。…吉田君、治せるのかね。」

「……はい。」

緊張で手がぐしょぐしょになっている。しかし、やるしかない。

「カルマ…発動。」

少年が眩い光に包まれた。光が収まったあと、少年には先程まで大量にあった発疹がなくなっていた。

「光則!」

「すごいじゃないか吉田君!想像以上だ!あぁ、もっと治して欲しい病気がたくさんある!」

「…あ……あ…は…い。」

この時に気づいた。自分のカルマの欠点に。

「俺のカルマは、価値が高いものほど、自分のエネルギーを使うカルマだった。安い金属とかなら簡単に直せるが、人の命や体の一部に関してはそうはいかねぇ。その少年の病気を治した後の俺の体はボロボロだった。」


治せば疲れる。だが、治さなければ金は足りない。どうすれば、どうすればいいんだ!

気がつくと自分は、青龍台隊舎の前に来ていた。

「お!きたきた。意外と早かったなー。吉田さん!」

「お、俺は、どうすれば…京子のために、俺は、どうすれば!」

「誰がまともに金払って買えって言ったよ。」

「え⁉︎」

「奪えばいいんだよ。奪えば。」

「……はぁ?」

「あんた…吉田さん。俺と一緒に、あいつらをぶっ飛ばそうぜ。」


「そうか、そんな経緯で高橋さんと出会ったんですね。」

「俺は正直、あのひとのやる事なす事には、びっくりしてばっかだよ。でも、この人についていけば間違いないって、俺ぁ信じてるのさ。この俺のカルマは、この人に使うためにあるんだって信じてる。」

「フッ…長ぇ話聞かされて、やっと終わったかよ。」

「手前っ!」

男は立ち上がり、吉田たちに背を向けた。

「どこ行くんだよ。」

吉田は少しおっかなびっくりした表情で聞く。

「だいたい、俺は戦う気がなかったんだよ。話し合いが成立しなかったんだから、もう帰ることにするよ。」

「は…はぁ。」

男はスタスタと路地裏から出ていこうとし…

「ぐわっ‼︎」

男は突然大きな声を出して倒れた。

「なんだ⁉︎」

「やりすぎたんじゃないですか?吉田さん。」

「いんや、俺は手加減したはずだぞ……。」

「じゃぁなんで…。」

吉田が男の元に駆け寄ると、吉田はすぐに異変に気づいた。

「こいつ……目が……。」

男の目は花のような模様が浮かび上がっていた。

「なんだこれは!!」


「正義とかなんだとか、甘いんだよお前らさぁ。せいぜい楽しませてくれよな、下等民族共…フッフフッフハハハハ!」


つづく。

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