第18話 怒りの矛先
「そんで軽くあしらわれたのかい」
「そう、綺麗だとみんな言ってたけど、きっと話しかけた人みんなにああいう反応してるんだろうなって」
セレンとの事をメイ婆に話していた。
「エルフってみんなあんなに綺麗なのか?」
「そうだね、エルフ300歳くらいは生きるし、老いるのが遅いからよく好まれるね、とはいえセレンはエルフの中でも飛びぬけて美人だ、お前あまり目を肥えさせると後が怖いぞ」
やめてくれよ、美人ばかり目にしてるから高望みしちゃうなんて、俺は......ないはず。
「しかし図書館に行けたのはすごいな、アタシゃ行きたいと思ってたけどあんときは他の民に止められたよ」
「でもさ、本なんてほとんどがボロボロだったぜ?歴史のありそうな壁画がくらいしか残ってなかった」
「へ、整備されてなきゃ本も朽ちちまうさ、セレンが甘くてよかったな。アレを無理やり入ろうとしてリンチに遭った奴もいたらしいから」
え、それはどういう意味?
「多分バレてたね図書館使ったの」
嘘、あの視線ってセレンのだったのか?
「はぁ、まあもう行く機会はないからいい思い出は出来たか」
「そうだねそれがいい、無理くり理由つけてストーカーみたいなことをするよりゃ健全さ」
まぁ仕方ないかな。
「......それに最近は何かと不吉だ、ひと気のない場所は避けるべきだね」
「不吉?」
「は~っ、お前は全く新聞を読まねぇんだな、ほらこれだよ」
「わッ」
新聞をポンッと置かれる。
『連続行方不明事件、今なお、犯人の目星は付かず
ソルテシアを賑わせるこの事件、被害者は推定で50名を超えている
アテリア家の娘も被害に遭い事態は日に日に悪化していくばかり
有益な情報を報告した者には報奨金が与えられる事となっているが目ぼしい
情報はない。些細な事でも至急連絡を――』
「どんな目的でこんな事を」
「興味ねぇ、オメェも気を付けろよ」
「なんで俺に限定するのさ」
「お前は厄介ごとを招き入れる体質があると思ってるからさ」
メイ婆、俺をどういう存在だと思ってるんだよ。
「はぁ気を付けるよ......あ、昼休憩中に俺出かけるからな」
「あ?構わんが、何か用事でもあるのかい?」
「あぁ、へベルナに会うんだよ、久しぶりにな」
メイ婆はへベルナの話題を出すと少しの間沈黙し。
「へベルナ......へベルナ=マギアフィリアかい?」
「え?そうだけど話してなかったか」
「いや......いいさ、なんでもない。久しぶりに会うんだろ?別に少し時間オーバーしたくらいなら大目に見てやるよ」
「お、ありがとうメイ婆ッ」
久しぶりのへベルナとの再会だ。
へベルナからはソルテシア内の食事処『魚の夢』という場所で会おうとハトから手紙が来ていた、『魚の夢』は名前の通り魚類をメインにした料理もあるが別に肉デザートも出すとの事、というかそっちの方が人気らしい、名前関係なくない?
へベルナの見た目は相も変わらずあの赤紫の髪にローブ、帽子だ。
セレンを見た後だとかなり幼い顔立ちに見える。
「......久しぶりですね、その様子だとまぁお変わりはないようで」
ただ一つ気になったことがあった。
「へベルナ、なんだか少し顔色悪くないか?」
「あー、働きすぎでしょうか、嫌だ肌荒れてないですかね......やだやだ」
へベルナはほっぺを触りながら少しわざとらしさも感じるように言葉を出す。
「大丈夫なのか?」
「アキラに心配される事はありませんよ、それよりもメイ婆でしたか、どうです上手くいっていますか?【
「あぁバッチリだ、最近も豊穣の森まで配達したからな」
へベルナは俺がその話題を出すとお茶を飲む手を止めた。
「そうですか、ちなみにどちらまで?」
「セレン=サタナックだ、へベルナは知ってるか?何でも豊穣の森周辺の地域じゃあ有名らしいぞ」
「ははは、知りません、セレン、サタナック。へえ」
へベルナはお茶の入ったコップを口につけたまま、そう口ずさむ。だがそんな状態をずっと維持しているのが不思議でしょうがなかった。
「へベルナ?セレンとは知り合い?」
「そんな訳ないじゃないですか」
「い、いやそこまで怒らなくてもいいだろ」
「怒ってないですよ」
「怒ってるじゃん」
なんだか空気が悪くなってきたと思った矢先に料理が運ばれてきた、俺はへベルナと同じ。
「いただきます」
そう言ってお互い食べる。
「......」
「......」
どれほど経ったか、お互い食べ終わったころ。
「それでさ、本当のところセレンとはどういう関係だ?」
「......私は知りませんよ、そのセレン=サタナックとやらは」
「本当?」
「本当ですよ、嘘なんてついてませんから」
「......まぁそこまで言うならそうなんだろうけどさ、なんで怒ったてんだ?」
「そうですね怒ってたのは本当です、ただアキラにではないですよ」
へベルナはそうやって微笑んだ、多分俺に怒った訳じゃないな。彼女の微笑みは魅力的だ、幼い顔立ち故の魔性の笑みというのだろうかそういうのがある。
「はぁ、良かった。何かへベルナの怒らせたのかと......」
「何を言っているんですか......あ、そろそろ時間」
「え、もう?」
「すみません、最近は何かと忙しくて。これでも時間を作った方なのですが」
お金を置くと席を離れていく。
「お金二人分置いていますね、アキラ頑張ってください。あと魔法の勉強も欠かさないでください、いいですね?」
「わかったけど、へベルナも休んでくれよ?心配だからさ」
「......ふふ、えぇわかりましたよ」
へベルナは静かに笑みを浮かべるけど、あぁきっとこの人は休む気はないな、そんな事をなんとなく思ってしまった。
■
「......あのさ、俺ははいま忙しいんだけど」
「お前からもへベルナに休めって言ってほしいんだ」
「俺からも頼むへベルナが心配なんだ、あんたも俺らを助けようと奮闘してくれた恩人なのは知ってる、そんな人にこういう事を頼むのはアレだけどさ、頼む」
そう云って来たのはパレハ=プロイントスと、鋭い黄色い狼のような目つきの狼顔をした獣人。筋肉質な肉体で全体的に灰色の身体をしており、黒いジャケットと黒い長ズボンの男、採掘場摘発の際にへベルナと組んでいた奴ザイルド=バルクルフもわざわざ来ていた。
「そんな事言われてもな」
「お前はへベルナがどうなってもいいのか」
「良くない、ただあの人が言って聞く人だと思うのかパレハ」
「それは......」
へベルナには前にも昼食を一緒に取った時に言っておいたが案の定というべきか休む事はしなかったようだ。
「......それに言えって言われてもどこにいるのかわからないしな」
何かと忙しいへベルナだ、特に家の問題を抱えていたりするようだったし、今どこにいるのかもわからない。
「......俺も心配だから今度会う機会あったら言っておくよ、場合によっては力尽くでな」
まぁ勝てないだろうけどな。
「お願いする、僕も彼女には昔から世話になったから心配なんだ」
「んじゃアキラ、今度は時間あったら酒でも奢らせてくれ」
パレハとザイルドはそのまま店を立ち去っていく。
「......へベルナ」
何だか心配だな、あの人の事だから自分の体調管理は出来ていると思いたいが。
そんな事を考えていると遠くになんだか見覚えのある姿を目にした。
「......」
ウロチョロとして、時折こっちを見る、そしてウロチョロと、あの姿には見覚えがある。
「......もしかしてセレン?」
セレンだ、もう会う事はないかもしれないと思ってたから少し驚いた。
しかし、何をしているのだろうか今度は大きな声で話しかける。
「おーいセレン、どうかしたのかぁ!?」
「ッ!」
多分話しかけられたと気づいたのだろう、そのままズンズンと歩いてきて
「ぅ......おはようセレン」
目のまえに近づいてから――
「――ふんッ」
えー、一瞬見てからプイッと顔を背けられ、そのまま店内の奥へと歩いていく......。
「今メイ婆はいないぞ」
「え、そうなの――ぁ」
セレンはメイ婆を探しているのだろうと思い、話すとセレンはさっきまでのツンとした表情からは一転して柔らかな表情をしていた。
「そうなの、んッ」
しかし、一瞬で表情を戻して口をへの字にする。
「あのさ、俺何かした?杖を壊したのは悪いとは思ってるけどさ」
「別に」
「......メイ婆はすぐ戻ると思うけど、どうする?」
「どうするって?」
「いや、中で休んでて良いからさ、外で待ってるのも疲れるだろ」
しかし、セレンはそんな俺の気遣いが気に食わなかったようだ。
「舐めないで。いいわまた来るから」
「来るってまた森に戻る気か――」
「じゃ」
外にズンズンと歩いていく、そんな気迫に少し押されて出口の道を開けて、セレンはそのまま帰っていく。
「セレン。またなぁ」
セレンが歩いていく背中に向かって別れの挨拶をするものの淡々と歩いてき、彼女は一度たりとも止まる事はなかった。
「また来るのにわざわざ森に戻るだなんてな......要件だけでも聞いておくべきだったか」
ただ俺が聞いても話さなかっただろう彼女はメイ婆そこまで信用しているという事だ。
それはそうだ、メイ婆は昔、村が元気だったころから知っているのだから。
「あーあ、セレンともう少し話したいのになぁ」
店内に入ると店の品の中に場違いに綺麗で少しだけ傷のついている金のロケットペンダントがあった。
「......これって」
セレンのだ、間違いない。
「大切なモノだろうに、落とすなよな」
多分帰る時の勢いで外れたんだ
「後で来るらしいから、それまで預かって――ぁ」
うっかり中の写真を見てしまった。
左には水色の髪の男、右は白っぽい緑髪の女、中央には弱い青緑髪の少女が杖を両手で持って無邪気に輝くような笑顔で幸せそうに笑っている。全員耳が長くてエルフであることが想像できた。
中央がセレンで二人は両親、なのだろう。みんなとても幸せそうだ。
......こんなのを見たとバレたら本当に会ってくれなくなりそう......
「俺は見てない、見てないぞ......」
そっと、店の奥に置いておく、俺は見ていませんッ。
◆◇◆◇
新しい壊れた物をメイ婆に渡そうとしていけどあの人がいたからやめた。
「......」
やることがないから屋敷の中にあった魔道具やら骨董品やらすべてをひっくり返して、壊れてるか壊れてないかを吟味する。
「これは......壊れてる。これは......壊れてない」
サタナック家はメルグリッダから師事を受けていた家、最後まで叡智の民としてヘルメスの村を守っていた家。だから貴重なアイテムは豊富にある、売れば家の一つは夢ではないくらいに貴重なモノだってある。
でも何回やっただろう、今年で何百回やったのか。同じ用にひっくり返して吟味して壊れてるか壊れてないかを選別して壊れてたら修理に出すの。修理に出すためのお金を作る為に冒険者業もしたことがあった。
「あ、これは壊れてる」
魔道具『夢幻御香』
木箱の中にはある香が入っていて、それを寝るときに使うとリラックスできるというものだ、魔法の御香だから長持ちと言っていたけれど、既に香りはしなくなっていた。
これは昔......あれ?
「名前が思い出せない、良くして貰ったはずなのに......」
20年前くらいだったはず、すごく良い香りのする人。彼女が来た頃はまだ村は辛うじて機能していた頃だから大体の時期の見当はつく。
久しぶりの客人だったのに上手く会話が出来なかった、だけど彼女は穏やかに会話をしてくれてそんなあたしを心配してこれをくれたのだけど。
「これはメイ婆でもどうにもできなさそう......」
そんな事をしてたらもう午後とっくに過ぎていた。
......そろそろ行かないと。
■
「......おかしいな、もうすぐ日が暮れるぞ」
流石に遅すぎる、何かあったのか心配になってきたぞ。
「本当に来るって言ったのかい」
メイ婆が店内から声をかけてきた。
「言ってたって、それにロケットペンダントも見せただろ」
それも返さないといけないし、今日来なかったらまた行くことにしようか?
「あ、来た」
セレンはとことこと歩いて来た。
「......――ぁッ!」
俺が見ているとわかると、すぐさま『へ』の字になる、もう見たらわかるくらいにわかりやすい。
「メイ婆がお持ちだ」
「そう」
「用事はなんだい?」
「話す必要ある?」
まぁいつもの感じだな。
「おいおいお前、首元にあったはずの奴がないの気が付いていないのか?」
「え?」
セレンは首を触るとようやくロケットペンダントがないのに気が付いたようだ。
「嘘、何処に......」
今まで見た事がないほど動揺している、俺に魔法を撃ってヒールをしていた時の顔だ。
「どうして、もしや――アンタッ!」
「え!?」
そう言って襟元を掴んで持ち上げて来た、いや、やばいやばいッ、痛い!
「ちょっ待てッ、これこれ!」
「――!」
「痛ッ!」
ポケットのロケットペンダントをどうにか見せたら今度は落とされた。ケツから行ってしまい、もう立てない。
「いっつつ、お前なぁ......」
「アンタ盗ったわね!信じられないッ!」
「馬鹿ッ盗ってないっての!」
「もういい二度と喋らない、もう村にも来ないでッ!」
「誤解だって、落ちてたのを拾っただけで――」
駄目だ全く聞く耳を持たない、やってもない事疑われてんのこれで二度目だぞ......
「セレン」
呆れた様子でメイ婆が出て来た。
「メイ婆、この人は泥棒よッ」
「お前も大概にしろ、そいつが店の中に落ちてたのを拾ってくれたんだよ」
「へ?」
セレンはさっきまでの怒りの表情から打って変わって困惑している。
「そいつが拾ってなかったら適当に売り払ってたかもしれないね、ここは色々と品物がある、アタシも把握してきれてないからねぇ」
把握できてねぇのかよ。
「......」
「そいつとは上手くやっていけてる方だろ?お前の好き嫌いは良いけどね、せっかくのもん自分から壊すなよ」
セレンが今まで見た事ないくらいにショックを受けてる、というか俺とセレン上手くやっていけてる方なの?
「そ、その......あの」
セレンはものすごくもじもじとして
「......ご、ごめん......なさい......」
あら、頭を下げて素直に謝った。
「......あたし帰る」
そして、そのまま走って帰っていった。
「行っちまった......」
結局セレンはメイ婆に何を頼む気だったんだ?
「......魔道具の修理だろうね」
「魔道具、セレンはそんなに魔道具持ってるのか?」
「あぁ、前に行ったけど彼女はサタナック家は暫定的とはいえ村長の娘だ、それなりに持ってるだろうね、ただ――」
メイ婆が言うには、ここ10年間毎回通っているらしい。しかも時には前に直した魔道具も持ってくるというのだ、流石におかしいと思っているようだが......
「ま、あぁいう性格だろ?言ったらもう来なくなりそうじゃねぇか」
「......確かに」
「アタシからしてみれば金が定期的に入るから文句はないんだが......そうだね、いつまで触れないのは彼女にとっては良くないのかもしれない」
「......」
......どうしたら、いいんだろう。なんとなくセレンは人が嫌いという感覚はなかった、さっきの謝罪からも彼女は言動から見ればかなり気が強い感じだが、プライドが高かったりして虚勢を張っているだけな気がする。
それにメイ婆のような親しい人と話す機会は得ようと思ってたりしてるのだろうか?
......賭けだけど、試す価値はありそうだ。
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