隕石激突によりエイリアン的な変身能力を取得してしまった転移者はロマンを求めて奮闘する!(更新中止)

村日星成

序章 はじめまして編

第1話 さようなら


子供の頃は夢を見てた、海底、宇宙、人類未開の地はどんな所なのだろうか。

俺はそういう超常的なモノにロマンを感じて、それを求めていた。


だけれど、現実は普通に就職して、続かなくて辞めた馬鹿な男、そんな俺。


そもそも、宇宙や海底、そういったモノにロマンを求めるには俺は早く生まれすぎた、もう少し遅く生まれていれば科学技術も進んで大航海時代のような未知の発見が起き続け、ロマンを求める事もできただろう......多分


黒髪のオールバックに中肉中背、健康問題特になし、22歳、既に地に足ついているつもりだし、大体ロマンなんて求める前に現実の問題にぶち当たっていた。



仕事を数カ月で辞めてしまったのだ。


「はぁ~」


暗い気持ちを打ち消す為に外で散歩しているが......


やはり合わない仕事なんてやるべきではない、過去の自分に言いつけてやりたい。

ちゃんと考えろよと......


「明日は平気だ貯金はある、ダハハハッ......はぁ」


苦労してやっと見つけた仕事を辞めた男。


「ダメだ、ダメだ、ネガティブになっちゃあ......」


俺は基本的に楽観的でポジティブだ、母さんが亡くなった時だって立ち直れた、友人も多いとは言わないが普通にいる、俺はまだ幸運な方なんだ。


「俺より不幸な奴はいるんだから、嘆いていたらダメだよな......男、藤原ふじわらあきら、ここで嘆いてちゃぁ、母さんに笑われる!」


歩くのが疲れて、なんとなく曇天の灰色空を見上げる


「今は......笑えるけど、1年後、10年後も今見たいに笑えてるといいな......」


愚痴を零していると額を水が濡らす。


「冷たっ!」


ポツポツと雨が降り始める。


「げっ雨かよ、やっぱ図書館に籠るべきだったか......」


最悪だ......と思っていると空から光る玉が現れた。


「......ん?」


太陽......のはずがない、曇天の空を白く光る何かが徐々に近づいて来る。


「え」


逃げた方が良いかもと思った時には


「あっ――」


目の前が真っ白になった――





その光に包まれる、真っ白い光。


だが――


それは決して暖かいモノではなかった

とても恐ろしい感覚だった。


自分という存在が遠くになる感覚。

なにかが結合していく感覚。


思い出、歴史、関係......

喪失していく......断絶していく......


いま起きている事は尋常ではない事だ。

こんなのはいきなりすぎる、俺はまだ......



だけど――



きっと――



もう――




◆◇◆◇





なんだ?



激しい光と轟音が響くが何だなんだかわからない、ただ一つわかる事は――

「――へ?」

恐らくものすごい標高を頭から落ちている事だ。


「――(なんだ、どうすればいい、死ぬのか!?)」


光のおかげなのか、風圧は軽減されて痛みは感じてはいない、しかし落ちたらどうなるか。


「ヤバッ」


頭が回らずにいると、地面に近づいてくのが景色からわかる。


「――っ!」


うっすらと都市のようなモノが見えたのを最後に

「――」

流星の如く落ちた日野晃は森に落ちていく、視界は真っ黒くなり。


激しい爆発音が森中に響きわたるのだった。






視界が真っ白になったり真っ黒になったり忙しい。

内心そう思いながら、両手を使い立ち上がろうとする......

「......っ.......っ!死んでない!」


思わず両手を二度見する、普通に起き上がろうとしたが、死んだと考えていたからだ、身体の状態を確認するが五体満足のようだった。


「はぁ、よかった......」


辺りを見回すが、木、木、木と変わり映えのしない景色。

木漏れ日が森を幻想的に照らしている。


「......なんなんだよここは」


転生......いや、転移......なのだろうか、もしそうなのだとしたら、何か特典のようなモノが欲しい、いや、ないと生きていける気がしない。


「......とにかく落ちる時に見えた町に向かうか......」


我ながらやけに冷静な気がする、漫画とかで予備知識があるからか?......正直座り込んで考えたいが。


「そんな余裕ないしな......」


誰かに見つけてもらう、保護してもらうのが先だな、そうすればするべきこともわからだろう。


「......っ良し、せっかく異世界に来たんだ、気持ちだけでも楽しまないとな!」


気持ちを切り替えよう、日が暮れればまずい急ごう。


「初めての一歩!」


男、藤原晃22歳はこうして異世界生活の一歩を歩むのだった――







しかし、人生は甘くはなかった――


「まずい、まずい、まずい!」


森の中を獅子から逃げながら駆けていく、どういうわけか森の中に獅子がいた。

そして俺を見るなり襲い掛かってきた。


「わぁぁ!」

俺はそんな簡単に死にたくないんだよ!


緑色の身体に青いタテガミに黄色い瞳、ただ大きさは口だけで大人が3人くらいは入りそうだ。


「(変な方向に逃げすぎると、本格的に森に迷っちまう!)」


こんなのがいるような森に長居はしたくない、その為、右に左に動きながら繰り返して、できるだけ真っ直ぐに行くように逃げていたが。


「(そら、あっちの方がスタミナはあるよな)」


冷静に考えればそうだ、だが時すでに遅い。


ッ!?

紫色の光が腹を貫いていく。

「イイッ!?」


腹から感じる今まで味わった事のない熱、激痛、耐え切れず

勢いのままに大きく転んでしまう。


「グルルル」


笑っている......あの獅子は馬鹿にするように笑みを浮かべて、近づいてくる。


「クソッ――」


動こうにも腹の傷で動けない、痛みを我慢するので精一杯。


「どうすれば、俺は......」


死にたくない。せっかく転生、出来たのかもしれないのにこれじゃあ死んでも死にきれない。


「顔色悪いライオンがよぉ......」


腹に空いた穴は手で押さえても血がドバドバと零れ落ちている、素人目に見ても致命傷だろう。


「あぁこのまんま死ぬなんて......嫌だ、嫌だなァ!」


ルンルン気分を壊された事と自分を今にも殺そうとしている事、力がない自分が恨めしい。


「――うおおおおぉ!」


全力で立ち上がる、血が噴き出るが我慢する。痛みは大声で誤魔化し、全力で獅子に向かって走る


「――」


獅子は突然に大声を発しながら殴り掛かってきた事に驚く。


「ラァッ!」


思いきり奴の顔面を殴りつける、獅子は怯むが――


すぐに立て直し爪を立てて――


「――ッ」


上肢を切り裂く。



これは死んだ。


血しぶき、痛み、そしてすぐに痛覚が無くなり意識が飛んでいきそうになる。


なんなんだ、なんでこんな簡単に!

俺はまだ何もしていない、何も成しえていないのに!


――ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな!


異世界転移してすぐ死ぬなんて、嫌だ。死ぬのも嫌だが、童貞のまま死ぬのは嫌だ!この世界で誰も俺の事を知らない中、人知れず死ぬのは嫌だ、この世界の事をロクに知らないまま死ぬのも、何も成せないまま、何も残せないまま死ぬのも嫌だ!


「――」


そんな思いに呼応するように身体の内に『なにか』を感じる、熱......力......今にも溢れようとしているそれは、意思のようなモノにさえ感じる――




――死ぬな、戦え――




そんな強い意志を感じた、あふれ出る力、俺はそれを逃すまいと集中する、これが何の力かなんてどうでもいい、俺が今死なないなら、どんな奴の力だって使ってやる!




――力を貸してくれ!





獅子は爪を立てアキラを殺そうとした時――


「――!?」


先ほどまでにあった弱者の気配は消えた。


いや人間の姿もどこかへ消えていたのだ

一体何事か

逃げてばかりだった人間が、何か奥の手を使ったのか――


ビュンッ


「――」


右上から紫色の光玉が獅子を狙い放たれるが外れる。


「ッチ」


舌打ち、獅子はすぐに気づき、光玉が撃たれた方角を見ると――





「しかしこいつは凄いなァ、これが特典なのか」


樹の上には人型ではある決して人間ではない異形の姿をした者、アキラである。


「今の俺は誰にも負ける気がしねぇな」


全身をオレンジ色に変化させ、頭部から2本の真っ赤なクリスタルが角のように反りあがり、額の中央に青い水晶玉が埋め込まれている。


「ハハハッこれは良い、絶好調だ!」


肉体は中肉中背であった元の姿よりも筋肉質に変化し、鋭くなった目と髪は燃えるように真っ赤な色に変わっていた。


アキラは気持ちの高揚を抑えられない、生物として上位の存在になれた気がした、こんな獅子に何の恐れも感じない。


「逃げた方がいいぜ、ハッ!逃げられればな!」


獅子は既に逃走していた、勝てそうにない相手に時間を割く必要はない、しかしアキラはそんな獅子が逃げた方角に向けて。


「『フレア』」


彼には魔法なんて使えない、覚えていないからだ、そもそも魔法の名前を知らないのだ。しかし不思議と呪文が言えた、なぜなのか、アキラ自身もわからない。


アキラの右腕から出たいくつもの炎の玉は獅子の逃げる後ろ姿にまるで追いかけるように飛んでいく。


ダァン!


大きな爆発音と共に真っ赤な炎が森を深紅に染める、そんな姿を茫然と見つめるアキラ。





「......初めて魔物?を倒したのか......」


なんだか嬉しい気分になってきた、意気揚々と獅子が燃えている所に走り寄る。自らの戦果を確認するためだ。


「へへっ、とにかく戦闘方面はどうにかなるな!」


静かに燃える残骸を見て......少し冷静になってくる、炎の魔法を使ってしまった、このままでは山火事になるのではないか?


「......まずい」


まだこの姿を維持できている、そもそもどうやってこの姿になったのか、さっきの魔法も感覚でやったためによくわからない。......だがそんな事より

「とにかく急いで消火して!......あっ水が!」

近くに水がない、水魔法とかあるなら早く使いたいが、魔法の使い方がわからない。


さっさと逃げればいいのだろうが、どこか後ろめたさを感じて逃げずにいると――


「――!」


後ろから誰かの声が聞こえて来る、このままだと俺が森を燃やしただけの悪党に思われてしまうだろう。


いや、もう既に――


「『クロスブレイド』」

「ッ!?」


声が聞こえ振り向いた瞬間、縦と横に大きく切られる、この姿じゃなかったら恐らく4当分にされていただろう。


「まっ――」

「問答無用!」


ライトイエローの髪をした男は騎士なのだろうか、白い鎧を着て、俺に対して攻撃を仕掛けてくる。なんて奴なんだ、ここじゃあ攻撃をするのが礼儀だとでも言うのか?


だったら


「礼儀だったら、返してやるよ!」

「フンッ!」


思いきり殴るが容易く避けられる。

右に左に攻撃しても、避けられて......完全に実力も経験も負けている。


「『アクアスライス』」


奴は俺に攻撃すると同時に森の火事を水の斬撃で鎮火する。相手はこっちだけではなく、戦いながら鎮火する方法を模索していたのだ。勝てる見込みがない。


「くッ――」

「っ逃げる気かッ」


しかしわざわざ戦う必要もないだろう、第一ここにじっとしていたのは火事が心配だっただけだ、俺にとってこの勝負の勝敗なんてのはどうでもいい、生き残る事が一番なんだ、誇りも守るモノもないからな!


「当たり前だァ!」


捨て台詞を吐いてすぐに逃げる、もうどの方角に町があったのかなんてわからない、

すぐに追いかけてくるだろう、地の利をどう生かすか、この姿のタイムリミットがどれくらいなのだろうか。


「ッ!」

「――」


背後の気配を感じ取り、振り返る様に殴り掛かるが容易く避けられ、横腹を切られる。


「ッ!!『フレア』」

「――グァッ!」


反撃の隙に赤い炎の玉を解き放ち騎士と後ろの木々諸共、炎で吹き飛ばす。

思いきり炎を出した為かかなりの距離飛んでいったようだ。騎士を後目に逃げる、あの炎もすぐに鎮火して追いかけてくるはずだ、逃げなければ、誰にもわからないところへ。


「はぁ、はぁ......」

  

どれだけ走ったか、気が付くと大きな川にたどり着いた。


川か......


かなり流れが荒い、茶色っぽい事から前日は雨だったのだろうか、かなり危険だ......ただ躊躇しているわけにはいかない、さすがに泳いだとは思わないだろう。

深呼吸して、一気に!








「――(無謀だったか......!)」


川の流れに乗って泳ぐがあまりに無謀だった、せめて浮き輪の代わりになるようなモノくらい即席で作るべきだった、後先考えずに行動しすぎだ、そうやっていつも後悔している癖に......こんな自分が嫌になってくる......。


それに体の調子もおかしい、というより変身する前の力になっていってる気がする。


「(まずいぞ!変身が解けたら、すぐ溺れる!)」


身体の状態はもとに戻っていく。


「――」


凄まじい倦怠感と眠気......駄目だ!ダメなのに......こんな所で眠るなんて正気じゃ......

あの姿になった反動......なのか......


泳ぐ速度も落ちて来て、辛うじて溺れないようにするが



意識はドンドンと飛んでいく――



頭の思考もドンドン止まって行って――



真っ暗になった――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る