第3話 既定路線は次期宰相さま?

広めのダイニングルームには私とサミュエル様の2人だけ。扉の近くに執事とダイニングルーム担当の侍女が、アニーは私の傍に控えている。サミュエル様との婚約が既定路線なのかもしれないけれど私の未来が勝手に決まっていくようでなんだか面白くない。


「お兄様とお約束をされていたのに申し訳ございません…。急ぎの仕事が入ったようで帰宅が遅くなるようです」

「……構わないよ。リズと二人で食事できるなんて幸運だ」


ワインを傾けながらほほ笑むサミュエル様はかっこいい。生暖かいアニーの視線を感じ目を逸らした。うっとりしている場合ではない。おそらくお兄様とサミュエル様は共犯だ。最初はお兄様に会いに来ていたはずなのに最近は私に会いに来る。それもプレゼントを毎回用意して……。


例えば、最近はまっているハーブティー。ローズティーやカモミールが好きだということも知っているようで、いろいろな銘柄のものをちょとずつくれる。いろんな種類のものをちょこっとずつ試してみたかたのでとても嬉しいけれど、そのことを誰にも話したことがない。仮にも伯爵家の娘、少ない量ばかり購入していると体裁が悪い。使用人もいるし、お茶会も頻繁に行うのであって困るわけではないけれど……。


そして私が好きそうな珍しいお菓子を持ってきてくれることもある。



「女官や侍女の間で話題になっている焼き菓子があると聞いたんだけど、リザが好きそうだなと思って……。後で食べて感想聞かせて?」

「ありがとうございます。サミュエル様がくださるお菓子は美味しいものばかりだから嬉しいですわ。」


スープを飲む姿も美しい。サミュエル様は女官や侍女の間で人気だとお兄様に聞いたことがある。高い身長にほっそり引き締まった体、綺麗なブロンドの髪に濃い深いブルーの瞳、まるで王子様な容貌なのだから女性に人気なのは当然だと思う。そしていずれ宰相になるのは確実だとなれば女官や侍女だけでなくご令嬢にもモテるのだろうな……。


「……いいですか?」

「はっ…はい?」

「よかった。リザの社交デビューではエスコートをしたかったのです」

「あっ……いえ…」


私が考えている間に、夜会のエスコートを申し込まれていたらしい。思わず返事をしてしまったけれど……。


「……っ!」


口を開こうとした瞬間に、アニーが目を細めて私をみた。


「あの……。やっぱり、お父様とお兄様にエスコートされたいなぁ……なんて……」

「ふふ。そうですよね。では、一番最初のダンスは私と踊ってくださいませんか?」


あっ……誤解されてしまう……。


「大丈夫です。もう伯爵とルイスには許可をいただいています。」


ニコっと笑みを浮かべたサミュエル様は楽しみだなと話す。執事や侍女の笑顔で居心地が悪い。アニーを横目で見るといつもの表情に戻っていた。




◇◇◇





「ねぇ、お兄様?」


夜遅くに帰ってきた兄を玄関で迎える。


「どうした?まだ起きていたのか?」

「"お仕事"おつかれさまでした。」


令嬢らしくないとは分かっていたけれど、イライラが止められない。


「ご機嫌ナナメだな。」


笑いながら私の頭をポンポンとたたき、撫でた。


「もう。お兄様、最初からお仕事だったのでしょう。」


意図的に私とサミュエル様を二人にしたのでしょうと言いたかった。


「リズもまんざらではないだろう?」

「そんなことは…。」

「サミュエルによく見惚れているだろう?」


先日、三人でお茶をしたときのことを言っているに違いない。


「リズ、そろそろそういう年齢だろ?家柄的にもうちにとっては悪くない相手だよ。」

「そうですが……。」

「侯爵家の嫡男で父親はこの国の宰相だ。おそらく次の宰相はサミュエルだろう?」

「……。」

「それに昔からあいつのことをよく知っているし、それにサミュエルもお前のことをよく知っている。」


お兄様は私の頬に手を置き、両頬を引っ張った。


「いっ……。」

「何も今すぐ結婚しろだなんて言っていない。もっと話をしてみてからでも遅くない。」


この話は終わりだとお兄様は自室へ戻り、私は玄関ホールにぽつんと一人残された。


「それだと…困るのです……。」


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