イオ1 火山

イオは怒っていた。

彼女が起こっていないときなどなかった。

火口からあがる噴煙は、火山のそれだけではない。

ここは彼女の一族の土地だった。

(何の理由があって、私たちを奪うことができるのだ)


黒竜の臓物は、どうやらどんな重病も直す万能薬になるらしい。

その鱗は、高価な衣装になるらしい。

そしてその炎を灯した瞳は、権力の象徴に相応しい、らしい。


(私たちは)

竜の力を宿し、また共に生きてきた一族は、実験、研究の材料になるらしい。

誰の? 何のため? 私たちは、誰かに利用されるために生きてきたわけではない。

『君たちには、君たちが理解できない価値があるのだよ』

『恐ろしい、破壊の力。私たちが、うまく活用してあげるから』

『感謝なさい』


私たちは、誰かのために生きているわけではない。

イオの背に、蝙蝠のそれに似た翼が生えた。

「私は、黒竜の姫イオ。許さない。この恨み、絶対に張らしてみせる」

(父さん、母さん、おじい様、おばあ様、みんなみんな、私がこの背に背負う)

この日、この痛みを絶対に忘れない。


イオは右手の平にナイフを当てた。

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