第50話 現れたのは……


 まあ、結局お流れになった訳だが、結局4人は公民館の方に戻ることになった。


「どこで気付いたんだよ?」

「だって急いで帰ったから、絶対何かあったなって思って……」

「タカって意外とわかりやすいのよね」

「自分のこと賢いと思ってるけど思考は丸わかりなんだよな」

「うるせぇ」


 他愛もない話をしながら公民館へと戻る4人。

 くだらない話をしているのだが、羅護だけは違った。


(ようやく元の鞘に戻ったな……)


 実は一番心配していたのは羅護だった。

 隆幸とは古い付き合いなので、最近ふさぎ込んでいるのを感じ取っていたからだ。


(自分の殻に閉じこもっていたからなぁ……)


 本当の隆幸はこんな感じなのである。

 上手く行かなかった受験で色々と歪んでいただけなのだ。


(でも良かった……これでまた付き合うようになるだろうな……)


 何だかんだで友達思いの男なのである。

 4人はなごやかに話していたのだが、不意にツギオがにやりと笑った。


「さっきのは天空の聖女ラ・ピュセルのプロポーズみたいだったね?」

「「「……プロポーズ?」」」


 訝し気な顔をする三人。

 遥華が不思議な顔をする。


「そんなシーンあったっけ?」

「……あったかな?」


 有名なアニメなので二人とも何度か見ているのだが不思議そうにする。

 隆幸も不思議そうにしている。


(そんなシーンねぇだろ?)

 

 最後のシーンを何度も思いだす隆幸だが、そんなシーンは無い。

 するとツギオが何かに気付いて笑って言った。


「……あっ! 今の無しね!」


 慌てて否定するツギオだが、ますます訝しむ二人。

 すると何のことか気付いた隆幸が慌ててツギオと肩を組んだ。


「馬鹿。違う作品と間違えただろ!」

「そうだった! ごめんごめん」


 そう笑って誤魔化しながら、隆幸はさらっと二人から距離を取る。

 そしてツギオに尋ねた。


「お前……何と間違えた?」

「ごめん……を間違えて言っちゃった……」

「……正史と演義?」


 聞きなれない言葉に訝しむ隆幸にツギオは言った。


「実は……」

「……どんなふうに分かれるんだ?」

「正史は古典に準拠してなるべく同じように描くやり方。演義は大幅に脚色や追加したりして原型をかろうじてとどめる程度のリメイク」


 現在においても古典をそのままリメイクすることはまずない。

 シェイクスピアとて、作る人によって個性が出て、より強く再現する者も居れば、全く新しい形に変えることもある。

 未来における正史と演義とは、そういった意味合いで使われているようだ。

 同じ三国志演義でも忠実に再現しようとする者も居れば女体化する者も居るようなものだ。


「そんで、ラ・ピュセルは『立谷ラ・ピュセル演義』ってのがあって、そっちがメジャーになってるんだ」

「……二次創作が原典を超えたのか……」


 往々にしてこういったことは多々あるのだ。

 それが物語作りの醍醐味と言えば醍醐味なのだが……隆幸はあることに気付いた。


(ということは……?)


 怪人の乗ってきたタイムマシンには「正史」ポスターが貼ってあったことになる。


 ざわり……


 それを考えた途端、隆幸の心にざわめくものが出てきた。

 そして、それが少しずつ形になっていくのを感じた。


(……じゃあ、あの怪人は俺達の関係者? でも一体何で? ツギオは未来ではただの一般人だろうに……)


 ゾワリ……


 その瞬間、隆幸はあることに気付いてしまった……


「どうしたのタカ?」

「何やってんだ二人とも?」


 遥華と羅護の二人が不思議そうにツギオと隆幸の近くに来る。

 そして隆幸は見た。


 渋谷の怪人が道路の先に佇んでいることに!


 やや距離があるものの、


(何であいつがここに……まさか!)


 そして、隆幸は大事なことに気が付いた。


(……怪人は未来では要人暗殺などにつかわれる……ツギオはこっちでは未来人だが、向こうではただの一般人……)


 そう、様々な分野での重要人物の暗殺に使われるのだ。

 例えば……


!)


 そして、隆幸はツギオのある言葉を思い出した。



 タカはね。



 怪人は隆幸を見るとにやりと笑った。


 ミ・ツ・ケ・タ


 こう呟いているように感じた隆幸は思いっきり叫んだ!


「お前ら逃げろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 隆幸は三人を突き飛ばすと同時に怪人は襲い掛かってきた!


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