第25話 気付いたから

「それでね?ソウマくんがニコって笑ってまた来てねって!やばくない!?あのクールなソウマ君が笑ったの!!」






「私にも笑ってくれた!」







「まじ!?今日はご機嫌だったのかな?」







サイン会が終わった後も余韻が解けず、私達は会場の近くのカフェで盛り上がっていた。







「また頑張って当てなきゃああ」









ほんとだね。なんて返そうとしたとき。








携帯の通知が鳴る。








何気なしに開いた私は目を剝く。






「ぁ」







「なに?どうしたの?」








「まさか例の、、、」








「ち、違うの。詩音じゃなくて、、、」








「え?」








黙って携帯を差し出すと、香織も私と同じく驚く。










「こいつっ、、なにを今更っ!」









途端に香織の感情が怒りへと変わった。






私も同じ気持ちだった。







「ほっときなよこんな奴、、会う必要なんかない。時間の無駄よ無駄」







「…でも」








「何、まさか本気で会う訳!?」






私は少し考えてから






「未練があるとかそんなんじゃなくて、、あの人とのことはちゃんとしたいの。

ちゃんと会ってそれで、、あんたなんかもう顔も見たくないって、そう言ってやる」





心を落ち着かせてそう言った。






「…かっこいいじゃん。私はてっきり復縁するつもりなのかと、、

そういうことなら喜んで送り出す。

ガツンと言って今度はあいつを泣かしてきてやりなよ」








「うん。行ってくる」








少し前の私なら香織の言う通り、寄りを戻すために会いに行ったかもしれない。








私のどこがいけなかったのか問いただして彼にみっともなく縋ったかもしれない。








だけど今は、、、あの人以上のぬくもりを知っているから。









初めてだった。







寄り添われて抱きしめられて温かいと感じたのは。







詩音が初めてだった。








付き合っていた彼に抱きしめられたことはもちろんあったし、それ以上の事もした。









なのにたった一度抱きしめてくれて寄り添ってくれた詩音から感じた温もりは感じたことのなかったものだった。








その時に気付いた。









私は本当に一度もあの人に大切に思われていなかった。









愛されていなかったんだと。










あんなに酷いことをされたのにまだ好きだった私はきっと初めて愛した人だったから。








それだけだった。







悔しい悲しい苦しい辛い辛い辛い









その事実に行き着いた時、私を襲ったのはそんな行き場のない感情だった。






けどその元凶がチャンスとなって私のもとに戻ってきた。







だからその思いをぶつけるために会いに行く。









ーーかつて愛していたあの人のもとへ。

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