第57話 千年後に残ったもの

 不思議そうにしながらも食堂に向かうツギオの上から音が聞こえてきた。

 

 ブォン!ブォン!


 爆音を鳴らしながら、暴走族が頭の上を通り過ぎていく。


(ああいうのも継承されてるのかな?)


 空飛ぶバイクに乗って爆音を鳴らす暴走族に苦笑するツギオ。

 すると、バイクの一つが上から隣に降りてきて、ヘルメットを外した。


「あれ? モチさん?」

「おうツギオ。千年箱のやつ見るんや?」


 町の先輩のモチさんがツギオの隣で笑う。


「モチさんは見ないんですか?」

「俺は後から見るわ。これからツーリングやし……ていうか、その薔薇どしたん?」


 苦笑してツギオの持つ薔薇を指さして笑うモチさん。

 すると、ツギオは薔薇の花束を胸に掲げて言った。


「どうです? 胸に情熱の薔薇が咲いてるみたいでしょ?」

「どっちかってーと、薔薇の胸毛って感じがするわww」

「ひでぇっすww」


 そう言って笑うモチさんとツギオ。

 ミチさんは笑顔で手を挙げた。


「ほんなら行くわ」

「そうっすか……頑張ってください」

「おう!」


 そう言ってヘルメットをかぶり直して……


 ブォン!


 爆音を鳴らすモチさん!

 そして、出てきた時と一緒のように爆音を鳴らしながら去って行った。


「また逆走とかしなきゃ良いけど……」


 苦笑しながら、その場を後にするツギオ。

 そうこうする内に鶴来屋食堂に辿り着いた彼だが、一番最初に目に入ったのは……


「すんません……申しません……」

「何回浮気すれば気が済むの!」


 食堂の隣の家の玄関先で奥さんに怒られて土下座している男だった。

 それを見てくすりと笑うツギオ。


(これも代々継承されてんだろうなぁ……)


 どうも浮気を咎められて怒られているようで、男の隙の無い綺麗で完璧な土下座は誰かさんを彷彿させる。

 とりあえず、その脇を通り過ぎて鶴来屋食堂の中に入るツギオ。


「おーツギオ!」

「やっと来た!」


 同じ古屋形町の青年団のメンバーが集まって酒を飲んでいた。

 

(……やっぱ、こういうのって良いよな……)


 思わず笑顔になるツギオ。

 どうやらテレビ中継されているようで、リポーターが実況をしていた。


『皆さん見てください! あの久世将軍が未来に向けたメッセージが! とうとう開かれようとしています! 歴史的瞬間です!』


 リポーターが興奮して開かれる様子を実況している。


「あら、どしたん? その薔薇?」


 食堂のおかみさんが不思議そうにツギオに尋ねる。


「そうなんすよ。タカさんに薔薇を俺の代わりに生けてくれって……」

「いやいや……あいつの代わりが薔薇っておかしいやろ? あのラフレシアが何をカッコつけとるん?」


 酷い言い方だが、ツギオが成り行きを説明すると苦笑した。


「御先祖の久世将軍が薔薇好きだったんか……それならわかるわ」

「僕は逆にわからないんだけどなぁ……」


 歴史に名を残す英雄として知ってる女将さんは何やら感心していた。


(どう考えても薔薇とか似合わない男だったのに……)


 不思議そうに首を捻るツギオ。

 女将さんが笑顔で言った。


「そこの花瓶に水入れて生けといて!」

「俺、生け方なんて知らないっすよ?」

「適当で良いから! 後で直すさけ、入れるだけ入れといて!」

「はーい」


 言われた通りに薔薇を花瓶に生けるツギオ。

 薔薇を生け終わると、メンバーの一人が声を上げた。


「おっ! 千年箱が開かれるぞ!」


 テレビの実況では、古い箱が開かれており、中からボロボロの手紙が出てきた。

 宮司さんが大切に保管したもののようで、壊さないように慎重に開いている。

 すると、メンバーの一人が言った。


「何かすげぇ難しそうにやってるけど、実は先に中身を開いてるって話だよな?」

「そうなん?」

「だって、千年前の文字なんて簡単に読めないじゃん? だから先に開いて写真に撮って、古文の専門家に読んでもらってるって話しだぜ?」

「それを今言うなや!?」


 そんなやり取りをするメンバーの話を聞いて苦笑するツギオ。

 そしてテレビの中の宮司さんが読み上げ始めた。


『あなたがこの手紙を読むころには私は天国にいることでしょう。流石に千年も生きることは出来ないですから』

「いや、当たり前だろ!」


 メンバーの一人が入れたツッコミにどっと笑う全員。


「何か面白い性格してるなぁ……」

「青年団に入って欲しい……」

「いや、それもおかしいだろ!」


 口々に変なことを言いあう面々。

 さらに手紙は読み進められる。


『大変な苦労をされましたね?


 無くなりそうになること。

 非難されること。

 興味を持たれなくなること。

 無駄と言われること。

 要らないと言われること。


 色んな事があったと思います。

 そんな中、ここまで続けてきた事に、まず感謝させてください』


「「「「「……………………」」」」」


 この言葉に全員が静かになる。

 この場にいる全員がこの千年間の世界の変遷を知っているのだ。

 宇宙人の戦争に巻き込まれたことも、それ以上に凄いことが起きていたことも知っている。


 だが、


 しかもその土地だけでなく、宇宙を超えたコロニーの中にまで継承してきている。

 そして、宮司さんがある文章を読み上げる。


『最後にこの言葉で締めくくられております。『皆さんへの感謝の気持ちを込めて、この歌を贈ります』と……』


 そして宮司さんが静かにその歌を歌った。



 千年先まで想いよ届け お祭り馬鹿野郎ありがとうよ



 その歌を聞いた瞬間、ツギオは何のことかわかった。


「タカ……」


 隆幸が誰の為に贈った歌なのかがわかった。

 不思議と涙が流れてくるツギオ。


「こっちこそありがとう……」


 ツギオは誰にも聞こえないように静かに言った。


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